腐虹(ふこう)

鋭く濁る雨の夜

僕は何に向かって吼えたのか?

天国を落とした祭壇の足跡

旅路に群がるベッドのしかばね

ミュージアムの硬い翼のシンメトリー

路地裏に捨てられた肉欲のかたまり

良識の糸で結ばれた酷くドス黒い薬箱

真空を許さぬ道徳のジャンキー

見開く瞳に注がれる獰猛どうもうな太陽の金切り声


鋭く濁る雨の夜

僕は何に向かって泳いだのか?

逆立ちに慣れた無数の哲学

校庭の隅でつぶれた真珠

約束を破り捨てたナイフの欠片

鳴りをこぼしたストラディヴァリウス

無限の海に喘ぐ道化師

芸術の寿命を論じた過去の人

羊飼いに咬み付きながらも生態系を愛した罪なき狼

ただれた砂で敷かれた寝床


鋭く濁る雨の夜

僕は何に向かって生きたのか?

祈りの中の静謐せいひつと悪魔

カネに撃ち抜かれた倫理の息吹

決断に満ちた鉄鎖の飛礫つぶて

重ねた希望の苦い溝

倒れた蝋燭ろうそくにざわつく盲人

神経を磨り減らし続けた靴の底

バスタブにおぼれた賢人や愚人

勇気や偽善や戦争や真理

炎と煙のもろい継ぎ目の焼けた跡


僕は見えたか────だが何を?

僕は聞いたか────だが誰と?

僕は知ったか────黄昏を?

僕は死んだか────頬をやつして、虹さえ腐る雨の夜と?

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