第560話 悪い子は稲がぁーで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 弱い者いじめダメとか言っておいて、すっかり異世界無双に興じる桜くん。

 男の子はいつだってやんちゃなもの。蛙の尻に爆竹を詰め込むようなそんな勢いで、異世界に転移したらモンスターをやっつけてしまうものなのだった。


 とまぁ、イキッた所で幸運値ボーナスはすでに使い切っている彼らである。


「あぱっ!!」


 突然飛んできた謎の何かに身体を真っ二つに胴斬りされるダイコン太郎。

 異世界無双したくても、そうは問屋が卸さない。

 うかれる桜たちの前に、予想だにしない敵が出現するのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 いったい何が起こったのか。

 どうしてダイコン太郎が真っ二つになっているのか。

 俺の手の中で魂が抜けるような感じで、さらさらとオーラを出しているのか。


「……嘘だろ、ダイコン」


「桜やん。ワイ、どこで間違えてしまったんやろな」


「待てよ、ダイコン!! まだ、これからじゃないか!! 俺たちの異世界無双は、まだ、始まってもいないじゃないか!!」


「いいや、終わっていたんだ。俺たちは最初から終わっていた。桜やん、俺たちはようやくたどり着いただけなんだ。物語の終着点に――」


「ダイコン!!」


 まるでやり切った男のような顔をして安らかに俺の腕の中でこと切れるダイコン。

 謎の何かで真っ二つにされ、人間で言えば上半身と下半身が真っ二つになった彼は、ぐふぅとダイコン汁を切れ目から吐き出してこと切れた。


 そう、まるでバトル漫画のキャラクターの今際のような感じで。

 感動を誘う、まさかの死別という感じで。


 ダイコン。

 忘れないよ、お前のことは――。


 そんなことを思った隣で。


「桜やん気を付けろ、敵は遠距離攻撃型のスタンド使いや!!」


「なんで余韻もなく復活するかね。分かっていたけれどさ」


 何食わぬ顔で復活するダイコン太郎。

 いつもどおりの安定・安心のリスポーン。

 まるで敵の攻撃なんて最初からなかったように、彼は即座に復活していた。


 うぅん。

 この無駄な感動と、茶番にかけた時間を返してプリーズって感じだ。

 まぁ、いいんだけれどもさぁ。


「そりゃそうといったい何があったんだ」


「のじゃ、前なのじゃ、前。前を見るのじゃ桜よ」


「前って――おぉう!?」


「こっ、これは、まさか!! そんな!!」


 言われて、前見て、ジャジャジャ、ジャン。

 そこに居たのは、斬っては飛ばしたこんまりとした稲わらの一味とは似ても似つかぬ巨体。手に鉈を持ち、鬼の面を被り、二足脚で立つ、緩くない感じの着ぐるみみたいなのが立っていた。


 そう、向こうの世界で言うならあれだ。


「なまはげ!!」


「あん、そんな、生のハゲやなんて!! 本当のこと言わんでもええやないの!! 桜やんったら!!」


「のじゃ、そういうお決まりのギャグはいいのじゃ!! 本当になまはげなのじゃ!!」


 秋田名物の悪い子を連れて行っちゃう鬼。

 なまはげであった。


 アイエ!! なまはげ!! なまはげ!! ナンデ!!

 とか言っている場合じゃない。


「奴はなまはげ24時。稲わらの一味と共生している、モンスターだ」


「共生しているモンスターだって」


「そんなダーウィン〇来たみたいな説明はいらんねん!! そういうのが居るなら居るではよ言ってくれやんと困るでしかし!!」


「すまない。しかし、元をただせば、君たちが先走ったのがそもそもの――」


 御託は良い。

 なんにしても、俺たちが絶体絶命なのは間違いない。


「ワルイゴハ!! イネガーッ!! アーッ!!」


「うぉぉおぉっ!! 異世界のなまはげ半端ない!!」


「マジなまはげっすね桜クン!!」


「のじゃ!! 衛府の七〇ネタとか挟んでる場合じゃないのじゃ!!」


 ティロリロティロリロ。

 俺たちは野生のなまはげとエンカウントした。

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