近未来SF短編集 in United Corporation of JAPAN
あのワタナベ
0001
警備員
シフト表をチェックして、俺は嘆く。外回りだ。
「どうした?」
隣のロッカーの前に立つ友人、
「いや、今日の任務が外回りだった」
ため息混じりに返事をする。
「そいつはご愁傷さん、と言いたいが俺もだ。終わったら呑みに行こう」
「おう」
拳を突き合わせ、気持ちを仕事モードに切り替える。
糊が利いたクリーニング済みの制服。カーキ色の胸元には会社名が誇らしい。
制服の上に重たい防弾ベストを身に纏い、ヘルメットを被る。拳を握ると合皮のグローブがギシッと音をたて手に馴染む。首から
ロッカールームを出ると人の列。IDをスキャン、端末で業務表のチェック。配置を告げられ、装備品を渡される。
「今日は11
ひとりごちていると。
「同じ車両だ。今日もよろしく」
後ろから別のビズバディに声をかけられる。
「お、よろしく」
IDに視線をやり、拳を突き合わせる。2週間に一回くらいは同じ業務につくバディだ。もう何回も組んでいる。
慣れた相方というのはありがたい。どう動くかというのが分かっている。ヘルメットのバイザーモニタにビズバディの動きは表示されるが、それを見る前に予測できるのは負担が減る。
ベストのポーチにマガジンを2本づつ。腹の四カ所に8本、腰に2本挿し、一つはカーゴパンツのポケットに突っ込む。ライフルは背負ったままだ。車両に乗り、指示があるまでマグはライフルに挿さない。それが服務規程。違反者は
「チーム0823! オンポジション!」
「オンポジション!」
チームリーダーが声をかけ、チームメイトが復唱。今日の8便目、23両に乗るメンバーが集まった。
「トゥデイズデューティ! アクティブディフェンス! スタンダード
任務内容が告げられる。標準交戦規定に則った貨物列車の護衛任務ということだ。
指示は簡易な英語で端的に伝えられる。詳細は眼前のバイザーに翻訳された文章で補足される。社員は国籍が様々、出自も同様。
口頭ではネイティブでなくても理解できる簡易な文法しか使われない。それも最低限。なので名詞と動詞ばかりの定型文になる。何をこうしろ、もしくは何々するな。
実にシンプルだ。
我々は軍隊ではない。ただのサービス業の会社員。提供するのは安全と鉛弾。会社の敷地内を保全する警備員だ。発砲は社の敷地内でしか許可されていない。
もちろん武装も同様だ。会社の敷地から一歩でも出たら一般人。違法に武装した犯罪者として現地警察に逮捕、もしくは射殺されるだろう。
だが勤務地は会社の敷地内だけ。会社からはいっさい出ない。当然貨物列車のレール上も
武力を他者に提供するPMCや傭兵ではないのだ。通販会社の警備員は服務規程に従っていれば問題はなにもない。
さあ、今日も仕事だ。
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