第113話【行商人編】鎧のおじさんの話




平和なクラスティア王国





行商団は西へ向かう。

この辺りはちょうどクラスティア王国と西の国々の境目で

岩石地帯で痩せた土地が続き、

魔獣と盗賊がひしめく無法地帯であった・・・

道中一番の危険な難所であり、行商団の空気もピリピリと張りつめていた。






行商団の夜警・・・

今夜の当番はウツロだった。

当然、ウツロみたいな小僧ひとりで務まるわけもなく、

鎧に身を包んだ正式な傭兵も参加する。ウツロはサポートである。

ウツロは鎧のおじさんに差し入れを持っていく。



ウツロ「夜警お疲れ様です。これ差し入れ」

おじさん「ああ、ありがとう」




おじさん「ははは・・・またカルロちゃんに絞られたのか」

ウツロ「ええ・・・まぁ・・・」

関節技を食らった体が痛い・・・




・・・





「眠いか?」

「・・・いえ、別に」

その日は不思議と眠くなかった・・・




おじさん「・・・クラスティア王国の話を聞いたことがあるか?」

ウツロ「・・・?」




魔法協会が守護するクラスティア王国は魔獣に襲われる心配なく眠ることが出来るらしいな

どの都市や村でもおおよそそうであるらしい・・・




おじさん「こんな辛い夜警をする必要もない・・・全くもって・・・羨ましい限りだ・・・」

ウツロはうなずく





おじさん「あまり大きな声では言えないが・・・俺たちの多くは国に所属していない・・・この行商団は行くあてのない人々の吹き溜まりみたいな場所だからな・・・」






ウツロは少し前のアンデット騎士団のことを思い出す。

『一つ目巨人』がその場所に出現すると察知して待機していた・・・

正直、あの骸骨騎士団がいなければ、みんな死んでたかもしれない・・・

運が良かったんだな・・・



おじさん「商売で・・・一攫千金・・・それもいいが・・・」






いつかどこかの国にのんびりと・・・暮らしたいものだな・・・全員でな






ウツロ「・・・」

ウツロは立ち上がって・・・

空を見上げる・・・


ウツロ「いつか・・・いつか、俺が商人になって大儲けして・・・みんなを・・・クラスティア王国に移住させてあげますよ」





ウツロ「・・・なんて」






おじさん「ははは・・・期待しているよ、英雄」






その夜の星はとても輝いて見えた。


その数日後、

魔獣の襲撃で・・・その鎧のおじさんは帰らぬ人になった・・・



いつの間にか人が死んでいく・・・

ここはそういう場所だった。







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