高校編
第1話 星の人
「マァちゃん、手紙来てるよ」
「今急いでるから机の上置いといて!」
そう。ワタシ今、急いでるの。左後頭部でピンと逆立った寝グセはそのままに。メイクなんか、する時間まるでない。だって、お母さんが起こしてくれなかったから。
お母さん、ワタシが起きて居間で顔を合わせたら、
「あれ、今日は起きるの早いのね」
だって。ワタシもふと、あれ、何でだろう? って考えたら、今日高校の入学式だからじゃない! 昨日、ちゃんと起こしてねって言ったのに。目覚ましは一応かけるけど、きっと起きれないからねって言ったのに。でもそんなことをグダグダ言う暇もないと、横目で見た、白い壁にかかった木製のアナログ時計に気づかされる。
全体的に和風仕立てな二階建ての一軒家に家族四人で住んでる。木目輝く階段を駆け足で上がり、自分の部屋に戻ってすぐさま制服に着替える。赤紫色のブレザーに、同色のプリーツスカート。襟元やスカートの折り目に入るグレーのチェック。青紫色のリボンネクタイ。この制服に憧れて学校を決めたと言っても過言じゃないのに、まさかこんな情けない姿で着ることになるとは。そしてお母さんはこんなふうに急いでるワタシに、冒頭のセリフを投げた。
「マァちゃん、手紙来てるよ」
手紙? うるさい、それどころじゃない。今は鏡を見てリボンの角度を直すのに必死。他にもやりたいことはたくさんあるけど、本当に時間がないから、もう行く。
大急ぎで階段を下るワタシと、上がってくるお母さんがすれ違う。
「机の上に置いとけばいいのね」
「行ってきます!」
返事にならない返事をして、ワタシは家を出た。
学校には何とか間に合った。体育館で校長先生の有難いお話を聞く。
「私たちは地球で生まれ……」
入学早々何だか面倒くさい話だなぁと思ってしまう。命の大切さなんか説かれても、理解できないよ。実感するようなことがないと。「愛してる愛してる」と言われるだけじゃ、その愛が理解できないように。
ましてや高校生。申し訳ないけど、なるべく早く話が終わらないかなと思ってる。というのは嘘。単純にお腹空いた! まだ何も食べてない。お家帰りたいよ。大勢の新たな仲間たちが集う中、立ったままそんなこと考えてた。
「繋がりを大切に思うように」
そんな言葉で校長先生の有難いお話は締めくくられた。
☆
「おババ、ただいま」
「おかえり」
おババとは、ウチの母方のおばあちゃん。四人家族って書いたけど、父、母、ワタシ、おババの四人。おじいちゃんはもう亡くなっちゃった。少し昔の話。そういえば、おババはいつも首に青い丸形の小さなペンダントをしてるんだけど、葬式の日は外してたな。単純に喪服とは合わないからかもしれないけど、今日もその青いペンダントは首もとで輝いてる。玄関付近の花壇に水をやりながら。
ワタシも栄養補給が必要。ということでお母さんにご飯を作ってもらう。今日はお昼からハンバーグ。黒くこんがり焼けたお肉ちゃんにステーキソースをかけて頂く。冷えた緑茶もうま〜〜。
そんなこんなで自分の部屋に戻り、だらだらと布団の上で漫画を読んでいたら夕陽が窓から差し込む。もうこんな時間かと、一度起き上がったら、物を置かないよう整理してる木の学習机の上に白い封筒が置かれてあることに気づく。
そういえば朝、お母さんがワタシに手紙が届いてるとか言ってたっけ。おもむろに手に取ってオモテ面を見ると、確かに現住所と「マァちゃんへ」と書いてある。ウラ面は何も書いていない。とりあえず封筒を開くと、そこには一枚の便せんが入っていて、こんな文章が書かれていた。
ずっと、口に出して言うことが出来ませんでしたが、マァちゃんのこと、愛しています。いや、今もこれは手紙なので、口に出して言うことは出来ていないのですけど。それでも、マァちゃんのこと愛しています。ただ、愛しているという言葉は不思議ですね。軽い気持ちで書くことは簡単ですけど、言葉にした瞬間、嘘にしてしまうんじゃないか、都合のいいこと言ってるだけなんじゃないか。という怖さがあります。
それでも、この言葉以外見つかりません。マァちゃん、愛しています。愛しています。ずっと。
ええ、何コレ! と頬が赤く腫れあがるのが自分でもわかる。何だかよくわからないけど、たぶん嬉しい。こんなふうにワタシのこと、想ってくれる人がいるんだ。愛してる愛してる。だって。ふふふ。うふふふふ。でもこれ書いてくれたのは誰? 入学式前の朝に? ずっと言えなかった? そんな疑問が浮かぶと共に、先ほどの文章の最後に奇妙な言葉を見つけた。
星の人。星の人って何。熱いお手紙の内容より、そちらの方が気になってきた。
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