第37話 三つ巴の戦い ×2

「ヴァンパイア! 今夜こそお前を倒す!」


 真理亜の振ってくる長剣とキックをひかりは下がりながらかわしていく。彼女に対して止めろと言うのも筋違いだろう。真理亜は元からヴァンパイアを倒すためにこの町に来たのだから。

 元気そうなら何よりだ。ひかりは嬉しく思いながらも笑みを浮かべないように注意し、反撃に転じようとするが、その行動に移る前に真理亜の背後で立ち上がる者がいた。サラマンディアだ。

 さすがに玉座の崩壊ぐらいでくたばるような相手では無かった。古の王は真っすぐに杖を向けてくる。


「お前は我に捧げられたのだ。我の元に戻ってこい!」


 杖の先端が緑の輝きを放ち、触手のように伸びてきた緑の光線が真理亜の体を捕らえた。真理亜はそのままサラマンディアの元まで引きずられていき、その腕に捕まってしまった。真理亜はもがくが彼の腕はかなり頑強そうで振り切れないようだった。


「やはり生者は使えんな。死して我に仕えるがよい」


 不気味な呟きとともに、サラマンディアの杖の先端に紫の輝きが灯る。

 それは生者を屍に変える必殺の呪法だ。それをゆっくりと真理亜の顔に近づけていく。


「真理亜!」


 ひかりは慌てて飛び出そうとするが、その必要は無かった。

 真理亜もまた鍛えてきたハンターだったから。ただの娘のように捕まっているだけの大人しい少女では無かった。


「ぐほっ」


 真理亜の鋭い肘鉄がサラマンディアの腹に入った。腕が緩んで解放され、少女が身を捻り、前かがみになった敵のあごに必殺の指を軽く握ったジャンピングアッパーが炸裂した。

 サラマンディアは綺麗な放物線を描いて吹っ飛んで倒れた。

 ひかりはただ見ていただけだった。まだこちらが一撃も入れていないのに最初の攻撃を取られてしまった。

 真理亜はアッパーの跳躍から着地して、軽く襟元を直して息を吐いてから言った。


「何なのあいつ。ヴァンパイアの仲間なの?」


 とても心外な言葉だ。それは違うと言いたいところだったが、サラマンディアが頭を振りながらすぐに立ち上がったので言えなかった。


「何なのだお前は。ヴァンパイアの仲間だったのか?」

「はあ???」


 真理亜が心底心外そうな声を出す。ひかりの始めて見る彼女の呆れた表情だった。話をする余裕はない。サラマンディアの行動が早い。


「我に手を出したからには、運命を受け入れる用意は出来ているのだろうな!」


 杖を足元の地面に沈め、代わりに禍々しく巨大な白骨の剣を出してきた。本気で戦う気になったのだ。手始めに真理亜が攻撃される。

 王者の強力な攻撃に真理亜は何とか対処していくが押されている。その口から悔し気な声を出した。


「こいつうざい! ヴァンパイアがすぐそこにいるのに!」


 ひかりは出来れば共闘して戦いたいところだったが、真理亜が攻撃を凌ぎながらも優先的にこっちを狙ってくるのでそうもいかなかった。


「ヴァンパイア、死ね!」

「くっ!」

「二人とも、我に首を差し出すがよい!」


 ひかりはサラマンディアの大剣を防ぎ、真理亜の攻撃にも対処せざるを得なくなった。このまま防戦に回っていてはこっちが不利だ。ひかりは覚悟を決めた。


「ヴァンパイアを舐めるなあ!!」


 ひかりの双剣が真理亜とサラマンディアの剣をそれぞれに弾く。反撃はすぐに来る。みんな強い。そして、三つ巴の戦いが始まった。




 三者の戦いを眺めながら不二は苛立ちを抑えられなかった。この迷いも苦しみも全てを消し去るために腕を振り上げ火球を生み出す。


「ヴァンパイア! お前さえいなければ良かったのに!」


 戦場へと放とうとする。だが、その攻撃は放つ前に紫門の鞭によって撃ち落とされた。


「ひかりの邪魔はさせないぜ」

「あなたもですか。この星の連中はどいつもこいつも忌々しい!」


 不二がフェニックスの翼を広げて連続して放ってくる炎弾を紫門は鞭を振り回して撃ち落とす。何発かは身に受けたがたいしたダメージではない。

 フェニックス自身が言っていたように今の彼の力は以前にひかりと宇宙で戦っていた時より数段落ちていた。だが、油断の出来る相手ではない。紫門は冷静に構えた。


「お前は本当にひかりが悪だと思っているのか?」

「何?」

「俺だって最初はそう思ってこの町に来た。だが、あいつを見ているうちに変わったんだ。あいつは変な奴だがそう悪い奴じゃ無いんじゃないかってな。お前も同じ気持ちなんかじゃないか?」

「ふざけたことを。星々の神々の意思は絶対です。この星に住まう者達は悪なのです!」


 不二は炎を鞭に変えて襲ってくる。紫門も鞭で応戦する。空中に炎と鋼の鞭が打ち合って火花と音を奏でていく。


「私の炎と打ち合うとは。ただの鞭では無いようですね」

「先祖代々鍛えてきたからな。別にお前を倒すためじゃないんだが」

「では、誰を倒すためですか?」

「それはあのヴァンパイアを倒すためさ」

「おかしなことを言う人ですね!」


 不二が炎の鞭を大きく振って地面を叩く。そこに火の玉が生まれてきて浮き上がった。フェニックスの翼を振って風を起こすとともに火の玉が次々と紫門に向かって襲い掛かっていく。

 紫門は右へ左へと転がって避け、さらに避けられない物を鞭で落として凌いだ。


「俺だっておかしいと思っているさ! だが、ここへ来て見て感じてしまったのは仕方がないだろう! お前だって自分で見て感じた物を信じろよ!」

「それがおかしいと言うんですよ! もう邪な者と関わるのはうんざりです。これで終わりにしましょう!」


 不二が一際大きな火球を放ってくる。この攻撃は避けられない。そう判断した紫門は防御しようとするが、その火球は届く前に横から来た者に蹴り飛ばされた。

 火球は大きく逸れて横の夜空に消えていった。その場に着地した狼男は狼牙だ。最初に紫門と戦った時より彼もかなり腕を上げている。

 狼牙は鋭い獣の目をして不二を睨んだ。紫門を背にして言う。


「よう、紫門。俺の分の獲物を残しておいてくれたようだな」

「狼牙! お前が来たのか」

「また邪魔者が増えましたか。いいですよ。何人でも始末してあげましょう!」


 不二が火球と炎の鞭を振るってくる。


「二人まとめて消えなさい!」


 さらに地面から吹き上がって挟むように迫る炎の柱。


「こいつと一緒は御免だな。あいつは俺が殴ってくるぜ!」

「おい! 勝手な行動をすんな!」


 炎の攻撃を巧みなフットワークで避けて、狼牙は敵に迫っていく。

 不二は火の粉となって攻撃を避けるが、狼牙は敵の動きを読んでいた。


「同じ間違いは二度もしねえ! そこだ!」


 狼牙は敵の出現場所を読んで飛び蹴りを放つが、それは不二が作り出した炎の盾で防御された。


「動きを掴んだのは上出来ですが、所詮は獣ですね。燃え尽きなさい!」


 盾の表面からほとばしる業火が発射される。紫門は危うく狼牙の体を蹴り飛ばして難を逃れた。自分を助けてくれた相手に狼牙は起き上がりながら文句を言った。


「何しやがる! てめえ!」

「お前を助けてやったんだ。礼ぐらい言えよ」

「何だとう!? こいつとの前にお前との決着を付けるか!?」

「はあ、後にしてくれ」


 紫門はため息を吐きながら構える。この戦いは苦労しそうだと思いながら。


「野蛮な人達ですね。やはりあなた達は好きになれません」

 

 不二の言葉に同感できてしまうのが困ったところだった。

 そして、こちらでも三人の戦いが始まった。

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