第3話 埼玉の精霊
俺は部活を終え、自転車で与野の自宅に帰ってきた。
「ただいま」
俺の声だけが吹き抜けの天井に響く。がらんとした一軒家には人気がなく、暗い。
大学受験の要項も出ないから、俺は三年を迎えた今も部活を続けていた。家事、学校、部活、トランザム戯れる……きっとしばらくは、この生活ルーチンが続くのだろう。氷結した世界とこんな生活が続くのかと思うと、なぜかため息が出る。
俺は剣道道具を置いて裸電球に明かりを灯すと、廊下の壁に座り込んだ。
「にゃーん」
足にすり寄ってきたトランザムが、今度は夕飯をせがんでくる。
「わかったよ、ご飯だな」
専用のお皿に水を汲んで、夕飯用の鶏ささみとカリカリを合わせたご飯をあげると、トランザムは一目散に食べ始めた。「いい下僕扱いだなあ」と我ながら思うが、猫はこういう所が可愛い。
突然、トランザムはご飯を食べるのをぴたりとやめた。ふと俺を見上げ、ぴくぴくと耳を動かしている。
「どうした、トランザム?」
トランザムは俺が話しかけても、それが自分の名前なのか曖昧な様子でとてとてと歩いていってしまう。
トランザムは一階の掃き出し窓から外に出たいようで、前足を立ててはウー、とか唸っている。
「もう夜だよ、今から外に出たら寒いだろ?」
俺はトランザムを抱き上げ、膝の上に乗せる。温かい。白くて柔らかい毛を撫でていると、三ヶ月前にこの世界を襲った悲劇なんて忘れてしまいそうだ。
「お前だけはどこにも行かないでくれよ、トランザム……」
この無味乾燥した日々からトランザムがいなくなったら、きっと俺はやっていけないだろう。
俺がトランザムを撫でていると、遠くでドーンという、微かな音がした。
「……何だ?」
気のせいかとも思ったが、妙に気になって窓を開けた。
俺がサンダルをつっかけるよりも早く、トランザムが窓をすり抜けて庭に降り立った。
「お、おい、トランザム」
トランザムは、庭に面した道路へ飛び出した。
また車に轢かれたら大変だ……俺も慌ててトランザムを追いかけると、首輪のない一匹の白ネコが道路に倒れていた。
「へ……?」
最近は車が通る事もまばらなこの道で、どうして……?
微かな疑問を胸に白ネコを抱き上げると、まだうっすらと温かい。
白ネコは時折ぴくぴくと耳を動かしながら、それでも最後の命の火を必死につなげようともがいている。
「まだ、生きているのか? とにかく、うちへ……」
猫は藻掻きながら、何やらみゃーみゃーと伝えようとしてくる。
「どうしたの、苦しいのか?」
訊ねたところで、白ネコの言葉を分かってやれるはずもない。ただ、俺が出来る事は背中を撫でてやることだけだ。今の時間にやっている動物病院なんてほとんどない。
白ネコは青空のように澄んだ瞳で時折俺を見つめるが、だんだんと瞼を閉じていく。
俺は無力さを噛みしめながら、必死に白ネコを抱き締めていた。
「生きてくれ……死んだら、すべて終わりなんだ」
俺は何度も何度も白ネコの体を撫でた。あの時のトランザムの姿が重なって、俺は泣きそうになっていた。だが無常にも、抱きしめた白ネコからはやがて力が抜けていき、やがてだらんと弛緩してしまう。
「おい……嘘だろ……」
俺は白ネコを揺さぶった。怪我らしき怪我も見当たらないけれども、白ネコから温かさが失われていく……。
俺が突然の白ネコの死に震えていると、トランザムが帰ってきた。それも後ろには、四匹もの猫を連れて。
「それは……お友達?」
トランザムはにゃーんと呆けた声で答えるが、俺には分からない。
トランザムの後ろでは、サバトラ、ソックス、三毛、黒猫が心配そうに白ネコのほうを伺っている。
猫たちは白ネコの周りをぐるぐると回って、暖めたりしている。だが、それでもダメだと分かると、四匹の猫たちは一斉に俺の方を向いた。
「な、何……?」
八つの瞳が、俺を見つめている。
すると、サバトラの猫がすっくと二本の足で立ち上がった。
「ぱんぱかぱぁ~ん! あなたは埼玉救世大使に選ばれました!」
「は?」
「おめでとうございまぁす!」
次々と他の猫たちも立ち上がって喋り出した。
「ちょっと……ちょっと待って? 猫なのになんで喋ってるの、チミたち」
「ノン。ぬーたちは猫のように見えるけど、実は猫ではないのです~」
「私たちはさいたまの
……は?
