バカ精霊の使い方を僕なりに真剣に考える。

チェレステ

第一部①『僕は今、奴隷として売られている、しかも結構安い値段で……』

「バカ精霊の使い方を僕なりに真剣に考える。」


第1章「僕は今、奴隷市場で売られている………しかも結構安い値段で。」


僕は今奴隷市場で売られているところだ、しかも結構安い値段で。


賑やかな市場、眼前に行き交う人の波、果物を売る商人の威勢の良い声、甲冑を着た兵士たちの行進、人の姿をした緑色の肌をもつ人種、獣のようにフサフサな人種、何と言うかここはとにかくファンタジーだ。それを僕は檻の中でただボーッと眺めていた。どこを見ても自動車や電化製品など文明の利器は欠片も見当たらない、ガッデム!全くもってファンタジーだ。


僕の目の前で、おそらく僕の売買に関する商談が行なわれているのだと思う、年の頃は30半ば位で大人の色気が漂う女性が長い銀髪を振り乱し、気品のかけらもなく机を蹴飛ばし奴隷商人の胸ぐらを掴んでいる、これはもはや恫喝だ、無論言葉はわからないが奴隷商人のおじちゃんが気の毒だと思える程に、それを僕はただこの先の運命がいかなる方向に向かっていくのか、不安を感じつつその恫喝の行方を眺めていた。


ーーーーこのお姉さんに買われちゃうのかなぁ…………


僕の名前は「蒼伊一一」(アオイ カズイチ)日本生まれの日本育ち生粋の日本人である、その日本人が何故ファンタジー感あふれるこの場所で奴隷として売られているのか? 話は半月ほど前に遡る。


僕はそれまで、コンビニで買い物をしたり、PCでゲームをしたり、今期末までに提出する大学の論文を書いたりと、何処にでもいる普通の大学生3回生。年は21歳で地方の工業大学生に通っていた、専攻科目は電子工学で特にプログラム分野を研究していた。


 その日も僕は研究室に寄りロボットの自律プログラムの開発に没頭していたのだが、ついつい時間を忘れバイトに行く時間を過ぎてしまった。


「おっと、やばい!もう6時か・・・」


気がつくと午後6時を回っている居酒屋のバイトに行かなくてはならない日だ、僕は愛用の自転車ロシナンテ号にまたがり薄暗くなってゆく街中を走った。

「遅刻する!まずい!」

若干焦り気味に街中を駆けて行く。


 季節は秋、少し肌寒く今からが熱燗の美味しい季節だ。信号待ちの交差点で指先にハーハーと息を吹きかけ温める、その時だった。秋の風に乗って何処からともなく、聞いたことのない歌のような言語のような声が聞こえてきた、それもハッキリと。


「ル〜ルルルル〜」

その歌は、プログラムを音声化したビープ音に似ていた。丁度FAXから聞こえて来るピーガー音と言えば想像し易いと思う。


僕は声の先を探すようにふと空を見上げる、しかし声の主は何処にも見当たらない。

ただ澄み切った夜空に名月が浮かぶ……月を見上げ深呼吸を一つ、青信号(シグナルブルー)! 自転車のペダルに足を乗せ一気に滑りだしたその眼前にはノーブレーキで突っ込んでくる大型トラック。


グヮシャッ!

鈍い衝突音が辺りに響き渡った。


ーーーーえ!?今僕は死んだ?


勢いよく起き上がると草原の真っ只中、今まで都会とは言えないがそれなりの街中に居た筈だ、周りを見渡しても明かりはなく人間の営みは見当たらない、ただ360度見渡す限り何処までも広がる草原、薄暮の中遠方に見える山々は雪を頂き夕日でオレンジ色に輝き折り重なる。


「ここは、まさかあの世?」


妙に現実感がない、確かトラックが突っ込んで来たような気がするが記憶が曖昧でぼーっとしている。

何がなんだかわからずに僕はその場に座り込んだ、そして睡魔に襲われる、夢か現実かきっと目が覚めれば家のベッドだ、そんな風に思いながら草の上に横になった。


 「起きるだべさ、おい、オマエいい加減起きるだべさ!」


うるさい……騒がしい、僕は寒気と空腹感で目を覚ました。

ボーッとしている目の端で羽の生えた何かが動いた気がした。振り向いてみるが何もいない、2度3度目をこするがそれらしき生き物はどこにも居なかった。

気のせいか……そう思って立ち上がると、ぐぐぅぅぅぅ……っと腹が鳴る。腹が減るって事は死んだ訳ではなさそうだ、僕は周囲を見渡すと意を決して勘だけを頼りにトボトボと歩き出した。草に着いた朝露や小川の水をすすり一昼夜彷徨ったが一向に集落にはたどり着けない。あまりの空腹にキノコに似た植物を口の入れた、それが悪かったのか、お腹を下し熱も出てそれでも這うようにしてようやく街道らしき小道に出ることができ、そこで力尽きたのである。


 向こうから何かが来る、助かった!心のなかで歓喜の声をあげた。この思考状態ではそれが自動車ではなく馬車って事も考える余地はなかった。僕は力を振り絞りようやく体を起こし商人風のおじさんに向かい残る体力を総動員して言葉を発し助けを求めた。


「すみません!!助けてください!!」

「○&%$%&YンRV%エウJRV%CエウF???」

「え?」

「ええええ!?」


ーーーー言葉が通じない!


「Hello!……」

「&%$_<????」


ーーーー英語もダメ……よし!ならば!!


「Hola!……」

「&%$#“!???」


「ニーハオ!ナマステ!ボンジュール!アニョハセヨ!サヴァ!」

僕は知ってる限りの国の言葉で挨拶をしたがどれもおじさんには通じない。


ーーーーああ、詰んだな……

まさに絶望だけが僕に許された唯一の感情であった。

思わず口癖の一言が漏れてしまった。

「ガッデム!!!(チクショウ!!)」

その時、そのおじさんは笑顔で「ガッデム!ガッデム!」と返した


…………え?通じた?


なんか、硬いパンらしき食べ物をくれた、後で知ったが、このパンはガッデムと言うらしい。

小麦粉を焼き固めて数ヶ月は保存できるとても固いパンだ。本来はスープなどに浸して食べるのだが、その時はそんな事知る由も無く、とにかく僕はそのパンに喰らい付き夢中で貪った。数日間何も食べていない僕の胃はそれを受け付けず何度も吐き戻してしまった。


 涙ながらに感謝の意を示したが眉をひそめ、露骨に嫌がってる顔だった。無理もない、汚い、臭い、ゲロまみれ、それでもなんとか身振り手振りでコミュニケーションを取り最寄りの街まで送ってもらえる事になったのだ。


————助かった!


 1日ほど馬車で揺られ、高い塀が張り巡らされた街についた、城塞都市であろう、中には市民だけでなく兵隊とおぼしき人達も沢山おり物々しい雰囲気である。

 街に着くと、そのおじちゃんは裏通りの路地に入って行きそこでヒゲをたたえたおじちゃんと話し始めた、なにやら金銭の授受をしているようだ、商人のおじさんはニコリと笑って、ヒゲのおじさんを指差して微笑んだ、ぼくは通じる訳もないがお礼を言ってそのヒゲのおじちゃんについて行ったのだ。


 少し薄暗い部屋に通された、ヒゲのおじちゃんは桶にお湯を溜めて布を渡を差し出して体を拭くジェスチャーをする、体を洗えというのだろうか?しかし、助かった!何日も風呂に入ってない、少し肌寒かったが、これでサッパリした。


 ヒゲのおじちゃんはとても親切で、食事も与えてくれたし、着るものもくれた。そして何より久しぶりに屋根の下で眠る事が出来たのだ。

さて、今後どうするか考えながらならが数日が過ぎる中、十数人の老若男女が部屋に通されて、同じように体を拭き、食事を与えられる、驚いたのは女性でもその場で体を拭く、僕は目のやり場に非常に困ったが、周りの人たちは別段気にしてもいないようだった。

さて、これからどうしたものか……と考えながら今に至っている。


もう一度言うよ?

僕は今、奴隷市場で売られている、しかも結構安い値段で……


 鉄格子の中に入れられ荷台に乗せられ、人通りの多い通りで販売されている、そして2日ほど経過したが僕の買い手はつかない、同じ牢に入れられてた小汚いお嬢ちゃんは、初日で売れた、汗臭い大男も初日で売れた、商人っぽいおっさんが僕と横のおばちゃんを品定めするように眺め、数時間粘って、横のおばちゃんを買って行った。


 若い男女は割と初日で売れたが、それ以外はなかなか売れない。

いい加減この手枷と重い鎖が結構負担になって辛い。

多分僕は若いけど言葉が通じないのが使い勝手が悪いんだろうと言う結論に達した、自分の値札を見ると桁が1個少なくなっていた。


 3日目、ヒゲのおじさん明らかに機嫌が悪い。そりゃそうだろう売れ残ったのは僕だけ。

ついには、正面の市場で売られている果物と自分の値札の文字が一致した。

僕は果物一個と等価値となってしまったのだよ、日本の皆さん。


 こんな所では、これと言って役に立つ特技や芸事はないし、アピールポイントがないし、ヒゲのおじさんもだが僕も途方に暮れ始めた、奴隷なんだろうけど売れない自分に悲しみさえ覚える。


「これからどうなっちゃうんだろうなぁ〜」


ぼそりと漏らしたその時、日本で死ぬ(?)前に聞いた歌声が聞こえた。

「ルールルル〜」

「え?この歌って、確か……あの時……」

突然僕の耳元近くで声がした

「いたいた!や〜っと見つけたべさ!」

そこに居たのは大変小さな、浮遊する人型の生物(?)ちょうど何とかちゃん人形位。1/100サイズの3色ロボットプラモデル位の大きさ、輝くような金髪のショートで透き通るような白い肌、ちょうどミニュチアエルフといった所だろう、性別は女性のような容姿をしている……が!


