7.オークション
ガタゴトと荷馬車が揺れています。
「ドナドナドーナ、ドーナー」
見慣れない風景が、木の柵越しに見えますね。
「ドナドナドーナ、ドーナー」
僕はどこで、どう間違ったんでしょう……
「ドナドナドーナ、ドーナー」
「おい! いい加減にしろ! こっちの気が狂いそうだ!」
全国四千万のシャルル愛好家の皆様、こんにちわ。
僕は現在、荷馬車に載せられ、アマロ公国の奴隷オークション会場に向かっています。
なんで、こんな事になったかと言いますと……
----- * ----- * ----- * -----
「え、ええー、ちょっと待って下さい! どういう事ですか?」
受付のお姉さんがドアに鍵をかけたので、慌ててドア越しに話しかけてみたのだが、お姉さんは鼻歌まじりに階段を上がって行ってしまった。
(オークションって言ったよな? どういう事だ?)
海賊船から逃げ出して、救命ボートで遭難して、船長の欠片に襲われ、気がついたら若い夫婦に助けられた……までは、良しとしよう。少なくとも状況認識は間違っていない。
その後だ。
村の役場に連れてこられて、手続きをしてもらったら、こんな所に監禁されてしまった。
(遭難した事が、何かの罪になったって事か? そのわりには、若い夫婦も、受付のお姉さんも明るい感じだったし、特に犯罪者を見るような目で、こちらを見てはいなかった)
街でのオークションって、何のオークションなんだ?
……一体、何を売り出すんだろう……うん、何となく予感めいたものはビシバシと感じてはいるが、そこに思考を振り分けちゃうと、駄目な気がする。
「お姉さん! お姉さん! お姉さん!」
不安に駆られたので、とりあえず叫んでみる。
ガン!
「うるせー!!」
「ひっ」
突然、壁が蹴られたような音と低くシャガレている男の怒鳴り声が響いた。
(お隣さん?)
「す、すみません。ちょっと混乱していて……」
「なんだ、子供みたいな声のようだが……」
「は、はい。まだ子供なんです。4歳なんです」
「4歳? なんでまた、そんなガキがこんな所に入れられているんだ?」
「ここって、一体何なんですか?」
「ここか? そんなもの、牢に決まってるだろう」
ロウ?
ロウって牢? 牢屋って事?
「え、何でそんな所に僕は入れられたんですか?」
「知らねーよ、何かやったんじゃねーのか?」
「僕はただ、遭難して浜に流れ着いただけで……」
「何か金目のものは持っていたか?」
金目のもの?
どういう事だ?
「いえ、僕はまだ子供なので何も持っていませんが……」
「だからだよ」
「だから?」
「せっかく遭難者を拾ったのに、金目のものが無いんじゃ、
「どういう事ですか?」
「お前、この国の法律を知らないのか?」
「そうですね……子供ですし、遭難者ですし……」
「そうか……じゃぁ、知らねーのも、無理は無いか。この国じゃ、遭難者は助けてくれた人に謝礼を渡す義務がある」
落とし物1割みたいな感じなのか?
「じゃぁ、謝礼が支払えない人は?」
「謝礼は現金じゃなくてもいい。所持品でもいいし……身体でもいい」
「身体?」
「謝礼を払い終わるまでは、遭難者の全てが救助者の財産だ。だから、普通は仕事の手伝いなどを数年やって、自分を助けてくれた人に恩返しをするんだが……」
期間限定の奴隷みたいなものかな。
「4歳って言ったら、何の役にも立たないし、所有者として餓死させたりすると、それは罪になるからな。だから、置いているだけでも金がかかる。そうなってくると、助けたお前を売り払わないと助け損だ」
「そうですね」
「だが、そんな時のための救済措置がある。遭難者を村へ割安価格で売り払って、その対価を得る。村は遭難者の所有者となり、村の労役か兵役で使うか、転売する」
「そんな……」
だからなのか……
だから、若夫婦はにこやかに僕を助け、僕のために食事を準備し、僕をここへ……
「でも、なんで牢屋に?」
「ここにいるって事は、役場はお前を転売するつもりなんじゃないか? もうすぐオークションもあるし、役場の買い取り価格よりも販売価格の方が高いと考えたんだろう」
「オークションって、何のオークションなんですか?」
「そんなもん、おめぇ奴隷オークションに決まっているだろ」
オークションって言われたから、そんな気はしてたんだよなぁ。こちとら、奴隷は海賊船で経験済みだったし。しかし、船奴隷から、ただの奴隷に転職か……せっかく脱出して助かったのに、また奴隷に逆戻り。
この役場ごと、吹き飛ばせば逃げられるんだろうけど……海賊船を吹き飛ばしたのと違い、それだと完全に犯罪者だ。さすがにそれは両親に合せる顔が無い。
「おじさんも奴隷で売られるの?」
「俺か? 俺は奴隷だからここにいるんじゃないぞ」
「そうなんだ。じゃぁ、オークションは関係なくていいですね」
「ああ……そうだな。明日、処刑されるんだけどな」
「そ、そうなんですか……」
やばい、やばい人が隣にいる。
「まぁ、酔っ払って喧嘩で3人程殺っちまったので、仕方ないと諦めているよ」
助けてー! おまわりさん! 隣に凶悪犯が寝てます!
