第62話 理解

「いっつーっ……」


「いた……」


「ったく、ここどこだよ」


「さあね。その秘密の場所とやらと考えるのが道理なんじゃない」

そういいながら痛むお尻をさする僕。


唐突に地面が消えそのまま真っ逆さまに、地へ吸い込まれるようにして落ちて来た僕らは今、真っ暗で何も見えない場所にいる。

僕の予想だとこの大陸を形成している岩の内部だと思うんだけど……。

辺りはひどく土臭いし地面はゴツゴツしていて岩のようなのであながち間違いではなさそう。


「ベジ、ラナ、大丈夫か?」

そういうソウに慌てて辺りを見まわす。

そうだ、ベジにラナは

そう思って辺りを手探りで触っていたら不意に誰かの手を触れてしまって「きゃっ」という短い悲鳴があがる。

悲鳴をあげられた……。

ベジかラナかわからないけどショックだ。

いや、こんな暗闇の中でいきなり手を触られればそれは驚くよな。うんうん、そう思おうなんて考えていて、ずっと手をそのままにしていた僕にその人は

「ちょっとなにずっと触ってるのよ、エッチ」

という。


……んっ?今の声心なしか……。


「……まさか、ソウか?」


「おお、そうだぞ、ソウだぞ、なんつって。どうどう?俺の女声可愛かった?ベジとラナ混ぜた感じのこだわりのっていった!つねんなよ」


「自業自得」

短くそういうとパッと手を離す。


「にしてもベジとラナは?」


「この感じだとはぐれたっぽくねえか?よくあるじゃん。パーティ分断されること」


「さあね……」


でも確かにソウ以外に気配を感じないからはぐれてしまったらしい。


「どうするよ。こんな暗いとこではぐれたってなると相当大変だぞ」


「まあ、そうだけど、とりあえず探すしかないだろう。ミカエルの言ってたことは当てにならないだろうけど万が一にもここに玉がある可能性もある。だから玉をさがしつつベジとラナを探してついでにここからでる糸口を掴もう。僕の予想ではここは大陸を形成している岩部の内部だからミカエルはきっと土の魔法で一時的に穴を開けここに僕らを落としたんだ。それにしたって」

そういったところでやけにソウが静かなことに気づく。


「どうかしたのか?」


「いやあ、お前ってほんと面白いなあって思って」


「は?」


「は?とはなんだよ、冷たいなあ。要するにさ、俺ら気があうな☆ってことだよ。おれもおんなじこと考えてたからさ」

暗闇でもウインクされているような気がするその口調になんだか寒気がして黙り込む。


「とりあえず進もう。右側の壁に手を添えながら歩いていけば自然と出口に近づいてくだろ」


「りょーかいっ。でも真っ暗でなにも見えないぞ」


「ソウは魔法使える?」


「俺?俺は無理無理。だからラナにいつも助けてもらってるしさ。そういうお前は?」


「僕は……」


懸命に努力してなんとか契約した精霊が仲間である悪魔に吸収されたーなんて情けなくてとても言えない。


「まあ色々あって……使えない」


「そうか。じゃあさ、這って壁際までいこうぜ。そのうちつくだろ。勿論声かけあってな」


僕が明らかに魔法使いの様相をしていることに気づいてないのだろうか。ソウは僕が魔法を使えないといったことをさして気にしていないようだった。

でも、そうだよな。ずっとあそこに閉じ込められ閉鎖的な空間で育ったのだから魔法使いの装いとか知らないだろう。

でもソウは読書家だという。実は知っていたり?

そんなことをゴチャゴチャ考えていたら

「おーい、壁発見したぞ〜。右か左かはわからん」

なんて声が聞こえてくる。


「ああ。わかった」


まあ、考えていても仕方ないか。

そう思った僕はソウの声が聞こえてきた方に這って歩いていく。

両手両膝がゴツゴツした岩土にこすれて痛い。きっと出口にたどり着く頃には皮が剥けてることだろう。


「ここ、ここー!」


「うん、わかった。今ついたよ」

そういってゴツゴツした岩壁に触れる僕。


確かにこれだけじゃ右か左か正確にはわからないな。

そもそも左側の壁をつたっていけば出口にたどり着くっていうのはどういう意味だろう。

よく聞く言葉だし、僕自身その言葉に疑いがあるわけでは無いけれど

あっちを向いてれば右はこっちだし、そっちを向いてれば左はこっちだし。

なんだかもう訳がわからなくなってきた。

それは僕のすぐ考え込む性格も起因しているだろうが、このただただ暗く触れるものがゴツゴツした岩だけで土臭い状況にいるからってのもあると思う。


「なーんかここにずっといると鬱々としてくるよな。俺今吐きそうなんだけどさ、友として手を貸してくれないかい?そういう意味で」


「どういう意味だよ」


「頼むよ〜」


「いや、やめろよ!」

不意に手首を掴まれ鬼気迫ってそういうと「ちぇー」という声とともに手首が解放される。


「タグは俺のこと友達と思ってはくれないんだな」


「え……いや、その、そういう意味じゃなくて」


今のは完全に吐くのをやめてって意味でいったんだけど

そういえば学校にいる時もこんな風にいわれたことあったな……。タグくんの言葉はきついって。一回女の子を泣かせてしまったこともあったし気づかない間にキツイ言い方になってるのかもしれない。


「誤解させちゃったんなら、ごめん。僕でよければ、友達に……なってほしい」


少しぎこちないながらもそういうと

「あったりまえだろ〜」

という心底明るい声とともに頬に衝撃が走る。


どうやらソウに平手打ちされたらしい。

そのことを理解すると僕は怒りにわなわなと震える。


「おい……」


「ごめん、ごめん。ミスった、ミスった。にしても今のほっぺ?超ツルツルもちもちで女の子みたいだな」


「おい」


「わかったよ。ごめん、ごめんの庄之助」


「誰だよ庄之助」


「まあまあ、細かいことは気にせずな。んでさ、俺とお前、お互いに読書好きで博識じゃん?だから絶対気があうって思うんだよ」


暗闇から聞こえるそんな声には思わず照れてしまう。

よく考えたら男友達ができるのなんて初めてだ。いつも一緒に遊んでいたのはティアナだし。


「でも、性格は正反対だ。さっきみたいに君を不快にさせるようなことを僕がいうかもしれないし、僕が不快になることを君がいうかもしれない。それでもいいのかい?」


暗闇の中だからだろうか。

言葉にださなくてもいいような心の内をそのまま外に出してしまう。

暫く沈黙が流れてうわあこれはまずいことをいったかも、ソウって地雷わかりづらいし、なんて思っていたら

「……はあああぁぁぁぁああああああ」

抑揚のついたわざとらしいため息が聞こえてくる。


「タグくん、お馬鹿?実はお馬鹿キャラなの?」


「は、はあ?」


「そんなのさ、あったりまえだろ!友達っていうのはそういうのが一番いいんだぞ。反対の二人同士が一緒にいたらどうなると思う?」


「さ、さあ」


「最強になるんだよ」


顔を見なくたってわかる。今のソウは鬱陶しいくらいのドヤ顔をしているのだろう。


「反対ってことは自分が全く見えてないところを相手が見てくれてるってことなんだよ。それってつまりは最強だろ」


「う、うん」


そんな考え方もあるんだ……。

確かに反対って最強かもしれない。

現に今もソウにそう言われなければ僕はその反対の考えを思いつくはずもなかったろうから。


「お前とベジもさ、いいと思うぜ、反対」


「は、はあ?!な、なにをいいだすんだよ。いきなり。も、もう行くからな」


慌てて壁伝いに進み出す僕。


「そう照れんなってー」

そういって僕の足を掴みついてくるソウ。


「放せよ」


「はいはい。でもさ、これはマジで。前も言ったけどうちのベジを幸せにしておくんなし」


「だ、だから、僕は別に……」

そう言ったところでソウにずっと聞いてみたかった言葉が頭をよぎる。


「ソウはベジのこと、好きなのか?」


「はあ?あったりまえだろ。大好きだよ」


そんな言葉を聞いてホッとする。

ソウのその言葉には僕が心配していたような意味合いが一切感じられなかったから。


「あっ!もしかしてタグ、俺がベジのこと恋愛的な意味で好きだとか考えてた?」


「え?いや、別に……」


「その言い方、絶対図星だろ」

そういって豪快に笑うと

「まあ、家族として、な。安心しろよ」

という。


僕はなおさらホッとしてなんだか気が抜けてしまう。


「あと、さ」


それからもう一つ、聞きたかったことがある。


「君は故郷にいた時、自分たちが魔王の子孫で呪いをかけられ閉鎖的な空間に閉じ込められてるんだって気づいていたのか?」


「……なんでそう思う?」


「君はかなりの読書家らしいし、頭も相当キレそうだ。文献で得た知識と頭のキレがあれば簡単に気付けてしまいそうだなと思って。君なら、ね」


「…………いや〜、恐れ入ったよ。……そのとーり。ただまあ、なんとなくって感じだけどな。光と闇の大戦の本があって、それ読んでたら闇側についたやつはみんな何かしら呪われたとか殺されたとか書いてあるわけ。んで俺、小さい頃から家族以外の人とか都会とかに憧れててずっと行きたい行きたいっていってたんだけど親はそりゃ頑なにダメだっていうわけさ。で、それが、異常なくらい頑固でさ。これは何かあるなーって思って、んで、そのタグがいう頭のキレとやらで繋がったんだよ。呪いと家からでられないことが。」


「すごいね、君は。周りはみんな今ある状況になんの変化も求めず異常さも感じていないような状況でよくそう考えられたね」


「はは、まあな〜。」

なんとも言えない、どこか含みがあるようにも聞こえる声音。


それから少し間があいて、ソウはまた口を開く。


「俺、ベジに約束したんだ。必ずお前を探し出すって」


「うん」


「けど俺が迎えに行く前に他の王子さまを見つけてたみたいだからさ」


「うん……ん?」


「ばーか。お前のことだよ。あとセレナちゃんな。とにかくベジは新しい大切な人を見つけてた。俺はそこに割って入る気もないし。なによりベジとは違う方法で家族救ってベジのこと安心させて幸せにしてやりたいなって思って。んで、志同じくしたラナと旅してるってわけ」

そう聞いて、なんだかひどく不安になった。

こんなにも真っ直ぐな声で人を幸せにしたいと、そのために旅をしているというこの人に僕は勝てるのだろか。


ベジがソウのことをどう思ってるのか本当のところはよくわからない。

けどどちらにしろ僕はこの人を超えなくてはいけない。


そんな気がする。


「なんにしろ、そのことをちゃんとベジ本人に伝えてあげてくれ。ひどく不安がってたから」


「はいほい。」


ソウがそんな呑気な返事をした矢先

「きゃあああぁぁ!!」

遠くの方から響いてくる悲鳴。


「今のって……」


「急ぐぞ!」


「あ、ああ」

僕らは急いでその場所へ向かった……。

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