「うわぁああああ!!」

僕は恥ずかしながら奇声を発し狭い檻のなかで大暴れしてしまった、ヒゲのおいちゃん、明らかに不機嫌そうに棒で僕を突く


「アンタ、ウチを呼んだべさ?」

脳内に直接響く声で語りかける、だが言葉が通じる!

その嬉しさは皆さんにお解り頂けるだろうか?あとプラモデル位の生物が浮遊しながら目の前で喋ってるインパクトはアニメの中じゃ普通だろうが、リアルで見ると結構気持ち悪い。と言うか理解の範疇を超える。


僕は矢継早に質問を浴びせる。

「ココはどこだ?! きみは誰だ?! 何故僕は此処にいる!」

「はぁ、何いってんだ?アンタが呼んだから連れてきたんだべさ」

屈託のない笑顔で答えるその生物、聞けば風の精霊と日本語に訳せばわかりやすいだろうか、とにかくそう言う存在で、自分より強い相手となら契約を結びこの世界の魔法的な力の源となるらしい。


どうやら僕はこいつよりかは強いらしい。

たったそんな理由でこの世界に連れてこられた、大変迷惑だ! 大学のレポート出さなきゃ留年してしまう! だがあのままだったら、僕は川を渡る別の世界に行ってたであろう。感謝すべきか嘆くべきか、それが問題だ。


風の精霊から、得た情報を元に現状を整理して考えた。


1、地球上のどの国でもない。

2、精霊を折伏させ、その力を持って魔法のような力を使う職種の人達がいる。

3、文明レベルは中世代程で科学も未発達。

4、諸勢力が群雄割拠し覇権を争う世界。

5、比較的今いる国は安定している。

6、人型だけでなく、様々な種族の知的生命体が存在する。

7、奴隷売買は盛んで普通の日常的な風景らしい。


そう言う現実を突きつけられたら、君は何ができる?

ただ1つ、精霊を折伏せしめる者は才能がある者のみで、広く一般市民には普及していない。ゲームやアニメの世界などで異世界に転生すると大概何かチートな能力をあたえられるのだが、これがそれだろうか?この一点だけが、この世界で僕を比較的レアな存在たらしめるのという事か。


僕は今得た知識をフル活用してここから脱出し、就職活動を行いこの見知らぬ世界で生き抜いて行かねばならないという訳か!


魔法が使えると言うのならそれを駆使するしかない。早速僕は呪文を唱え風の精霊に命ずる。

「さぁ!風の精霊よ!我が刃となりて、我を虜囚の身から解きはなて!!!」

僕は腕を高く掲げ、目を閉じて感慨に耽り周囲の羨望の眼差しを想像している。


「はぁ?おめぇ何を言ってるだ?全然理解できねぇだよ」


「え?」

どうやら精霊を折伏たらしめた位では、魔法は使えないらしい。

後から知ったんだが、結構不便って言うか使い所がないと言うか

とにかく困ったもんである。


 4日目、風の精霊に色々話しを聞きこの世界の事を少なからず理解できた、またヒゲのおいちゃんは精霊付きってわかるやいなや、僕の価格を結構跳ねあげた、しまった……おいちゃんに精霊を見せるべきではなかった。精霊付きって事で何か目の前が大商談会と言う感じになって賑わいをみせ始めたが、やはり言葉が通じないというのはネックなんだろう。


その中の一人に一際目立つオーラをまとった女性がいた。年の頃は30半ば位だろうか?妙に色気の漂うお姉さんのようなおばさんのような方が奴隷商人のヒゲのおいちゃんと商談をしている。

机を蹴飛ばしお怒りのご様子。そのやり取りを精霊に翻訳させた。


「たかが風の精霊付きの分際でこの価格は高すぎる」

「いえいえお客様、精霊付きの奴隷などそうそう手に入るものではございません」


たかが風の精霊付きの分際?そういう事であれば何?風の精霊って分際って言われる程度のモノなの?え?僕のこの世界でのチート能力はそんなモンなの?



