第35話 集まる仲間達
ひかりは辰也に肩を貸す箒とともに夜の町へと降り立った。
人気が無く幻想的な光の揺らめくその場所は、日頃住んでいた町でありながらまるで異界に来たような印象をひかりに与えた。
辰也が箒の腕を乱暴に振りほどいて地面に座る。彼は苦しそうに呻いていた。
「くそっ、この俺が足手まといになるとはな……」
「会長!」
「フッ、こんな時でも俺を会長呼ばわりか」
「あ、リアルとこっちでは別でしたね」
ひかりが全く見当違いのことを思っている余裕はさほど無かった。辰也は再び苦しそうに呻く。受けた傷は深いようだ。
いつも呑気で明るい箒もさすがに心配そうに思いつめる顔をしていた。
「こんなことになるんなら、援軍を連れてくればよかったよ」
「それなら……」
クロが言いかけた時だった。空気が震えた。地を覆う光が揺らめき、そこから無数の骨トカゲ兵達が姿を現した。辰也は苦し気ながらも敵を睨んだ。
「俺達を遊ばせるつもりはないということか」
「なにさ、これぐらい!」
「チート能力者にとっては遊びのうちだ!」
襲い掛かってくる骨トカゲ兵の群れ。箒とひかりは応戦するが、敵は前に戦った時よりも強くなっていた。
「王が現れたことで力を増したようですね。特殊な加護が働いているようです」
「王はわたし!」
クロの分析にひかりは鋭く言葉を飛ばす。
敵は強くはなっていても、それでもひかり達の勝てない相手ではない。
それでも数が多い。傷ついた辰也を庇いながらでは満足に移動することも出来ない。
辰也も深手を負いながらも竜人の炎で応戦するが、多少の敵を焼き払ったところで敵はさらにやってくる。
「すまない。俺が動けないばかりに」
「気持ち悪いこと止めてよ! 辰也らしくもない!」
「チート能力者に敵はない!」
応戦するが、包囲網がじりじりと狭まられてくる。ひかりには敵の集団の裏で嘲笑うサラマンディアの姿が見えるようであった。
「古の王……サラマンディア!」
さらに骨のリザードマンを斬って捨てる。もうかなりを倒したはずなのに、敵の勢いは一向に止まらない。
大軍に包囲された戦場で追い詰められて、箒はついに決断した。
「行ってよ、ひかりちゃん」
「え……」
ひかりは信じられない思いで、いつも冗談めかして笑っている箒の顔を見返した。彼女はこんな時でも笑って言った。
「ここはあたしと辰也で十分だからさ。先に行って偉そうにしている偽物の王様を吹っ飛ばしてきてよ」
「でも……」
ひかりが迷っていると、辰也も続けて言ってきた。
「相手が王を騙るなら、お前の力で教えてやれ。誰が真の王にふさわしいのかをな」
「…………」
ひかりは剣を震わせて考える。決断をしようとする。その時、遠くの方から雄たけびのような数々の声が聞こえてきて、ひかりは顔を上げてそちらの方を見た。
足元で使い魔の猫が言う。
「来たみたいですね」
「え……?」
ひかりには何が来たのか分からない。クロはしれっとした顔をして言った。
「連絡網を回しておいたのですよ。いざという時の為にね」
そう、戦場にやってきたのは敵では無かった。ひかりのよく知る町の魔物達だった。仲間だった。
彼らはひかり達と思いを伴にし、ひかり達の分まで怒っていた。
「よくも俺達の町で好き勝手に暴れまわってくれたな!」
「ここは俺達の町だ! みんなで守るぞ!」
「「「「「おおーーー!!」」」」」
彼らは容赦なく戦場になだれ込んでくる。トカゲの兵士達が応戦する。周囲はたちまちのうちに乱戦の模様となっていった。
ひかりは安心して力が抜けるような気分だった。そこにさらに知っている人達がやってきた。
「師匠! 遅れてすみません!」
「お前は後先考えずに突っ走り過ぎなんだよ!」
狼牙と紫門だ。彼らは駆けつけてくると、すぐに傍の敵に向かって攻撃を仕掛けていった。爪と鞭の乱舞が敵を打ちのめしていく。
紫門の撒く聖水が敵の進路を妨害した。
包囲網がわずかに後退し、余裕が出来た。
「また怪我をしたの? 仕方がないなあ」
「放っておけ。だが、手早く頼む」
そこにマル次郎がやってきて辰也の治療を始めた。辰也もこの時ばかりは素直に治療を受けた。
戦場の至る所で戦いの音が上がる。
「俺はもうすぐで王になりかけた男だ! 俺の活躍を見ろ! うわああ!」
どこかでサハギンも暴れているようだった。この前見たフランケンも巨体の腕で敵を派手に薙ぎ払っている。心強い援軍を得て、ひかりの心にも温かさが戻った。
「ありがとう、みんな。少しここを任せてもいい?」
「もちろんです、師匠!」
「わたしはちょっと行って敵のボスを吹っ飛ばしてくる!」
狼牙の答えを得て、ひかりの決断は早かった。この場所を頼りになるみんなに任せて、敵の中枢に向かって飛び立った。また狙撃されるわけにはいかないので、なるべく低空を飛ぶことにする。
「だから、お前は先走るなと言っているんだよ!」
その足に紫門が鞭を伸ばして巻き付けてきた。ひかりは見下ろして思い出す。ずっと前の夜の戦いを。
「また足元がお留守だと言うつもり?」
「いーや、ここは楽をさせてもらうぜ」
「いいけど、振り落とされても知らないよ!」
ひかりは猛スピードで驀進する。鞭で繋がった紫門を牽引して低空を駆け抜ける。立ちはだかろうとする骨トカゲ兵達をひかりは両手に持った双剣の振るう風圧で吹っ飛ばす。
降ってきた骨を紫門は足で蹴とばした。
心強い援軍を得てひかりの力は上がっていた。王の力を見せるべき時だった。
狼牙は戦場で敵を打ち倒しながら慌てて紫門の行った方角へと目を向けた。
「お前だけ師匠と行くなんてずるいぞ!」
「お前も行きたければ行けばいいだろう」
背後から怒りに満ちた強い熱気を感じて、狼牙は背筋を震わせて振り返った。
そこに立っていたのは辰也だった。怪我はすっかり回復したようで、その竜の瞳は怒りと屈辱で煮えたぎっていた。
「よくもこの俺をコケにしてくれたものだ。この借りは何倍にもして返してやるぞ!」
竜の炎が周囲のトカゲを焼いて吹っ飛ばして粉砕していく。あまりの迫力に狼牙が唖然としていると、箒が気楽にウインクして言ってきた。
「あたし達はザコを全滅させてから王様のところに行くから、狼牙君は先に行ってていいよ」
「おう!」
「さあ、あたしだってただじゃ済まさないよ!」
箒がやる気を出して、戦場で暴風が荒れ狂う。
答えて狼牙は走る。敬愛する師匠といけ好かない紫門の去った方角へと向かって。
邪魔するトカゲは蹴り倒しておいた。
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