「おう、そうだ。オークションって事は公都アラルコンに行くんだろ?」
「そうなんですか?」
「ああ、もし……もし、タニアって婆さんに会うことがあったら、恩を仇で返してすまなかったと、ヨハンが謝っていたと伝えてくれないか……もし会ったらで構わないから」
「タニアさん?」
「ああ、アラルコンのタニア婆さんといえば、すぐ教えてもらえると思う。な、頼むよ」
殺人者の知り合いになんか会いたく無いんだけどなぁ。そもそも、僕も奴隷になって売られていく身なんですが、
「わかりました。タニアさんですね。もし機会があったら、ヨハンさんの事はお伝えしておきます」
断って隣で暴れられたりでもしたら、怖いので、ヨハンさんの依頼を請け負っておいた。
----- * ----- * ----- * -----
とはいえ、明日、死刑になるというヨハンの話は、話半分に聞いていた。
さすがに、隣に死刑囚がいるというのは現実離れしている。日本だと死刑囚は拘置所に入る。間違っても、役場の地下室で拘束されたりはしない。
だが、翌朝、ガタゴトと音がするので、ドアの小窓から外をみてみると、上から牧師みたいな格好をした人と、上半身ムキムキマッチョな男二人が降りてきた。
「ヨハン、時間だ」
「ああ……」
何やらブツブツと牧師と話た後、ヨハンが牢の外へ出てくる。
声からしたら、もっと大柄のゴツい人だと思ったが、細いインテリっていう風体の人だった。顔は青ざめており、自分ではちゃんと歩けないようだ。
「坊主、頼んだぞ。タニア婆さんだ。タニア婆さんにヨハンが謝っていたと……」
小窓越しに目があったヨハンは、僕にそう告げ、、そして、階段の上へ連れて行かれたきり、2度と戻ってこなかった。
(え、え、えええ? マジだったの?)
すぐ隣にいた人が処刑されたという現実を僕は受け入れる事が、なかなか出来なかたのだが、しばらくすると牧師が降りてきて、僕がいる牢の扉を開けた。
「次は君の番かな?」
「ぼ、ぼ、ぼ、僕の番?」
え、売られるんじゃなくて、処刑されるの?
海賊船を吹き飛ばしたのが罪になってしまうのか? すでに人間じゃなかったようだったけど、船長に親方、そしてヘドローズを吹き飛ばしていたし……僕も、もしかして大量殺人犯?
僕は恐怖のあまり、半泣きになりながら、壁際まで後退したが……
「ああ、そんなに怖がらないで。変なことをしないから」
「処刑されるんじゃ?」
「そんな事をしないよ。君は何も悪いことをしていないだろう」
「はい」
「ちょっと、調べたいだけだから……」
そういって、牧師は中へ入ってくる。
「はぁ」
「それじゃ、力を抜いて……目を閉じて……」
牧師さんがとても優しい声で語りかけてくれた。まるで森◯レ◯さんの声のようだ。なんだか、ふわっと暖かい気持ちになって……
「ふむ……」
それは唐突に終わった。
「私では駄目か……」
そして、牧師さんは、それだけを言い残し、牢の扉を閉め鍵をかけて、再び上へ上がっていった。
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牢に閉じ込められている間、朝晩と2回、薄い汁みたいな物が出された。不味くは無いんだけど、美味しくも無い。まぁ、多少なりとも栄養があるだろうと我慢して飲んだ。
牧師さんはあれから現れる事もなく、僕はただ牢の中でポツンと待ち続けていた。そして受付のお姉さんが言っていた3日目、
「おい、出ろ」
僕を背の低い髭面の男が迎えにきた。
「どこへ……」
「公都だ」
やっぱり、オークションなんだな。
「いくのは僕だけでしょうか?」
「いや、他の奴はもう積み込み終わっている」
積み込み? もう荷物扱いなんですね。
「お前だけ小さいから、荷馬車に積んでいく。
「他の方は荷馬車じゃないんですか?」
「ああ、大人は普通の幌馬車だ」
そういって、役場の表には3台、馬車が止まっていた。幌馬車が2台と、その後ろには、
「あれですか……」
なんか馬の後ろにリヤカーが付いているだけという荷馬車があった。
馬も、微妙に貧弱なのが一頭。これで、大丈夫なんだろうか?