「確かに珍しいが風付きが金貨200枚だと?精々10枚、それでも高い位だ!!」


「それじゃ他を当たってくだせぇ」


「ほぉ?売れ残って困ってるんだろ、言葉が通じない奴隷など女ならともかく、男は何の使い道も無いからな」


「うぐっ……」


「あのアホヅラをみろ、売れずにどんどん飯代かかるぞ金貨10枚なんぞ2日で食い潰す面だ!」


随分な言われようである。ヒゲのおいちゃんは少し値を下げる。


「金貨150枚!」

「20枚!これ以上は出せん、精々売れ残って今日の売り上げを奴のクソに変えてやる事だな!」


おいちゃんの胸ぐらを掴み商談というより恫喝的な雰囲気になりおいちゃんが少し気の毒になる。ものすごく揉めた後に、金貨17枚を支払って僕の所に歩いてくる。


「おい、出ろ!お前名前は?!」


言葉が分かる、精霊を通じて翻訳をかけているらしい。

僕は嬉しさのあまりにハイテンションだ。


「ありがとうございます!!本当に助かりましっぶっ!」

言い切らないウチに僕はおねぇ様の平手打ちをご馳走になる。


「奴隷の分際でご主人様への態度がなってないわね・・・」


そうでした、僕はこの人の所へ奴隷として買われていったんでした。

結構値切られて……。




第2章『僕のご主人様、その人、大魔導士ローディリア』


 さて、まとめてみよう、どうやら風の精霊を知らぬ間に折伏させたらしくそのおかげで、こちらの世界に飛ばされ、這い回り、腹をくだし、奴隷市場に出展され、このお姉さま的な方に買われた……と、そういう事になる訳だ。


 このお姉様、身長はそんなに高くはない。165cm位だろうか肌は浅黒く髪はシルバーのロング、顔立ちは美人でなかなかの巨乳だがちょっと性格が残念な感じである。

「お前名前は?」

彼女が名を問う。


「わたくしはブライアンと申します」

僕は咄嗟に嘘の名前を告げた。

 よくあるじゃないですか?本当の名前を知られたら身も心も支配される。そんな何かの書籍で得た知識めいた物が瞬間に脳を過ぎりその思考に及んだのだ。


「ふむ、ブライアンか聞いた事もない変な名前だ。その黒い髪

北の方の部族か?とにかく、私は今日からお前のご主人様だ。ローディ様と呼べ」


この方、この国の大魔導士でローディリア・ヴァルニールと言う。年齢は結局最後まで分からなかった。

城塞都市から馬車で半日程行った山中に彼女の住まいはあった。奴隷を求めてというより、別件で立ち寄り、精霊付きの奴隷が珍しく安くで購入できたという事だ。このまま逃げても行くあてもないしこの世界の奴隷がどのように扱われてるか分からないが、情報収集もかねて彼女の家で働く事にした。


 魔女の館みたいなドロドロしたものを想像してたが以外と普通でレンガ造りに白い壁、2階建てでこじんまりとした建物だ。


 門から玄関までは10m程、綺麗に芝が貼られ石の通路がその真ん中を通る。周りは防風の樹木で覆われ様々な花が植えられており、実に女性らしい佇まいである。

「おい、エレーネ今帰ったぞ」

ローディリアは玄関先で誰かを呼ぶ。

「は〜ぃ、ローディ先生おかえりなさ〜い」

弾むような声でドアを開けて現れたのは、年の頃が同じか少し僕より若い位の女性だ。化粧気はなく白い肌に亜麻色のセミロング、少し緑がかった済んだ瞳の娘だ。そばかすにメガネがアクセントで外人オブ外人と言う感じである。浅黒い肌のローディ様とは明らかに人種が違い血縁者でない事はすぐにわかった。

「エレーネ、今日から掃除も皿洗いもしなくて良いぞ奴隷を買ってきた」

「本当?やった〜!ローディ先生ありがとう。これで思いっきり魔術の勉強ができるわ!」

「よかったなエレーネ。この奴隷はブライアンだ、なんと精霊付きだ!珍しいだろう?」


「へぇ〜?君、奴隷なのに精霊付きなんだ?」


「納屋の2階を使っていい、エレーネ案内して仕事を教えておきなさい」

「わかりましたローディ先生」


「さ、ブライアンこっちよ、本当に助かるわよろしくね」

にこりと微笑んだその笑顔はとても嬉しそうで、ちょっぴり可愛らしかった。

「それにしても精霊付きの奴隷なんて珍しいわね、先生もそういう珍しい物が大好きなのよね」


ニコニコして話しかけてくるが、ローディリアが離れると途端に言葉がわからなくなる。精霊を通し辛うじて僕が珍しい奴隷であるという事を読み取れる位だ。そして僕は離れの納屋の2階にある稾置き場に通され、この日からこの世界の国の一つヴェレーロ王国での僕の暮らしが始まったのだ!



第3章『あれから1年経ちました。』


「カズイチ!!お茶の用意をしなさい」

「はぃ〜ローディ様ただいま〜」

僕の本名はあっさりとバレた、精霊は直接脳内に語り掛けるので、ローディ様の次の質問で僕のガードは崩れた。

「おい、ブライアン……母親はお前をなんて呼ぶんだ?」


 すごく叱られたのは、もう1年位前になるだろうか?

1年も過ごすと通訳なしでも会話は何とかなる。読み書きも教えてもらえたので奴隷としては破格の待遇なのではないかと思う。

文化レベルはそれほど高くない。水洗式トイレと温水洗浄便座で育った僕には大変……その・・苦労させられる。そしてどの道信じてもらえないだろうから、日本の事は話していない。記憶喪失という事にして切り抜けているのだ。


 奴隷のお仕事の方はと言えば順調だ。日本では居酒屋でバイトしていたので接客もできたし、料理も洗い物も掃除も洗濯も普通にこなせた。

 居酒屋メニューはローディ様には大変好評だった。更にはこのローディ様ときたらお酒が大好きなのだ。こちらの世界もお酒というのはあまり変わらない、糖分たっぷりの果実が自然発酵してできる……そうワインと言えば大体そんな物だろう。ただ素焼きのカメに入れて保存してあるのでガンガン蒸発するのだ、よってワインと比べるとすごく濃縮された感じで、それ所以にこれをお湯か水で割って飲むのが一般的なようだ。


 蜂蜜も存在しミョードに近いものもあり、ワインみたいなものにフレバーとして加える。まぁどの世界でも考える事は同じという事のようだ。


 そうそう、折伏した精霊に「ポー」と言う名前をつけた。風の精霊だけあり風を司る、使い道としては洗濯物を乾かす時に大いに役にたつ。

「おーぃポー、風を頼む洗濯物を乾かしたいんだよ」

「わかったべさ」

ただし……同じ風の精霊でもランクがあるようで、ポーは最下層の第1精霊群に属するようだ。要するに頭が悪い、バカと言っても良いだろう、とにかく物事を4つまでしか理解できない。だからお願いしても実際に風が来るまで少し時間がかかるのだ、僕にはこの辺が限界なんだろう。奴隷としては珍しいが、魔導士としては全く役に立たないレベルと言う事になるのである。

結局バカ精霊の使い方を僕なりに真剣に考えなければならなくなった。


 

 ローディ家の下宿人エレーネは炎まで折伏させている。4大エレメントを折伏させれば其れなりの使い手となり国軍の魔導部隊に入隊できるとの事である。

魔導部隊は国軍の中でもエリートで魔導を目指す者の憧れの対象でもあるのだ。

そしてローディ様は時の精霊まで折伏させた大魔導士で魔導部隊の教導隊教官も務めているとのこと。また魔導を用いた医者的な活動も行っておりかなり多忙な毎日を過ごされている。



第4章『ここが魔導の入り口だ!』


 エレーナは本当に面倒見がいい、奴隷である僕に対しても意識する事なく接してくれたし、魔法も時間の許す限り教えてくれた。

これは初めてマンツーマンで魔法の講義をしてくれた時の事だ。


「いいですか?まず最下層でも精霊を折伏できれば魔法を使う資格みたいな物ができるの。こればかりは才能としか言いようがないわ。だから風精霊を使役できるカズイチ君は選ばれた人間という事になるの、胸を張っていいわよ。」


