第529話 勝負のためにで九尾なのじゃ

 温泉から出た俺は加代となのちゃん達の待つ自室へ戻った。

 そして、作戦会議と声を張り上げ、今回のコンテストの相棒の目を引いた。


 のじゃぁ、ため息とも困惑とも分からない息を吐く加代。


 そんな彼女にいいからと言って膝を突き合わせる。

 それから俺は風呂場で出会った男たち――このコンテストの参加者について語り始めた。


 まぁ、シュラトについては言うまでもない。

 頭のポンコツぶりはともかくとして、戦士としては頼りになる男ということを、俺たちは共に旅してよく知っていた。


 問題は――。


「のじゃ。あのマッチョ冒険者、ゴリアテというのか。腹の立つ名前じゃのう」


「相棒はゴルゴーンだとよ。シュラトは知らない感じだったが、まぁ、見た目的に強敵っぽいのは分かる。要注意の相手だ。他にも、そいつらが目を付けている戦士がぞろぞろといやがる」


「のじゃ、割とガチ目のコンテストなのじゃ。街の力自慢が集まっての、どんちゃん騒ぎじゃないのじゃね……」


 となればすんなり諦めるのじゃ。


 なんて言い出す加代ではない。


 彼女も結局、俺と同じ気質を持っているオキツネだ。

 敵わないなら敵わないなりに、筋を通してベストを尽くす。


 そういう根が真面目なオキツネなのだ。

 だからこそ、元居た世界であれだけ生きづらい思いをしている。

 俺の言葉に、彼女はすぐに真剣に顔を歪めた。


 つくづく似たもの同士だなと思う。

 まぁ、そうでなかったら、狐と人間である、種族を超えた同棲なんてなかなか長くは続けられないよ。


「のじゃ、分かったのじゃ。そんな強敵が待つコンテスト。生半可な気持ちでは戦い抜くことはできぬじゃろう。わらわは腹を括ったぞえ」


「よく言った加代さん。参加するからにはせめて一勝くらいはしたいもんだ。なに、いきなり序盤から最強のチームとぶち当たることなんてまずはあるまい」


 まずは一勝。

 賞金も何も出ないけれど、自分たちのプライドのため。

 そう俺たちは自分たちに言い聞かせて、一つの目標を定めたのだった。


 コンテスト開催まで残り二日。


「それまでに、何かこう、必殺技的なモノを練習しておきたいところだな」


「のじゃのじゃ。せっかく人前でやるのじゃ、派手なのがええのう」


 たとえ状況が苦しくとも、目いっぱい目の前の状況に取り組む。

 それが俺たちだとばかりに、俺と加代はコンテストに向けて対策を練り始めるのだった。


 なに、大丈夫。


 元の世界では引き籠り気味な俺たちだったけれど、ここは異世界。

 幸運値は減らされたけれど、きっと何かいい感じの修正力が働いてくれるさ。


 ――めっちゃ他力本願だけれど。


 けど、異世界転移って、そういうものでしょう?

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