この度の問題に対し、よしおさんに土下座して貰いました。

「謝りなさい。幸おじさん」


 気づくと俺はまたここにいた。

 冷たい地面に座り込む俺。

 そしてあの時とまた同じセリフが、目の前に立っている師匠から浴びせられる。


「幸、早く謝っておいた方がいい。まらちゃんの怒りはもう限界だぞ」


 いつの間にやらそこに立っていたいずくに右から話しかけられる。

 俺は首を振り、自身の置かれたこの現状にやれやれとため息をついた。

 前回、新章を開始して『缶コーヒーを奢ってもらいました。嬉しかったです。』を投稿したのは11月の11日。そして今現在は12月の13日である。その間、風邪を引いたり就職したりとバタバタしていた約一か月間。いるのかはわからないが更新を楽しみにしてくれていた人々の期待をこの小説はまた裏切ってしまった。そしてまたなぜか、非常に理不尽な事だが俺が謝らなくてはならない流れになっているという事なのだろう。俺にでもそれくらいわかる。舐めるな。


「よしおさん……」


 いつの間にやらそこに立っていたエリカに左から話しかけられた。

 泣き出しそうなその表情になぜか俺の心が痛む。

 俺は何もしてないんだけどな!!

 ともかく、早く謝っておいた方が良さそうだ。

 お前らの気が晴れるなら俺は何度だって頭を下げてやるさ!

 俺は何もしてないんだけどな!!


「幸ちゃん。申し訳ないという気持ちがあるのなら、そこがどこであろうと人は土下座ができるはずだよ!」


 いつの間にやらそこに立っていたルミに後ろから話しかけられた。

 その声に俺が振り向くとこの野郎! なんでにやけてんだ!

 ていうかこのセリフどこかで聞いたことあるぞ!!

 これから謝罪をするというのになんだかふざけた雰囲気になっちまったじゃねーか!!


「幸おじさん……」

「幸……」

「よしおさん……」

「幸ちゃん……」


「ああもうわかったよ!! 更新が遅れて申し訳ありませんでした!!」


 ……


 ……


 ……あれ?


 なんで本編が始まらないんだ?


 早く*を打てよ。


 エリカがユーチューバーになる章だろ?

 なんで始まらないんだ?


 俺はこの不可解な状況に助けを求めるべく師匠の顔を覗き込んだ。

 俺の発言にあきれ返ったようなその表情に、俺の疑問は深まるばかりだ。


「うん、確かにそれも謝らなきゃいけないよ……」


 ゆっくりと口を開いたいずくに俺は質問を投げかける。


「それも!? なんだ? いずくよ、俺は他に何を謝ればいい?」


「よしおさん……、あの事ですよ……」


「エリカ! 教えてくれ!! 俺にはまったく自覚がないんだ!!」


 エリカは顔を曇らせ俯くばっかりだ。


「幸ちゃん。わしはこれが好きでのお。肉焦がし、骨焼く鉄板の――」


 ええい! ルミは黙ってろ!!


「わからないなら教えてあげるわ。幸おじさん。最近短編を投稿したでしょう?」


 師匠に言われて俺は気付く。

 そうか、その事か。

 見ているおまえらには何のことだかさっぱりわからないだろうから一から説明する。特になろうでこれを読んでくれている人にはなんの事だか置いてけぼりだろう。


 この小説は小説家になろうと、カクヨムの両サイトに同時掲載している。今迄それをネタにしたこともあったし、それ自体を知っている人は少なからずいるはずだ。

 だが、数週間前にカクヨムだけにこのユーチューバーのパロディ短編を投稿した事を知る者は少ないだろう。

 なんせ昨日それを削除するまでについたPVは90前後だけだ。殆ど読まれることはなくこの世から闇へと消えていった短編小説だ。


 なぜ消したのか。

 それはその小説がある問題を引き起こしたからである。


 その小説のタイトルは『ユーチューバーが祭りに参加するようです』である。

 そのタイトル通り、仲間内であるお題をテーマに各々が小説を書くと言う企画だった。そのお題は……【レッグウェア】


 ストッキングとかタイツとかレギンスとかニーハイとか、女性の足、または脚を彩るそれらをテーマに皆で小説を書き合い公開した。


 『ユーチューバーが祭りに参加するようです』の内容は俺といずくがレッグウェアをテーマにした動画を流行りのPPAPに乗せて制作し、更に流行りの祭りに参加しようとするある日の出来事を、メタにメタを重ねて書いたものであった。

 深夜のテンションも相まって書いていてとても楽しく、また他の人が書いた作品も秀悦で面白く、大いに盛り上がった企画である。

 90PV前後しか伸びなかったと言ったがそれでも構わなかった。お互いの書いたものを読み合うだけで楽しかったからである。この企画は大成功を納めたように見えた。

 だがしかし、ここに問題が生じてしまったのだ。


 当然俺達はお互いの書いたレッグウェアをテーマにした小説を読み合ったのだが、読んだ作品には感想を書きたくなるものだ。

 そしてカクヨムは……、感想を書くことによりポイントが入ってしまうのである。

 その結果、参加者たちは第三者から相互評価とみなされ、2ちゃんねるに名前を挙げられるという事件が起きたのである。

 正直な事を言うと、それを知らされ2ちゃんねるを覗きこみ、作者の方のいずくかけるの名前が挙がっていた事に炎上系ユーチューバーの性か、申し訳なさよりなぜか嬉しさが込み上げてしまったが、この事態を深く受け止め、その小説を闇に葬り去ったわけである。


 だけど……、言い訳に聞こえるかもしれないが、俺達は相互評価なんてそんなつもりは無かったんだぜ? 大体十人にも満ちていない人間通しが評価し合ったからって、レッグウェアみたいな大衆受けしないお題の小説が伸びるわけないじゃないか!! 俺達は仲間内で楽しみたかっただけだ!!


 それが俺の本音であるが、だがやはり、世間はそれを許してくれないであろう。ユーチューブであれば相互したところで殆ど意味は為さないが、ユーザー数の少ないカクヨムでは深刻な問題なのだ。きっとこうしてネタにする事すら不快に思う人がいるのかもしれない。


 この事件が関係しているからなのかどうかはわからないが、2016年12月09日、

カクヨムの公式ブログにて、ユーザー企画の参加作品が識別される仕組みが導入される事が発表され、俺は事態の深刻さを実感しこれを語るに至る。


「わかった、わかったよ師匠」


「幸おじさん……」

「幸……」

「よしおさん……」

「幸ちゃん……」


 この件について、俺は今再び謝罪しなくてはならない。

 ここまでふざけたようには書いているが、それを不快に思ってしまった人間もいると言うのなら、俺は心の底から謝罪しよう。


「この度は多くの方にご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした!!」


 ……


 ……


 ……あれ?


 本編が始まらないぞ?


 早く*を打てよ。


 俺の謝罪は間違っていなかったはずだ。


「違うわ……。違うわよ幸おじさん」


「よしおさん、違うんです!」


「幸ちゃん。まだわからないの?」


 女性陣から責められ、俺はいずくに助けを求めた。

 いずくはバツの悪そうな顔を曇らせている。


「違うって、何が違うんだ!? はっきり言ってくれよ!!」


「まだわからないなら教えてやるわよ!! あの企画、レッグウェアが主題だったのよ!? なんで私たちを使わなかったのよ!?」


「そうですよよしおさん……。あの短編出てたの、よしおさんといずくさんだけなんですよ!?」


「うちは他の参加者の小説も読んだけど、女性が出てこないレッグウェア小説って幸ちