第27話 秘密とされていた、過去の因縁
「さて…と。この辺りでいいか」
「ヤド…?」
壁際に張り付いているコンクリートに両手で触れながら、俺はその場で呟く。
何をしているのか気になったベイカーが、首を傾げながら俺の名前を呼んでいた。今現在、この場には俺・ソルナ・ベイカー・デュアン。そして、スクワースの5人がいる。ルシアト・ファミリーのアングラハイフは、代表してスクワースをこちらに出向かせているが、それ以外の人員を裂くつもりも余裕もないようだった。
「ヤド…その鍵は…」
俺が上着のチャック付きポケットから取り出したのは、銅でできた鍵だった。
ポケットから取り出した俺は、閉じていた口を開く。
「これから、奏の奪還と
「聞いてほしい事…?」
その
ただ一人を除いて――――――――――――――
「最初に顔を見た際、誰かに雰囲気が似ているなと思ったが、あんたまさか…」
デュアンが、俺に対して口にする。
やっぱり、デュアンはラヴィンが遺した書物で知っていたか…
俺は、横目でデュアンを一瞬見据えた後、再び話し出す。
「“俺ら”の間でよく知られている事実は、“リヴリッグが自身の
「なっ!!?」
俺の
一方、デュアンは俺が手にしている鍵をまじまじと見つめていた。
「“鍵”の存在を知っていたにも関わらず、今まで誰にも話さなかった…。というよりは、話せなかったと捉えてもいいんだな?」
「…あぁ。この
デュアンから問いかけられ、俺はすぐに返答する。
俺達の間で、緊迫した空気が流れていた。
「もしかして…“秘密を明かす事”が、その鍵を使えるようにする方法…とかだったりするんっすか?」
「…ほぼ正解だ」
ソルナが不意に呟くと、俺は一瞬だけ考えて答えを述べる。
俺は改めて、ソルナの洞察力に感心していた。
「一つ、お前らに謝らなくてはならないのは…。この
「でもそれは…“鍵の存在を秘密にする”のと同様、教えられなかった事ですよね?」
俺が少し俯きながら語ると、ベイカーが問いかけて来る。
「…まぁな。あとは、香園の前に宿っていたラテに出逢ったのも…偶然ではなく、出逢うべくして出逢ったって事だからな…」
冷めたような表情を浮かべながら、俺は手にしている鍵を見つめる。
その後、俺は“鍵を使用できるようにする条件”に値する、鍵と俺の一族に纏わる因縁を、仲間達に語りだすのであった。
「人間の言い方でいうと、“俺の一族”…すなわち、この
「そのコミュニティーとは…?」
俺の語りに対し、スクワースが問いかける。
「“聖杯の秘密を守り、代々それを伝えていく事”をモットーにしてできたコミュニティーだ」
「そういえば、ラヴィンもそのコミュニティーに属していたと伝え聞いたな!」
話の途中で、デュアンが口を挟んでくる。
「あぁ。一方でリヴリッグは、元々どのコミュニティーにも属していなかった。故に、何も知らないのだろう」
デュアンの
はるか昔------------西暦という暦があったかも定かではない時代より、俺の
「扉の守り手であるリヴリッグ…。最近のあいつの様子は、どうだ?」
「相変わらず、自分の居場所でおとなしくしているが…最近、少し明るくなったような気がする」
クルツとアールアイが、その場で会話をしていた。
「ラヴィン…君は、どう思う?彼とは最も親交が深い君から見て、彼は…」
「そうですね…」
そして、少し離れた場所では、椅子に腰かけたラヴィンも会話に参加していたのである。
彼は腕を組み、その場で考え事をしながら答える。
「アールアイの言うことも、一理あるかと…。今度会ったら、それとなく話してみましょう」
ラヴィンのこの
そして、再び時は流れ――――――
「どうやらリヴリッグは、人間の娘に好意を抱いているようです」
「ほぉ…」
「因みに、どのような出自の人間か?」
リヴリッグから話を聞いたラヴィンが話を切り出し、その場でクルツとアールアイも聞いていた。
アールアイは、アングラハイフが――――もとより、聖杯への扉の守り手が心寄せる人物がどのような
「…なに。人間の集落で暮らす、どこにでもいる普通の娘ですよ。…ほら」
ラヴィンはクルツの問いに答えながら、一つの水晶玉を取り出す。
光が発した後には人間の集落を映し出し、そこには一人の娘が映っていたのである。
「彼が“普通の者”であれば、誰を好きになろうが、交流しようが構わないのだが…。彼の立場…そして、あの
アールアイは、水晶玉に映る娘を見つめながら、ラヴィンと会話を続けていた。
クルツはこの時は黙ったまま話を聞いていたが、彼の視線が水晶玉に映りこんでいる娘に釘付けになっていたのは、アールアイもラヴィンも気が付かなかったのである。
「…とまぁ、具体的な事がわかっているのは、このやり取りまでだ。これ以降の話は、口伝で伝え聞いただけだから、少し曖昧になる」
俺は、仲間達を見渡しながら、一度話に区切りをつけた。
「今の話の展開から察するに…。その後の展開、悪い臭いがプンプンするな…」
「…あぁ。あんたの言う通り、良くない事がこの後に起こるんだ。結末として、“聖杯”自体は特に問題は起きなかったがな」
デュアンの
「リヴリッグは五体不満足だったが、遠くから見つめる事しかできなかったが…。一人、その“娘”に心を惹かれ、会いに行った
「それって、もしかして…」
すると、ソルナが緊張した面持ちで俺を見つめていた。
俺は、ソルナを横目で見た後に、黙ったまま首を縦に頷く。
「…あぁ。クルツが、その娘に一目ぼれしたんだ。奏とそっくりな風貌を持つ人間に…。しかも、クルツは…かつては“ラテ”であり、現在は“香園”が宿っている
「なっ…!!?」
その
全員の表情を見渡した後、深呼吸をした俺は、再び話しだす。
「その後、何がどうなってその結末に至ったかは伝わってないが…クルツはその娘に会いに行き、気持ちは伝えたんだろうな。だが、断られた事で怒ったクルツはその娘及び、近くにいた集落の人間達を皆殺しにしてしまう…」
「“感受性が強い”という香園の噂は…“ラテ”よりも以前からあった性質かもですね…」
今度は流石に驚かなかったのか、俺の話を聞いていたスクワースが不意に呟く。
「そんな事が過去にあった関係で、俺は“ラテ”が行方不明になった後に、例のコミュニティーに呼ばれた。一つは、リヴリッグの後継種を見つけ、聖杯の無事を確認する。もう一つは……消息を絶ったクルツの後継種を見つけ、彼を支える事を俺は命じられた」
「“支える”…か。どうやら、そのアールアイは、友をずっと支えることができなかったのを、後悔しているのかもしれませんね」
「…だな」
ベイカーの呟きに対し、俺は素直に同調していた。
「……これで、俺が抱えている秘密は以上だ。この鍵はアールアイが生きていた時代に作られ、“このコミュニティーの存在意義と秘密を口伝で明かされた時のみ効力を発揮する”というまじないがかけられている。だから、これで…」
「わっ!!?」
すると突然、鍵から光が発し、俺以外の奴らは目をふさぐ。
…話せて、少し気が楽になったな…
俺は、鍵から発せられる光に対して目をつむりながら、少し安堵した表情を浮かべていた。
「鍵が…すごく綺麗になっている」
「さっきまでは、錆びて使えないような色をしてたっすからね!」
光が消えた鍵は、新品のように光沢を帯びていた。
それに対して、スクワースやソルナが感じたことを述べる。
「さて。俺らが今いる場所は、確実な“扉”の前ではないが…。大分“扉”には近づいているはずだから、鍵を使って入るぜ!」
「だとすると…俺様は、足手まといになるから、
満面の笑みを浮かべたデュアンが、進んで残る事を進言する。
「だとしたら…彼一人だと何が起こるかわからず不安なので、僕も残りますよ」
すると、スクワースがデュアンの護衛も兼ねて残る事を口にする。
…それが、一番ベストな組み合わせかもな
俺はその場で一瞬だけ考えた後、すぐに答えを出す。
「じゃあ、おっさんとスクワースはここに残っていてくれ。なので、ベイカー!ソルナ!!」
「もちろん、奏ちゃん救出は行くに決まってるっす!!」
「…お供しますよ」
俺が奴らの名を呼ぶと、二人はすぐに応じてくれた。
その後、地下鉄線路の壁に向き直した俺は、緊張した面持ちで鍵を壁に近づける。
はるか1000年近く続く、このしがらみ…。俺自身のためにも、必ずアホ猫を助け出して、香園のバカを止めなくては…!!
俺は、
そうして、香園や奏が通った“正規の道”でない場所を通り抜け、俺達は彼らに追いつくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます