異世界特別管理委員会・イッカン

佐伯春人

プロローグ

第1話 チートスキルの撲滅

「もう死ぬのか。なんだ、魔王とかいうのも案外ちょろいな」転生した勇者・新庄英輔は瀕死の魔王・アンゴルモアを見下して言う。


「勇者よ、待ってくれ…!お前にこの世界の七割をくれてやる。だから私の命だけは助けよ!」アンゴルモアはひれ伏し新庄に命乞いをした。


「却下」


「何だと!?七割だぞ!お前はこの世界の真の支配者になれると言っているのだ!!」


「くだらねぇな。俺のスキルなら、この世界のすべてを支配できる。いいからお前はここで死ね!」


「ひぃぃぃいいい!!!!!!!!!!!!!!」


新庄はチートスキル・万物の形成で手に入れた聖剣・エクスカリバーで魔王に何の躊躇もなく斬りかかった。



ストン。

柔い感触。まるでエクスカリバーが切れ味を失ったかと思うほど、不可解な感触を新庄は感じた。


「えー。百を超えるチートスキルを持つ男、新庄英輔。とある交通事故に巻き込まれ、この異世界・アークバウムに転生、と。転生したとき、チートスキル・百技(ひゃくぎ)を発現した。このスキルはこの異世界に存在する幾重ものスキルの中から百のスキルを意のままに操れる。ああ、確かにチートだわー」


「誰だ、お前!!」新庄の目の前には、見たこともないスーツ姿の人間が何食わぬ顔で立っていた。


「あー、ども。茨城県つくば市から来ました。異世界特別管理委員の遠野大智です」


「は?茨城県?特別…管理?」


「そ。では新庄さん、特別法規措置によってあんたを逮捕しますのでよろしく」


「逮捕だと?なんだ……つまりお前も俺の敵か。……なら、ここで死ね!!」

そういうと新庄は手の平から超常現象並みの炎を巻き起こした。炎は火柱になり、遠野目がけて襲いかかってきた。


火柱は遠野を完全に包み、焼き払った、ように見えた。


「ふん。なんだったんだ、あいつは」


黒煙がまだ残る中、新庄はふたたび魔王の下に向かった。


「だから、異世界特別管理委員ですって。通称・イッカンです。よろしく」

煙の中から現れた遠野にはかすり傷一つ付いていない。

「!?お前、なんで生きている!?」

「いや、効かないし」

「効かないだと!?そんなふざけたことがあるか!!?」


遠野の手には拳銃が握られている。


「…はっ。む…無駄だ、俺の身体は反射の盾で守られている!そんな拳銃、簡単に弾き返…」


「C・バレッド。攻撃対象。異世界・アークバウム・転生人―新庄英輔。火力120に設定」



ズドン!!



銃身から弾が発射される。

弾丸は新庄のスキルを帯びた盾を易々と貫通し、新庄の身体に触れた瞬間、炸裂した。

「ぐぁあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


パァァァァァァン!!!!!!!!!!

何かが弾けた音がしたあと、新庄は膝から崩れ落ちるように地面に倒れた。


「き…貴様、どうして……俺のスキルが効かないんだ」辛うじて意識のあった新庄が口を開く。


「イッカンに俗に言うチートスキルは聞きません。残念でしたー」


「なん…だと」


「あんたは要するにこの異世界のバグ。バグは取り除かないと、この世界の秩序が乱れるでしょ。この世界も俺たちがいた地球と同じ一個の星なんだから」


「…くそぉ。ようやく……ようやく俺がトップに立てそうな世界に転生したと思ったのに……!!」


「はいはい。捕まった人みんなそういうからねー。さぁ帰ろうかー」そういいながら遠野は新庄の手に手錠を掛けた。


「か…えるだと?どこに」


「地球」

遠野の言葉を最後に新庄英輔は気を失った。


「じゃあ、俺ら帰りますんでー、ご迷惑おかけしました。今後も魔王の仕事頑張ってください」遠野は呆気にとられていた魔王に挨拶し、魔王城を後にした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

2027年・6月25日

茨城県つくば市・独立行政法人・近未来研究所地下8階


「ただいま」遠野は新庄をおんぶした状態で転送されてきた。

「はい。お帰り」研究所副所長・桜庭英美が異空間転送装置「オクルクン」の前で出迎えた。


「疲れたー。帰るよ、俺」遠野は新庄を男性スタッフに預け、研究所を出て行った。


「お疲れ。……さて、まずはこの男の事情聴取と同時並行で新たな異世界の歪みの研究を急いで!」桜庭が全スタッフに聞こえるように指示した。



異世界特別管理委員会・イッカン。

異世界転送装置「オクルクン」が出来たことで可能になった転生人たちが壊した異世界の「歪み」の修正。

それこそがこの組織ができた理由だった。

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