第5話 13年前

 今まで楽しそうだったシルファの顔色が悲しそうな表情に変わる。


「はい・・・13年前まで、『フォーレリア』は、本当に平和な世界でした。人族、魔族、神族、エルフ、ドワーフ、獣人族などの亜族も含め、時々争いはあるものの、大きな戦争などはなかったのです。かえって、今の地球の方が争いは激しいかもしれません」

「んで、13年前になにがあったん?」

「13年前、神の住まう世界『神界テオギース』に一番近い場所にある空中に浮かぶ巨大な島『天空の王国シルフォニア』に突如として、『白き王』と名乗る白髪の少年、今のソラ様と同じくらい齢でしょうか。彼が『鉄の兵団』を引き連れて侵略してきたのです。ソラ様が3歳、私が6歳の時でした」

「鉄の兵団ってのは、ロボットの兵士達のこと?」

「はい。私も『地球』に行って、驚いたのです。あの『鉄の兵団』が、ロボットと呼ばれる人型の機械にそっくりなことに」

「それをその『白き王』が操っていたってことか?」

「はい、意のままに。機械の兵士達も、人と変わらない動きをしておりました。しかも、魔族の軍団も率いていたのです。真夜中の奇襲ということもあり、我が軍は、不意を突かれ、籠城戦は後手後手に回り、すぐに窮地に追い込まれました。しかも、私の父が団長を務める天空騎士団が遠征中の出来事でした」

「また新情報やん!シルファンって、騎士団長の娘なんかい?!」

「はい!なので、第一王子であるソラ様のお側付きの騎士になれたのです!ソラ様がお生まれになった時に王妃様から直接頼まれたのです!『ソラをお願い』と!私が3歳の時です!」


 シルファはまるでハグを求めるように、ソラに対して、両手を広げる。


「はいはい、さっき聞いた。続き続き」


 軽くあしらわれたシルファは、しょぼんとしながら、話を続ける。


「はい・・・。私も父に付いて遠征中でしたので、実際の状況は、『シルフォニア侵攻』から逃げ延びた兵士から聞いたものなのです。数十体の機械兵士達は、地球の『銃』に似た武器で、我が軍を圧倒し、あっという間に天空城は支配されました。ただ、ソラ様のお父上であられる天空王様は、臣下達を逃がすために、たった一人、機械兵士達と『白き王』に立ち向かったとお聞きしております」

「それで・・・やらちまったのか、俺の本当の親父は・・・」


 記憶が曖昧だ。母親の顔は先ほどの魔法によって、思い出したが、父親の顔はよく思い出せない。


「・・・そう言われております。ソラ様の記憶で見たように、王妃様は、城の一室に追いつめられ、なんとかソラ様を助けるため、『時空転移魔法』を使用し、ソラ様を『地球』へと転移させたのです。王妃様にとっても、『賭け』だったと思います。しかし、王妃様の想いがソラ様を惑星『地球』の円城寺へと導いたのだと思います」

「・・・」


 時空転移魔法を使用した時の母親の鬼気迫る表情、転移する瞬間に見た微笑。ソラ様はそれだけでも胸に迫るものを感じていた。もし、まだ生きているのなら、会いたい。もう生きていないけれど、父親のことも聞いてみたい。自然と目頭が熱くなってきたが、なんとか我慢する。


「・・・それで、その後はどうなったん?」

「はい、その後、王妃様と大半の臣下達は囚われの身となり、天空の王国シルフォニアは完全に『白き王』に支配されたのです。そして、『白き王』は、魔族の王である魔王サタンと、邪神デューラと手を組み、『魔国軍ニウェウス』を創立しました。そこから『フォーレリア』の暗黒時代が始まったのです」

「魔国軍ニウェウス・・・」

「白き王と機械兵団、魔王軍、邪神デューラとその眷属達、そして、さまざまな邪悪な者達が集まった『魔の軍勢』です。その後、人族最大の国である『火の帝国イグニス』を制圧し、『竜の王国ドラガルド』も傘下に収め、世界の半分を支配下におきました」