「おおっ!僕は選ばれた人間なのですね!」


クスッっとエレーナは笑い僕への個人授業を続ける。

「調子に乗らないの!それでも最弱、最下層の精霊なんだからね。そして魔法を使うには精霊の力を引き出させるのは前に言ったよね?」


「はい、エレーナ様」


「今確認されてる精霊は強い順に時>光と闇>火>雷>水>土>風という事が分かっているの。各エレメントにはレベル別に第1精霊群から第5精霊群まであるの」


「各精霊は5段階ほどに分かれると……」

僕は結構真面目にメモを取りながらこの世界の魔法を理解しようと努める、そのノートを覗き込むエレーナ。


「それ、カズイチ君の生まれ故郷の文字?随分複雑な文字なのね……」

「ええ、アルファベットの他にその文字自体が意味を持つ文字もあります」


「見た事ない文字だわ。奴隷なのに読み書きが出来るなんて凄いのね」

「まぁ、元々奴隷だった訳では無いんですけどね」


エレーナは興味なさげに僕のカミングアウトをさらりと流した。

「そうなんだ?あ、話戻すね。この世界に数多く存在するエレメント程力は弱くランクも低いという事になるので覚えておいてね」


「空気が一番沢山あるって事で風の精霊の力が弱いのですね。まるで魔力の総量は固定されてて、それを精霊数の分母で割る感じだなぁ」


「そこまで考えた事はなかったけど……。とにかく魔法を使う時は精霊の言葉を使い、命令を出すの。まずはどの精霊を呼び出すか宣言する事から始まるわ」


「風の精霊よ契約に従い力を示せ!こうですか?」


「そうよ名前が有るなら代わりに名前を呼んで省略しても良いのよ?ちょっとした裏技だけどね。呼び出す精霊が決まったら、次は何をさせるかを命令する」


そう言って、エレーナは精霊語を唱え火の精霊を呼び出しその名を持って命令した、命令を受け取った精霊は契約に従い魔力を提供し

それぞれの精霊があらかじめ持ってる力を呼び出して実行させるのだ。


もちろん理論さえ確定していれば持っていない能力を新たに付加することもできる。


「大多数の魔導士はまずヴェレーロ語で考えてから、精霊語に言い直す人が多いわ、私は直接精霊語で考え唱えるのでその分みんなより早く発動できるの。」


「なるほど、できるだけ短く効率的に考え、精霊に解りやすく翻訳して伝える。そこの差で魔導士の能力が決まるって事ですね。」


「ええ、そうよ。あとね、いくら使役してるからって精霊もタダ働きはしてくれないわ。術者の精力を糧として等価交換の原理が働くの。」


「なるほど、その精力がいわゆる魔法の使用回数や威力に関係するんですね。以外と理論的なシステムなんですね」


エレーナはテーブルに肘をつき組んだ指の上に顎をのせて少し驚いたように答えた。

「へぇ〜、奴隷の出にしては飲み込み早いわね、結構学識がないと使えないものなのよ、カズイチ君凄いね」


さすがエレーナの授業は分かりやすくてためになる、僕はその後も色々とマンツーマンで教えてもらい、この世界の魔法原理を理解して行った。


その魔法には僕の得意な数学や物理学の知識、プログラムテクニックなどが様々な形で応用できる事が分かったのだ。

それをこの世界の住人に説明しようとしても、学問その物が未発達で、いまだ証明されていない物理法則も沢山あった。おかげでそこをローディやエレーナに説明しようものなら……


「またカズイチのホラ話が始まったな、はっはっは」

「クスクス、もぅ、カズイチ君たら夢物語が好きね」


「もぅ!ホントなんですってばぁ!算術で説明付きますよ!エレーナ様!ローディ様ぁ!」


「ハイハイ、神の所業が算術で説明できるものか?カズイチは面白いなぁ」


いつも、そんな感じであしらわれてしまうのだった。

魔法を学ぶうちに上級の精霊ほど、一度に命令できる数が桁違いで、それ故に翻訳に手間取り詠唱時間も長くなる、そう言う理屈であるという事が分かった。


僕の研究者としての血が騒ぐ、それじゃ試しにポーに多くの命令を与えてみよう!


僕の場合は日本語で考えヴェレーロ語に訳し、それを精霊語に翻訳するので一個の命令も実用的でない位に遅い、この時与えた命令はつむじ風を作り、それを自在にコントロールする命令だ。


つむじ風は『つるまき線』と言って円の方程式で計算できる物理現象だ。X軸に半径掛けるsinθを、Y軸に半径掛けるcosθを代入し、いやこれの説明だけで物凄く時間がかかるので割愛しよう。

数学で作れるなら魔法に応用できると言う僕の仮説の検証実験だ。


つむじ風を維持しながらX軸とY軸に変数を代入し、つむじ風を移動させようと言う試みだ。


当然翻訳が間に合わない上に下級精霊にそんなたくさんの命令を実行させる事はできない。


その結果ポーに起こさせたつむじ風は呪文の無限ループに入り制御不能になった。小型の竜巻並みの大きさまで育ち洗濯物を吹き飛ばし、迷走して隣の植木を吹き飛ばし積んであった藁束を散らかしてローディの研究室を吹き飛ばした。


僕は全ての関数に0を代入して止めようとしたが、ポーがその命令を受け取ったのは色々やらかしてしまった後だった。


「あはははは!カズイチ、そんないっぺんに言ってもわかる訳ないべさ!」

ジーザス・・・なんてこったい!メチャクチャ怒られる予感しかしない……


「カァ〜ズゥ〜ぃぃ〜チィ〜」

怒り心頭のローディがさっきまで研究室だった瓦礫の中からから出てくる。襟首捕まえて怒鳴られる。


「何だ!今の珍妙な魔法はっ!」

「竜巻制御ですぅ〜ローディ様!」


「竜巻は第4精霊群以上の上位魔法だ!お前の持つ最底辺の第1精霊群で起せるものか!」

「算術で計算すれば起こせますってばぁ〜」

「算術だと?!1、2、3で竜巻が起きるかぁ!」

「ホントなんですってばぁ!〜」


「もうお前のようなホラ吹きはウチには置いておけん!」

「待って下さい!!ここ追い出された行くとこありません、お許し下さいローディ様!!」


「イヤ許さん、魔法学校で徹底的に1から叩き込んでやる!!」

「え?今なんと?」


この件でローディ先生大変ご立腹なさり僕はこの家から追い出される事になってしまった。だが追い出された先は、意外にもヴェレーロ国立魔法学校である

なぜ最下層の精霊しか従えない僕がこの学校に入れるのか?疑問は尽きないがすぐに分かった。校長がローディ様だったからだ。

これ以上被害が出ないうちに魔法の基礎を叩き込んでおこうという事らしい。


 ちなみにエレーナはこの学校の特待生で飛び級なさるほどの魔法の天才、しかしまぁ、奴隷の身から国立学校まで這い上がれたのであるから、僕的には大出世である、こうして僕の学園生活が始まり今後の運命を大きく左右する魔法との出会いが始まった

――――魔導の入り口、僕はその門を潜った。




第5章『久しぶりの学園生活』


ヴェレーロ国立魔導学校、大変広い敷地に貴族の館を彷彿させる建物や、美しく整備された校庭。そこに魔法を目指す様々な人々が学びに集う。カリキュラムコースは大きく分けて2つある。


一つは精霊を折伏させるための基礎訓練課程

もう一つは折伏後に魔法技術の取得を目的とする魔導技術課程である。

 基礎訓練課程には今から精霊を折伏させ大魔導士になるべく、家の期待を一身に背負った貴族や有力者の子ども達が多く、精霊を折伏させるため日々厳しい訓練を行っている。折伏試験を行い規定回数で折伏できなければ、才能なしとして退学となる。浮き沈みの一番激しいコースである。しかし、この世界の魔道士は一種のステータスでもあり、家の威信をかけて子ども達を送り込んで来るのだ。


 当然僕はと言うと精霊付きなので魔導技術課程に入学する事になる。魔導技術課程は、年齢も幅広く10代前半から20代後半位まで在籍し、精霊のランク別にクラス分けされる。ただ精霊のランクはそのまま生徒のランクとなりちょっと嫌な縦社会が形成されている感は否めない。

 学生の最高位は火のエレメントレベル5、そうエレーナである。

エレーナは誰にでも優しくランクなど関係なく接してくれる学園では超がつくほどの人気者だ。底ランク者や下級生からも慕われている。


 僕のクラスは当然風のクラスで僕は最下層である、当然だろう素性も知れず、奴隷な上にエレーナ様の同居人って事で何かしら良くない雰囲気が漂っている。


「おい、あいつがエレーナ様と一緒に住んでいたカズイチってやつだぜ……」

「奴隷だったみたいよ?何でここにいるのかしら?」

「ローディ校長の特別な計らいだとか……」

妙な空気だなぁ、本当に居心地が悪い。



 さて、基礎訓練課程で精霊を折伏できた者は、魔法技術課程に編入してくる、それゆえにここは学費の出せる貴族出身か裕福な家庭の人間が結構多い。

例に漏れず貴族の御子息、ご令嬢は大変プライドが高く、事あるごとに奴隷階級の僕に嫌がらせをしてくるのである。


臭い、汚らわしい、奴隷と一緒に学べるか、このクラスには豚がいる、とまぁ言いたい放題である、言うだけなら良いのだが、色々僕の持ち物に悪さしたり、ゴミ箱に投げ込まれたりと低レベルな嫌がらせは地味に堪える。

それだけならまだしも、貴族のバカ息子共は実力行使に出始めたのだ。


「おい、なんか臭いと思ったら奴隷の豚がいるぜ」

こう言う手合いはかかり合わないのが一番だ、僕は無視を決め込む事にしたが、どうも貴族とい言う奴はそう言う態度がお嫌いのようだ。

「こいつ俺たち貴族様に向かって何無視決め込んでるんだよ!」

そう言うって僕の胸ぐらをつかむ、周りの取り巻きは色々とはやし立てる。


面倒くさいなぁ……・

僕はそう思い露骨に嫌な顔をすると、怒りが頂点に達したようである。

「奴隷は人間じゃないから、痛めつけたって良いんだぜ」

僕は2発、3発と殴られ数名からフクロにされる。


腕を拘束され、人間サンドバッグだ。

痛い・・・マジで痛い・・・やべぇ、殺されるかも


そう思ったとき、野次馬の向こうから声がした。

「おやめなさい!大勢で寄ってたかって、それは貴族のなさりようではありません事よ!」

止めに入ったのは、ヴェレーロ国内でも有数の大貴族であるエドガー公爵家の娘、エリザベート・エドガーである。


真っ白い肌に縦巻きの金髪ですらりとした四肢に立派なバスト、如何にも貴族のご令嬢といった感じである。


コレには流石の貴族のバカ息子共も退散するしかなかった。

「チッ!豚が!良い気になるなよ!」

捨ぜりふを吐いてそそくさと退散して行った。


「カズイチ、そなた大丈夫か?血が出ているぞ」

そう言って良い匂いのするハンカチを差し出す。


「エリザベート様・・・勿体のぅございます、私のような奴隷出身の者にそのような・・・」


「良いのだ、私の家は国内でも有数の家柄だ、常に周りからその有り様を見られている、正しい行いをもって範を示す、それがエドガー家に生まれた者としての務めだ。」


何とも神々しい、貴族にしては先進的な考え方だ、だがその目は上から僕に憐れみをかけるかのように冷たい。


「カズイチ、お前は確かに奴隷としてこの国に来たのかもしれないが、今は学生としてここに居る。そのような奴隷根性は捨てよ、さもなくば付け入られるぞ、ここは学び舎だ貴族も平民もない」


この国もまだまだ捨てたもんでは無いな、そう思いながらも颯爽と歩み去るエリザベートの後ろ姿を憧れにも似た思いで眺めた。


その後もエリザベートは何かと僕の身を案じてくれ貴族たちの嫌がれせもなりをひそめたのだった。


未だそれなりの嫌がらせもあるし、貴族達からは存在を無視される事は続いたが、平民出身の友人達も少しずつ出てなんとか学園生活にも平穏さが戻ってきた。



 主に学園において各クラスのカリキュラムは今いる精霊のアップグレードと、上位精霊折伏の訓練課程である。その中には精霊語の授業も多く含まれる。

上位精霊の折伏には今持ってる精霊を使って、上の精霊を力ずくで我が物とする事になる、その前に僕の場合はまともに魔法を操られるようにする事だ、その際一番ネックとなるのは語学だ。


 どうしても一度日本語で考えてしまう。ヴェレーロ語を介さずそのまま精霊語に変換するしかない。しかし日本語には精霊語に該当する言葉がない事が多く翻訳には手こずるのだ。追い打ちをかけるように貴族の奴らの地味な日々の嫌がらせが学問の邪魔をするのである、元々大学で研究室に籠り研究に没頭するのが好きなので魔法学という学問には大変興味はある。  


「はぁ・・・落ち着いた環境で勉強したいなぁ・・・」

とついつい漏らしてしまうのであった。


 そんな僕にもエレーナは優しく接してくれてその間はとても癒される。また魔法に関しても色々とアドバイスをくれた。


「カズイチ君、精霊とはねもっと心を開いて心と心で会話するのよ」

「……ぁ、はい……」

なんだろう、『この魔法はもっとこうズバーンと行ってぐわっとやる!』の丁寧番みたいなアドバイスは……


 そころが、ある日の授業で出た事がヒントになり僕は一つの発見をした、思えばこの発見が僕のすべての始まりと言っても過言ではない程運命的な発見だ。


今までの話を総合して、もしかしてこのバカ精霊はロジックが4ビットCPUに似てないかという事である?

 試しに言語をイエスかノーの簡単な質問で構成し精霊に質問してみた。


その結果どうやら、この下級精霊はイエス(1)かノー(0)の質問を同時に4つまで受ける事ができるようなのだ。


「へぇ〜、つまりはALU長は4ビットって事になるのか……」


それを2回まで覚えられる

「で、レジスタ長は4ビットを2回なので8ビット、つまり1バイトっと……」


その記憶の塊を1回だけ読み書きできる

「ふむ……データバス長も1バイトっと……」


で、それを2単位で覚える

「えっと……アドレスバス長は一応2バイト……」


「……ぁ〜……これって!まったくの4ビットCPUじゃないか!!!」

僕は授業中にも関わらず椅子を跳ね飛ばし立ち上がって驚いた。


「わぁ!いきなりなんだ!カズイチどうした?!」

「あ……い、いや、なんでもない気にしないでくれ……」


なるほど、そう言う事か!こいつらは4ビットの原始的な集積回路(CPU)と同じ構造なんだ!それなら僕の得意分野である。


それならば、マシン語と同じように、精霊語を単純な質問。1か0で構成すれば良い。

早速このバカ精霊に命令する。プログラムはこの前しくじった竜巻制御だ。


僕は精霊語を何とか解析して2進数でプログラムを組む事が出来た。

 するとどうだろう、以前では不可能だった竜巻制御がいとも簡単に行えたのだ、これは驚きである。


 いままでは遅延が発生し制御する前にあらゆるものをなぎ倒した。それは言語を変換する際に語学的な翻訳遅延や誤解が生じるからだ、それをイエスとノーの簡単な質問に変えて組み合わせその1と0を4つの塊へ情報を伝えるだけなのだ。

簡単な質問なので、バカなこいつらでも十分理解できる。


「カズイチ!今度の話はわかりやすかったべさ!!」

ポーも得意げに答え嬉しそうにはしゃいでいる。


それを見ていた友人たちが駆け寄って来る。

「おい!カズイチ今のどうやったんだよ?」

「いや、算術使って精霊語を組み立てただけだが……」


「算術で?はっはっは!バカ言え1、2、3で竜巻が起こるかよ?」

何だこの判で押したようなこの反応は?


「そもそも、第1精霊群の低級精霊に算術が理解できるの?」

「ん〜算術を用いた精霊語って言えばいいのかなぁ?」


「すげぇな、いまいち良く分からんが、今度俺にも教えてくれよ!」

「構わんけど……」

そもそも彼らに2進数のマシン語が理解できるのだろうか?


そのやりとりを少し後ろで本を読むふりをしてエリザベートが聞き耳を立てていた。


魔法に関しては一筋の光明が見えた。精霊は2進数のマシン語を理解できる、コンピューターのプログラムと全くもって同じ理屈だったのだ。


だが、まて……この気付きは余程の僕と親しい人間にしか伝えられない。話しても理解されないし異端視されてどのような未来が待っているか分からないのだ。

 牢屋に入れられ異端審問とかそんな事になったら堪ったものではない。おまけにココは魔法学校となっているが、要するに国軍の養成校だ、いわば戦争の時に役立つ技術だ…………

アイディア次第では大変な事になってしまう。


「こりゃ、闇練するしかないなぁ……」

その日から、僕の魔法闇練が始まったのだった。

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