訳が分からない。ふわふわの毛玉たちは、俺に向かって畳みかけるように話しかける。
「あーっ、今みやたちのこと、ゆ●キャラとか、ご当地キャラだと思ったでしょぉーっ」
三毛の猫がぷんすかと頬を膨らませている。
「まあまあ、みやちゃん。ともかく、この方に私たちのことを知っていただきましょう」
やさしい口調の黒猫にたしなめられ、猫たちはそれぞれ自己紹介した。
ソックス柄の賢しい顔つきの猫が浦和の守護精霊うるる、明るい三毛猫が大宮の守護精霊みや、自分をぬーというサバトラの猫が見沼の守護精霊ぬー、上品そうな黒猫が岩槻の守護精霊ワツキというらしい。
三毛猫のみやちゃんは器用に俺の本棚から日本地図を出すと、埼玉を指して言った。
「春は花が咲き、夏は太陽が、秋は実り、冬は青い空が広がる……この埼玉は古くからさきたまと呼ばれて、太陽が花のように咲くしあわせの国として繁栄してきたの。それはひとえに、埼玉を守る精霊……たまのおかげ。私たちは埼玉を守る精霊として、ずっと昔から埼玉のことを見守ってきたんだよ!」
すると、うるるが言った。
「埼玉の由来とは、まがたまでも多摩地方のことでもなく、御霊のたま……つまり、土地の精霊たまの事だ。豊かな自然と私たちの守護が組み合わされた埼玉は精霊指定都市に認定されて以来、繁栄を許されて発展してきた」
「でも、埼玉県の線引きは1899年に始まったって社会科で……」
「勉強が足りない、
「ぶごッ」
前歯が欠ける勢いで、俺の口はうるるの肉球でふさがれた。
「私たちはちゃんと時流を読んで土地を移動する性質がある。初めは行田のあたりに集まっていた埼玉の精霊たちも徳川家康の入封や廃藩置県を経て、それぞれの守護地域に散らばったのだ」
「へ、へえ。勉強になります……」
「ちなみにここだけの話、一時期設置された大宮県が明治時代に浦和県になって以来、みやちゃんとうるるはあんまり仲が良くないの……」
萎縮する俺の耳に、そっとワツキが耳打ちする。
「だーかーらぁ、私の力で氷結をはねのけたっつってんでしょ!」
「違う! みやのおかげだもん!」
ワツキが言ったそばから、うるるとみやちゃんがぽかすかと肉球で殴り合っている。
「でも、埼玉は自衛隊の秘密兵器のお陰で氷結から免れたって聞いたけど……」
「うん。そうだよ、私たちは精霊から生まれた地方創世時代の新兵器・
「TAMA……?」
ぬーの聞き慣れない言葉に俺が耳を疑っていると、みやちゃんが言った。
「私たち精霊を生かす力は、県民が持っている地元愛の力なの。近年エコとかリサイクルとか、条約とかで制約があるでしょー? だから、新兵器には超自然的な資源を使いましょうってことで官・民・霊一体となって、土地の守護
「へ……マジ……で?」
「凄いだろう、地方創世の力を兵器に応用したビッグプロジェクトだ。最近流行のヴァーチャルアイドル技術を利用して、私達も体を具現化できるようになったんだ」
(いや……政府も自衛隊も力を入れる所が間違ってるだろう)
えっへんと胸を張っているうるるにツッコミたくなるが、さっきのパンチがかなり痛かったのでぐっと胸にとどめる。
「だが、氷結によって各地のTAMAが次々と倒され、埼玉の一部も氷漬けに……サキちゃんも、それで弱ってしまって……」
「この白ネコのこと?」
俺は腕の中でぐったりとした白ネコを見つめた。
「はい。私たちは各地方の守護
ワツキはサキちゃんを撫でて言った。
「今日の与野は一段と寒かったでしょう? それは与野を守っていたよよのちゃんが倒されて、死んでしまったからなの」
「与野が……死んだ?」
「でも、きっと大丈夫。この猫ちゃんの肉体を借りるですよ」
ぬーが言うと、四匹の猫たちは倒れたサキちゃんとトランザムの周りを囲んでぐるぐる回り始めた。
「ぐんま・ねーりま・さいたまさいたまー!」
すると、トランザムの体に光が集まっていく。
「ト……トランザムゥゥッ!」
一体、何が起こっているんだ……?
俺はその呪文につっこみを入れて仕方なかったが、まぶしくて目を開けていられない。
眩い強烈な光が止むと、目の前には猫耳のついた、全裸の美少女が横たわっていた。
手足の細い白皙の少女は背中を丸めて起き上がると、瞳を開いた。片方はトランザムの瞳の色・そしてもう片方はアクアマリンのような澄んだ空色をしている。
「……で、美少女形態にとらんすふぉーむするデスね」
「で……じゃないよ! ふ、服、服を……」
すると、サキちゃんと呼ばれた美少女……じゃなかった、美少女形態の白ネコは、俺に抱きついた。
「さ……むい……」
白銀色の髪をした美少女……人間で言うとまだ十歳前後の女の子は、白い睫毛に囲まれた瞳を潤ませて俺を見上げた。
目のやり場に困り、ただおろおろとする俺に、うるるが口早に言う。
「早くしろ。お前がサキちゃんに選ばれたのだ」
「早くしろって言ったって……何を?」
「分からんのか。早くサキちゃんを撫でるのだ」
「撫でるって言ったって……は、早く、な、何か着てっ!」
「サキちゃんは極度の寒がりなのです。さあ、早くナデナデするのみゃ」
みやちゃんに急かされるが、俺はぶんぶんと首を横に振った。
「んな事言ったって……! 全裸の女の子に触れるのは犯罪だってば!」
すると、ワツキが俺の傍に寄って言う。
「躊躇する必要はございません。サキちゃんは埼玉を守る精霊……それに、早くなでなでしないと、奴らにサキちゃんの力が渡ってしまう……」
「敵……?」
するとその直後、近所に何かが墜落するような音が響いた。
「何だ……?」
ドーンという爆発のような音は何度も続く。それは埼京線の高架を挟んで西側の、彩の国芸術劇場のほうから聞こえてくる。
俺たちが駆けていくと、見慣れた風景はすべて凍り付いていた。
道を歩いていた人々は皆、何が起こったかすら分からぬうちに氷の中に閉じ込められ、写真のように凍り付いた表情でいる。
俺はその中の一人の姿に目を留めた。
「あれは……嘘だろッ! 八尾ッ!」
凍結した八尾の姿だ。隣には、一女の制服を着た女の子が笑顔のまま凍り付いている。
「お前だけは……彼女いないと思ってたのに……抜け駆けかよぉぉッ、qあwせdrftgyふjkあるおklzじょd!!!!」
俺は地団駄を踏んで氷像に駆け寄るが、後ろから引っ張られてそのまま転倒する。
「ダメ!」
みやちゃんとぬーが、俺の両脚をくわえていた。
「この氷に触れると、普通の人間はみんな凍っちゃうの」
「凍る? でも、早く溶かさないと八尾が……」
「この氷は、普通の氷じゃないの。この氷は触れた人の体を凍らせるだけでなく、魂も氷結させてしまうの」
「そんな……じゃあ、どうすりゃいいんだよ?」
「大丈夫、サキちゃんの力が戻れば、みんな戻るはずです」
サキちゃんは再び白ネコの姿に戻っていた。その後ろには、不思議な後光が差している。
「さいたまの守護精霊は、太陽の力を持った白ネコの化身……サキちゃんはどんな氷も溶かしてしまう、太陽の力を持っている。ただし、それは埼玉を思う人々の心によって支えられた力みゃ。
「LL値……?」
サキちゃんは四つ脚で踏ん張ると、体に光を集め始めた。だが、光が満ちる前にサキちゃんはくたりと倒れ込んでしまう。
「サキちゃん!」
俺はサキちゃんに駆け寄って、小さな体を抱えた。
「……やはり、普通のネコに憑依した直後では負担が大きいか……」
うるるが額に皺を寄せて言った。
サキちゃんは震えながら、俺の掌に頭をもたれてくる。
「大丈夫~、埼玉を愛する人の温かい手で撫でてあげると、サキちゃんのLL値は回復するです。あなたの名前は?」
「野乃原武蔵」
訊ねるぬーに、俺は答えた。