 ソラは『白き王』を思い出していた。雪のように白い髪と肌。少女と見紛うような美しさ。だが、そこには、引き連れてきたロボット兵団同様、『無機質さ』が感じられた。人間を虫ケラ同然に扱うような、冷たい瞳。あの時、ソラと母親が怯えている姿に、確かに『白き王』は愉悦を感じているような笑みを浮かべていた。人が怯える姿こそが、まるで娯楽劇ショーであるかのように。寒気と嫌悪感、そして激しい怒りを感じる。人が笑わせることが大好きなソラにとって『白き王』は許しがたい存在だった。フォーレリアの美しい景色、花のにおい、鳥の声も入ってこなくなるような激情に駆られる。


 そんなソラを見て、心配そうな表情をしていたシルファだが、気を取り直して、強い笑顔を浮かべる。


「ソラ様、そんな顔しないでください!私達もただ『魔国軍』にやられっぱなしだったわけではありません!私達も『魔国軍』を倒すために、今日まで努力してきたのです。『打倒、魔国軍』を掲げて、創立された国、それが我が『連合国軍アスール』です!」

「はっ?!アカン!なんか自分の世界、入ってもうた。で、連合国軍?つまり、シルファが今、所属している軍隊ってわけ?」

「そうです。我が天空騎士団は、その時、同盟国である『風の王国アーレイア』とともに、『火の帝国イグニス』との会議に出席しておりました。その時に『シルフォニア侵攻』を知ったのです。急ぎ、『風の王国アーレイア』に協力を要請し、風の魔法の一種である千里眼クレアボヤンスを使い、その状況を把握したのです。その後、『風の王国アーレイア』と『火の帝国イグニス』に援軍を要請、『白き王』と機械兵団に挑みましたが、結果は無残なものでした。たくさんの戦死者を出すことになったのです。私達は、体制を立て直すことにしました。強大な敵に立ち向かう新しい国を作ろうと!」

「それで出来たのが、『連合国軍アスール』・・・」

「はい!しかし、『白き王』は恐るべき速さで領土を拡大していきました。『魔国軍ニウェウス』の創立、『火の帝国イグニス』及び『竜の王国ドラガルド』侵略。魔国軍を倒すことは時を経つごとにつれ、より困難なものになっていきました。そこで私達は、連合国軍創立と同時に進められていた作戦に賭けることにしたのです。それがソラ様の捜索でした」

「いきなり俺かい?!」

「はい!『風の王国アーレイア』の隣国、『水の王国アクエリアス』に協力を仰ぎ、『水のクリスタル』の力により、お告げをいただきました。こちらです」


 シルファは腰のバックパックから巻物を取り出し、広げた。巻物には、こう記されていた。


『白き者、世界を闇で覆う。白き者を打ち滅ぼす力、天の子にあり。天の子、世界に再び光をもたらさん』


 ソラはまじまじとみる。


「これ、本当に俺のこと?」

「天の子とは、天空の一族のことです。伝説では、天空の一族は、世界が闇に覆われた時、その身に宿る力で世界に光をもたらしたといわれています。世界の闇をはらうことは天空の一族の宿命といっても良いのです」

「めちゃくちゃなプレッシャーやな?!ていうか、俺にそんな力ないもん?!」

「あるのです!ソラ様、立ち上がって、両手を天に掲げてください」

「こ、こう?」

「そうです!そして、こう詠唱するのです」


 シルファから教えられた通りに、詠唱してみる。


『我は天空の一族なり。蒼き天空を舞う力を!顕現せよ、空剣エアリアル!』


 ソラの右手から淡い蒼き光が満ち、左手へと伸びていく。

 蒼き輝きを湛えた透明な剣が出現する。

 剣越しにシルファの姿が見える。

 キラキラと、ソラの周りに蒼い光が満ちる。

 右手で剣を握り、振ってみると、シャンと小気味よい音が鳴った。


 嬉しそうな顔をしているシルファを見る。


「ソラ様、それがあなたの武器、天を舞うことができる世界で唯一の剣、『空剣エアリアル』です!」

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