第300話 ここほれコンコン九尾なのじゃ

「豊臣埋蔵金が欲しいかなのじゃー!!」


「別にどうでもなのじゃぁ……なにやってんのよこれ?」


 スーパーひと〇くん人形みたいな格好をした加代さん。

 そんな彼女と、俺は県内某所の山へとやって来ていた。

 BGMは嘉門〇夫のいけいけ川口〇が似合う――そんな感じだ。


 なにって決まっているのじゃと、加代ちゃん隊長。


「豊臣秀吉が、いざという時に隠しておいたへそくりが、この山に隠されているそうなのじゃ。それを見つけてウハウハの埋蔵金生活を送るのじゃ!!」


「どこ情報よそれ」


「テレビで埋蔵金探検隊番組やってたのじゃ!! 間違いないのじゃ!!」


 間違いしかないだろ。

 お前、それ、定期的にやってるコメディ番組だっての。


 そういや先日、飯食いながらそんな番組見てた気がするな。

 リアクション芸人があきらかに造られた感じのトラップに引っかかって、やんややんやする感じの奴。


 まさか上からザリガニが振ってきて、鼻にフックするとは思わなかった。

 やばいよやばいよ。


 そうかぁ、あれを本当だと信じてしまわれたのか。

 アホだなぁ、本当にアホだな。うちの同居狐は。

 視聴率取る為の嘘が分からないとか、テレビのお仕事向いてないんじゃないかね。


 急に休日に、ピクニックへ行くのじゃと、そんなことを言い出すものだから、どうしたのかなと思っていたらこういうオチですか。

 気の抜ける展開に思わず俺は肩を落とした。


 そんな俺を、何を探索前から疲れているのじゃと、加代ちゃん隊長が激励する。


「よいのじゃ!! 埋蔵金を見つければ、多少は生活が豊かになるのじゃ!!」


「例えば?」


「……シールの貼られてないおいなりさんが食べれる!!」


 埋蔵金見つけてそれかい。

 食費は確かに倍になるかもしれないが、そもそも、安いおいなりさんではありがたみもあったものではない。


 もっとこう、マイホーム買うとか、デイトレーダーになるとか、そういう夢のある話をしようよ。


「という訳で、ゴールデンキュウビ、はじまりはじまりなのじゃ!!」


「うぉーい!! 時事ネタかい!!」


「むむっ、父さん、こっちに妖怪アンテナの反応が!!」


「父さんってなんじゃい!! 無理にいろいろ引っ張らなくていいからどうぞ!!」


 色んな意味でテレビ番組に影響され過ぎだろう。

 ほんとミーハーなんだからと、俺は川口加代ちゃん隊長に続いて、山に入った。


◇ ◇ ◇ ◇


「いやー、いい景色なのじゃ。この景色が結局のところ、秀吉の宝物だったのじゃ」


「……結局埋蔵金なかったし。頂上まで登り切るし。なんだったんだこれ」


 山頂で、加代お手製のおにぎりを頬張りながら俺は広大な街の景色を眺める。

 完全にハイキングである。デスクワークで運動不足気味の俺には、なかなか厳しい休日のアクティビティであった。


 それだけに、塩おにぎりとホットの緑茶が身に沁みる。


「のじゃ、秀吉のお宝は見つからなかったけれど、これからも加代ちゃん冒険隊は夢とロマンを追い求めて、頑張っていくのじゃ」


「なんでそんなテレビ番組の締めみたいに言うんだよ」


 というか、秀吉が天下取る時代に生きてたんだから、埋蔵金の真偽なんて知っているんじゃないのか。そこんところどうなのよと問い詰めると、少し困った顔をして加代の奴は頭を掻いたのだった。


「いやー、わらわはあの時代、政争に嫌気がさして、九州の方に行ってたのじゃ」


「九州」


「そしたら、平和になったと思ったとたんに、チェストチェスト言い出すしのう。おまけに訛が強くって……明治の頃にまたこっちに戻って来たが。大変じゃっとん」


 うん。

 どこまでテレビに影響されてんだ、九尾どん。

 絶対嘘だろフォックス。

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