「武蔵、私たちは埼玉を愛する人の心で出来ている。お願い、あなたの力を貸して、サキちゃんには心から埼玉を愛する人間の温かい手が必要なの!」
「でも俺、埼玉好きじゃ……」
「えっ、好きじゃない……ですか?」
すると、精霊たちは一斉に泣き出してしまった。
「埼玉が好きじゃないなんてぇ!」
「ひどい、ひどいですぅ! アニメの聖地としていち早く花開いたのも埼玉ですのに!」
にゃーにゃーにゃーにゃー精霊たちが鳴くものだから、俺は参ってしまった。
「い、いや……好き……かも?」
「好きかも……なんて気持ちで埼玉は守れない。サキちゃん、こんな男はだめだ、行こう」
しかし、サキちゃんはうるるに引っ張られても、その場を動こうとしない。
「む……さし……」
サキちゃんはじっと俺のほうを見つめたままだ。
「サキちゃん……ごめん……」
俺は、嘘をつくのが兎に角大嫌いだ。
可愛いサキちゃんをなでなで……はしてやりたいが、俺は埼玉が嫌いだ。こんな相反する気持ちを抱えたまま、出来る訳がない。
すると、突然空から一片の氷が降ってくる。
見上げると、空の色はグレーの影に覆われていた。
「へ?」
「危ないッ!」
俺はうるるに突き飛ばされ、俺とサキちゃんは道の端に倒れ込む。
「うるる……何するんだよ一体!」
「馬鹿者、死にたいのか!?」
俺が事態を理解できずに佇んでいると、直後、ドォンという地響きとともに、隣にあった電柱が倒れる。
「ひ! 何なんだよ……何が起こってるんだ!?」
おろおろと立ち尽くす俺を見て、ぬーが言った・
「あ、そうか。武蔵には見えていないですね。ぬーの予備ゴーグルを使うです」
ぬーに貸してもらったゴーグルを着けると、みるみるうちに頭上の妙な影が具現化してくる。
見上げた先には、体長十数メートルはある氷の巨人が立っていた。俺が影だと思っていたのは、どうやらこの巨人の足の裏だったらしい。
「なっ……何だ、これは!? この巨人は、一体?」
「これが、世界大氷結をもたらした原因……ウラー。誰かの悪しき思念によって凝固した、冷気の鬼だ……」
うるるが答えた。
轟音を轟かせるウラーと呼ばれた巨人は、のっしのっしと地響きを上げ、時折ビルを薙ぎ倒しながらこちらへ向かってくる。
どんよりとした空の鈍色と同じ色をした巨体は、巨体とは思えぬ敏捷な動きでサキちゃんに襲いかかる。
「スーパーソニック・シールド!」
ウラーの掌は、みやちゃんの鈴から放たれた超音波の盾で弾かれた。
「精霊形態だと、私たちの本当の力を発揮できないの。埼玉は私たちが守るわ! 美少女形態とらんすふぉーむ!」
みやちゃんが叫ぶと、精霊たちは次々と美少女形態に変身していく。
みやちゃんは明るいオレンジ色の髪をした巫女さんの姿に、うるるはアシンメトリーなショートカットにショートパンツ、ぬーは龍の着ぐるみをきたほんわか系の女の子に、ワツキは黒髪ロングの和服美少女になった。全員の頭には、猫耳がついている。
(ね、猫耳! か、可愛い……)
少なくとも、俺はケモナーではなかったが、恐らく、たった今目覚めてしまったのだろう……。ぴょこぴょこと左右に振れる全員の尻尾に、俺は目を瞬いた。
「……あまりお前にこの姿は見せたくなかったのだが、仕方あるまい。サキちゃんの為だ」
うるるはボーイッシュなチェック柄の赤いジャケットにショートパンツを合わせていた。程よく引き締まった太腿には白いニーハイを履き、絶対領域が覗いている。そして、お尻の所から尻尾と思われるものが伸びている。
俺が目を白黒させて猫耳精霊たちに見惚れていると、ウラーの吐き出す氷のブレスが降り注いだ。
「し……しまった!」
凍結する冷気によって、俺は足元から氷漬けになっていく。
(い、いやだ……彼女もいない内に氷結するなんて……!)
すると、飛んできたみやちゃんが、俺たちの前で大幣を振った。
「もう、武蔵の馬鹿バカっ! ボサッとしないで! しっかりサキちゃんを守っててみゃ!」
みやちゃんの声で我に返る。足元の氷結は溶け、俺の体は元に戻っていた。
「ご、ごめん……サキちゃん、行こう!」
俺は急いで家の庭に干していた毛布を掴むとサキちゃんに被せ、氷のブレスを避けて走る。だが、ウラーは背後に迫っている。
「……私が引きつけておく。武蔵、お前はサキちゃんを連れて逃げろ」
うるるがウラーの前に立ちはだかった。
「攻守ともに埼玉一の実力者である私の力を見せる時が来たな……」
うるるの瞳が妖しく光った。
「我天地二段を分かつ者……埼玉県庁都市である浦和の名をその身に刻め!」
速すぎて何も見えない……うるるの周囲で飛び散った氷晶雨の飛沫で、かろうじてうるると思われる影が動いているのが分かる。
「
豪速のキックが描く動線は、うるるの履いているソックスによってうさぎの形を帯びてくる。
うるるの猛攻で、ウラーは粉々に砕け散った。瓦礫の崩落するような音がして、ウラーの破片が雪崩のように崩れる。
「やった!」
サキちゃんの手を引いて走っていた俺は足を止めた。しかし、サキちゃんは不安げに瞳を窄ませる。
「むさし……まだ……」
「大丈夫だよ、うるるが片付けてくれたから……」
俺がうるる達に合流しようと向きを変えると、突然進路を塞ぐように岩石みたいな氷塊が降ってくる。
「何だ……!?」
氷塊はみるみるうちに他の氷片を呼び寄せ、再び巨人の形に成型された。
「なッ……! 復活した?」
直後、ウラーの口から氷玉が発射された。
「あぶないッ!」
再び、みやちゃんのシールドが発動し、俺とサキちゃんは難を逃れた。
「うるる! 脇が甘いみゃ!」
みやちゃんがうるるに叫んだ。
「ク……私一人でウラー一体を倒せないなんて。やはり、よよのが欠けた今、我々さいたま組全体の力も落ちているということか……」
うるるは肩から息を切らせている。
ウラーは再び、俺とサキちゃんを攻撃目標に選ぶと突進してきた。
「そうはさせないです! 〈
ぬーは着ぐるみのフードを目深に被ると、ウラーに向かって大量の水を放射した。ウラーから白煙が上がって、溶けているのが分かる。
ウラーは溶けていく体を押さえながら、それでもサキちゃんを執拗に追いかけてくる。
「一度ならず、二度までも……しつこい男性は嫌われますわよ」
ワツキは和服の裾を捌くと、上空に跳び上がった。それぞれの両手には、操り紐のついた日本人形がついている。
「岩槻はお人形の町……あなたも私のお人形にして差し上げます」
日本人形はウラーの手足にくっつき、あちこち動かし始めた。操り紐の動きは、すべてワツキが描いている。
「<
ウラーは日本人形によって意志と無関係に踊らされ、体の自由を奪われている。
「今ですわ、みやちゃん、うるるさん!」
「まっかせてみゃ! スーパーソニックビーム!」
みやちゃんの鈴から放たれた音速波が、ウラーの全身に襲いかかる。
足元から砕かれていくウラーは身動きできず、天上から降りてきたうるると正対する。
「埼玉の理に沈め……<さいたま地裁拳!>」
ウラーは頭から粉砕され、俺たちの頭上に粉雪のような輝く氷粒が降り注いだ。
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