「乗れ」
「はぁ」
荷馬車には、ニワトリや豚を入れておくような小さな檻が積まれていた。
「これですか」
「そうだ」
「はぁ」
僕は自分で檻の扉を開け、中に入った。座っていれば何とかなりそうだ。丸まれば横にもなれる。
「あ、役場のお姉さんにも挨拶を……」
「辞めたぞ」
「辞めた?」
「ああ、お前を買い取った事で、ボーナスが出てな」
「そ、そう……なんですか」
「ボーナスを受け取って、すぐに彼氏と結婚して村を出ていったよ」
「僕一人分のお金で、仕事を辞められるくらいのボーナスが出たんですか?」
いくらなんでも、僕、高すぎないか?
それとも奴隷の価値ってそんなに高いのだろうか。
「いや、坊主というより、その鎧だな」
「えっ?」
「幼いガキには、そこまでの価値は無い。まぁ、欲しがる客はいるけどな。お前の場合、その赤い鎧に価値がある。よく解っていないが、特殊効果付与済み鎧っていうのが、今回の目玉だ」
僕の価値って……
「お前も鎧を脱げば、売られる事もなかったんだがな」
「脱ぎます!……え……あれ……やっぱり脱げません」
「らしいな」
「らしいな?」
「ああ、この村の神官様が解呪を試みたんだが、無理だったって話だ」
神官? ……あ、牧師さんの事か。
「だから僕付き鎧での売り出しなんですね」
「ああ、そうだ。魔法効果がある鎧っていうのは中々出るもんじゃないしな。脱げないという効果は聞いたことは無いが、きっと装備者を守るための効果なんだろう。ここでは鑑定も出来ないので公都で鑑定書を付けて売り出すという話になっている」
「そうなんですか」
「まぁ、大事なのは鎧だけだからな。わざわざ場所を作って幌馬車に乗せる必要もなかろう……って訳だ。ガハハハ」
笑い事では無いですよね。
でも、もういいや。とりあえず、ここで膝を抱えて公都へ着くのを待とう。
「それで公都という場所へは、どのくらいかかるんですか?」
「3日だ」
----- * ----- * ----- * -----
そして現在。
「ドナドナドーナ、ドーナー」
僕は、声を出して歌っていた。
そりゃ、歌いたくもなる。
荷馬車にゆられ、売られていく僕の事は、僕くらいしか哀れまない。
歌っている時間以外は……歌っている時間もだが。基本的に暇だったので、僕は御者の人と色んな会話をした。
とりあえず解った事は、公都のオークションは年に2回開催され、奴隷オークションだけでなく、美術品、土地、魔法の道具など、いくつものオークションが行われるそうだ。今回、その中でも、僕の赤い鎧は目玉商品の一つとして期待されているという事。オークション前に、神官か呪術師を手配しているらしく、そこで鎧がハズれれば、そもそも中身の価値など、カスみたいなものなので、解放してくれるらしい。
よって、最初は奴隷商人ではなく、一般の商館に連れて行かれるそうだ。僕が奴隷オークションに出されるのか、鎧だけが通常のオークションに出されるのか、それが商館での神官達の腕にかかってくる。
「鎧がハズれなかったら?」
「鎧の中身だけ取り出したい時、自分ならどうするなんて、考えないほうがいいと思うぞ」
「そ、そうですね」
実は鎧が脱げるというのは、期待していない。
勇者だった父が、そんな手緩い事をするとは思えないんだ。なので、
「どうか、優しいご主人様が僕を競り落としてくれますように!」
僕は、毎晩、誰かにそう祈りりつつ眠りにつくのだった。
----- * ----- * ----- * -----
僕の予想通り、商館でのチャレンジは、失敗に終わった。
結局3人の神官だか呪術師が、うんうん唸りながら、鎧を外そうと頑張ったけど、無理だった。商館に居た人たちは、とても悔しそうだったが、とうとう僕の身体から離れる事はなかったため、結局、僕は商館から奴隷商人に引き渡された。
御者のおじさんから、僕を受け取った奴隷商人は、結構優しかった。
はじめに残念そうに僕を見つめ……
「何か食べたいものがあるか? 今日だけは好きなものを食わしてやるぞ」
「そんな! 最後の晩餐みたいに言わないで下さい」
「いや……でも……なぁ……」
微妙な笑みを浮かべていた。
いや、海賊船から逃げ出して、ここまで来たんだ。絶対生き残りますって! 鎧の中身を
などと、現実逃避を軽くいれながら舞台袖で待っていたら、僕の出番がやってきた。
檻に入れられたまま、舞台上へ連れ出さんれる。
「次は、今回の目玉! 4歳健康な男子」
僕は演出なのか、茶色いボロを纏っている。
だが、これは不評だったらしく、会場からブーイングが飛ぶ。
「わかってます! わかってます! 中身なんかはどうでもいい! そういう事ですよね」
さり気なく司会にディスられた。
「お待たせしました! 今回のオークションの目玉商品! 赤龍の鱗で出来た鎧(男の子付き)! 魔法効果が高く、王都に住む神官では、その効果の全ては解りませんでしたが、その潜在能力は計り知れないものでしょう。少なくとも、物理防御、魔法防御の効果が非常に高いことが判明しており、素材としても充分価値のあるものです。鱗一枚で一財産が築けるというのに、その龍鱗をふんだんにつかった芸術的な……」
そう言って、司会の人が僕を包んでいたボロ布を取り去る。
一瞬の静寂の後……
「おお!」
大きなどよめきが会場を包む。
「それでは……」
「1億!」
司会の人が開始を告げるまえに、最前列にいた人が声を出した。
正確がキツそうな老婆と、その両脇に正装の男性が座っている。声を出したのはその男性で、老婆の口元に耳を寄せてから声を出していた。どうやら老婆が指示を出しているらしい。
だが、その『1億』という声を皮切りに、会場は怒号に包まれる。
『1億2千』
『1億3千』
「1億5千』
『2億!』
『おおー、ならば、2億3千』
『3億』
怖いよー。
なんだか僕(鎧)の価値がどんどん上がっていく。
赤龍の鱗の鎧(魔法効果付き)ってそんなに価値があるんだ……
『5億』
『7億!』
とうとう、億単位でせり上がっていく……
『10億』
『11億』
目の前の老婆が、次々と指示を出し、金額がつり上がっていくが……
『20億!』
12億の次に、突然、会場の最後列から若い女性の声が上がった。
そこには、青いドレスを身にまとった金髪の凛とした美少女が立っていた。
「ソフィア!」
僕は思わず声をあげてしまった。
そこには、救命ボートで離れ離れになってしまったソフィアと、左腕を包帯で吊っているカーラの姿があったのだ。
(無事だったんだ)
ソフィアの目が潤んでいるのは、この距離でも解る。
「大丈夫、必ず助けるから」
そうカーラの口元が動いたような気がする。
ほんのちょっと縁が擦り会っただけの関係なのに、僕のために大金を……
『25億』
「くっ」
だが無情にも、僕の入札額はさらに上がった。
最前列の老婆が勝負にきたようだ。
『26億』
ソフィアが負けじと釣り上げるが……
『30億』
その瞬間、ソフィアの肩が落ちた。
(だ、だめなのか……)
「30億! 他にはいませんか、他には……」
司会の人も興奮で声が上ずっている。
「それでは……」
『50億』
「は?」
「ちっ!」
司会の人のとぼけた声と、老婆の舌打ちが響く。
会場の端にいた一人の男が突然、声をだしたのだ。僕の場所からは陰になってよく見えない。
「うちは50億だ。タニア婆さん、これ以上だせるか?」
「はん、あんたかい。悔しいが、うちではこれ以上は無理だ。今日は下りるとするよ」
「そうか……おい、決まりだな」
「は、はい! それでは、赤龍の鎧は50億で、ジャンユーグ商会が落札しました!」
「おおー」
拍手が巻き起こる。
「50億の取引なんて、何年ぶりだ?」
「聖剣エクスカリバー以来の
「タニア商会が負けたか……」
「さっき入札していたの公女殿下だよな」
「ジャンユーグ、新参者のくせに……いきなり50億とは作法もしらぬのか……」
会場のあちらこちらで、口々に色々な事を言っている声が聞こえる。
だけど……
(50億だと……って、50億っていくらだよ!)
