第29話 雨の日の帰宅
夜になって強く雨が降ってきた中、優子は夏実が帰ってこないのを心配していた。
寄宿舎に越してきて以来、今まで門限になっても帰ってこない、ということがなかったため、何か事件や事故にでも巻き込まれているのではないかと不安になる。
寄宿舎の監督をしている寮母に知らせるべきか、それともあまり大事にせずに大人しく待っていた方がよいのか、優子は悩んでいた。
「まあ、夏実さんがまだ帰ってきていませんの?」点呼を取りに来た監督生の麗奈が、優子に問いかける。
「うん、何も聞いてないから心配で……」
優子の話を聞いて、二人で何か心当たりがないか考え込む。
「そういえば、今日会ったときに変なことを聞かれましたわ。何でテニスをやっているのか、と」麗奈は放課後にあったことを思い出して告げる。
「私も、部活に行くのに夏実ちゃんを誘ったんだけれど、色んなものをみてから考えるって断られたけど、まさか学校の中で迷子になったんじゃ……」優子が仮説を提案するも、さすがにそれはないと否定する。
「とにかく、もう少ししても帰ってこないようでしたら、私の方から寮母さんに話をしますので、その時は教えてくださいね」そう言い残して麗奈は他の部屋の巡回へと行く。優子はどうにも心配になって、一階の玄関へと様子を見に行く。
雨音がいっそう強くなってきたように感じる。普段ならまだそれなりに明るい時間帯なのだが、空一面を覆う雨雲のせいですっかり夜の帳が降りてきていた。
優子が外の暗がりを眺めていると、傘もささずに歩いてくる人影が見えた。夏実だった。
「夏実ちゃん、どうしたの!」優子が驚きの声を上げて、慌てて駆け寄る。呆然とした様子の夏実は、全身がすっかり濡れており、スカートの裾から水滴を垂らしていた。
優子は慌てて手を引っ張って、夏実を雨の当たらない室内へと連れ込む。
「こんなに濡れちゃって、今タオルを持ってくるから」優子に声をかけられて、夏実は目が覚めたかのように濡れていることに気がつく。
「雨が降り出してきたのに、傘忘れちゃって……」夏実は何で濡れているのか不思議そうにしながら、持ってきてもらったタオルで身体を拭きながら話をする。
「門限を過ぎても来ないから、みんな心配していたんだよ?」
「ごめんなさい……、考え事をしていたら遅くなっちゃって」夏実がうなだれながら返事をする。
「考え事? とにかく、風邪引いちゃうから最初にお風呂に入ってきた方がいいよ。着替えも持ってくるから」優子に促され、浴室へと移動する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます