第423話 新聞配達で九尾なのじゃ
まぁ、昭和というか平成一桁代のドラマによくある設定だけれど。
貧乏中学生が家にお金を入れるためにやるバイトと言えば、早朝の新聞配達、あるいは牛乳配達ではないだろうか。
寒い朝。
白い吐息を吐きながら、はっはっはと走って次々に新聞を投函していく。
そんな光景をテレビで見たことのない人は俺たちの世代ではいないだろう。
苦学生のステレオタイプと言っていいのではないだろうか。
という話をするからには、加代さんがまぁ、その手のお仕事に就いたというのは、もはやお察しという訳で。
例によって原因不明のロリ化が解消されていない加代さん。
彼女は、休職中の仕出し弁当の配達に代わって収入を得るために、新聞配達のアルバイトをすることになったのであった。
「のじゃ!! 子供でも許されるバイトは積極的にしていく所存!! なんていうか、ギリギリ高校生と言えば、信じて貰えるロリっぷりで助かったのじゃ!!」
「いや、まぁ、ギリギリ。本当にギリギリ、高校生って言えば、まぁ、信じられるかなってくらいのあれだけど」
「のじゃ!! 正社員になれないのなら、アルバイトをすればいいじゃないの!! なのじゃ!!」
「その通りなんだけれどもね……」
芋ジャージ着てふんすふんすと鼻を鳴らす加代。そんな彼女を、朝の三時に見送る俺。欠伸をかみ殺しながら、彼女が駆けていくのを見ていると――。
「……やっぱ心配だよな」
むくむくとそんな気持ちが湧きたった。
朝の三時だというのにだ。
九時に出社しなくちゃならんというのにだ。
だぁもう、情に掉さしたらなんとやらとは分かっているが、こればっかりは惚れた弱みである。こんな夜中と言ってもいい時間に、同居人を外に放り出すのはやっぱり忍びない。というか、心配でとても寝直す気になれない。
アパートに鍵をかけて俺は加代の後をこっそりと尾行したのだった。
まぁ、あれだ。
狐だけに尾行ってね。
◇ ◇ ◇ ◇
「のじゃのじゃ、ふっふ、のじゃ、ふっふ」
肩から新聞の入った鞄をぶら下げて、いい感じに息を切らして走る加代さん。
早朝で、人の通りも車の通りもないからって、無防備にまぁ尻尾と耳を出して――元気なことである。
変質者の影は無し。
うむ、どうやら大丈夫の様だ。
「新聞でーすなのじゃー」
そして、家主が起きていないだろうに、投函する時にちゃんと声をかけていく。
健気だ。健気な新聞配達屋さんだ。
お前、そんなん、あじゅじゅあじゃしたー、みたいな感じに、適当に言えばいいのに。なんでそんなくっきりはっきりとした口調で言うのかね。
「新聞ですなのじゃー。どうぞなのじゃー」
そしてどうぞまで付ける律儀っぷり。
いいんだ、いいんだぞ加代さん。もっと適当で。どうせ新聞なんて、流れで取って、流れで読んで、流れで捨てるものなんだから。新聞屋さんには失礼かもしれないけど、そこまで大切なものじゃないんだ。チリ紙の代わりになる程度のものなんだ。だから丁寧にやる必要なんてないんだぞ。
ちくしょう、泣かせてくれやがるぜ。
流石は加代さん、昭和の時代を知っている女。
昭和ドラマの臭いが似合う女である――。
そして。
「フリーズ・ドント・ムーブ!!」
「お前も昭和のおまわりさんかよ!! そんなしょっちゅう人様に銃口向けるな!! 懲戒免職もんだろいいかげん!!」
「何を言っているんだ!! 夜中に健気に新聞配達をして生活費を稼ぐ女子高生を陰から見守りつつ興奮する変質者め!! 貴様のような、ナニ長おじさんに、基本的人権など存在しない!! 裁くのは俺だァ!!」
「裁判官だよ!!」
まさかの週をまたいでの天丼警察官オチ。
もうお前の方が俺か加代のストーカーじゃないのかよ。
加代ならともかく、俺なら勘弁してフォックス。
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