今ひとつ、この世界の貨幣価値が解っていない僕にとっては、億ときいただけでビビってしまったが、日本円換算だと、だいたいどのくらいかによって、そのビビリ度合いが変わるというものだ。とりあえず、日本円の50億円くらいで思っておけばいいのだろうか?
(50億円……宝くじ何回分だ……?)
あ、そういえばソフィア達は……って、もういなかった。
せめて、もう会えないかもしれないから、一言くらい話をしたかったんだけどな。ドナドナと売られていくんだし、この後、中身を
「ふん、小僧。ジャンユーグに買い取られるとはついてないね」
最前列にいたタニアと呼ばれていた老婆が声をかけてきた。
タニア……タニア……あっ!
「タニアさんって、『アラルコンのタニア婆さん』ですか?」
「あんた、私を知っているのかい?」
「いえ……えーと、ヨハンさん、知っていますか?」
「ハナタレのヨハンか?」
「よくは知らないのですが、メガネをかけて賢そうな感じの……」
「ああ、ハナタレのヨハンだ。ヨハンがどうしたって?」
「遺言を預かってます」
「遺言?」
タニア婆さんの
「はい。遺言です。エズの村で殺人の罪で処刑されました」
「なんだって」
「『恩を仇で返してすまなかった』です。謝っていたって伝えて欲しいと」
その言葉を聞いて、タニア婆さんは目を閉じ、その後踵を返して会場を出ていった。
二人の関係とかは良くわからないが、とりあえず請け負った仕事はクリアした。あとは……
「手続きが終わった。こっちに来い!」
ドナドナですね。
----- * ----- * ----- * -----
僕を競り落としたのは、ジャンユーグ商会の会長ジャンユーグ氏だと名乗った。とっても恰幅の良い……正しくは超肥満……まるでガマガエルのような風体の男だった。優しい人に買われるといいなと思っていた僕の希望は、一瞬にして潰えた。
いやいや!
見た目だけで判断をしてはいけない。
僕のために50億も出してくれた人だ。
きっと、いい人だろう。うん、そう信じよう。
お付の人のガラも悪い感じだが、この人達もきっと頼れる兄さんみたいな存在だ。見た目から誤解を受けることが多いけど、そんな世間の目にも負けず、強く生きている人たちなんだ。
うん、信じるものはきっと救われるはず。
会場で一旦、
----- * ----- * ----- * -----
1時間ほど、馬車に揺られた後、僕は大きな屋敷の中へ運ばれていった。
「おい」
「あ、はい! シャルルといいます」
「名前なんかどうでもいい」
気に入ってもらおうと檻の中から挨拶をしたが、あっさりと無視された。
「そこから出てきて、鎧を脱げ」
ええー、いきなりですか?
とりあえず、檻を開けてくれたので外に出たのだが……
「すみません、自分では脱げないんです」
「そんな事は聞いていない。その鎧の持ち主であるわしが脱げと言っているだろう」
ジャンユーグ氏がイライラとした表情で僕に詰め寄ってきた。
その周りには、これまたガラの悪いとりまきが6人ほど。
ああ、海賊船でも同じような場面があったな。あの時は船長が一人だけだったけど、今回は7人か。怖さで言ったら船長だけど、人数が多いというのも怖いものだ。
ああ、もう無理だな……
鼻の奥がツーンとしてきた。
もう本当に嫌だ。
「ぐす……」
「泣く暇があったら脱げ」
「ぐす……う、うう、ううう……うわーん!」
僕はとうとう泣き出してしまった。
そりゃそうだ。
頭の中身は中年でも、ストレス耐性など、諸々の身体の作りは4歳なんだし。だいたい、大人でもこんな状況、我慢できるか。えーい、全力で泣いてやれ!
「うえーん! いくら言われても脱げないんでずぅー! うえーん! もういやだー! 家に帰るー! がふっ」
だがその瞬間、僕は暖炉の火かき棒で殴られ、吹き飛んだ。
そして地獄が始まった。
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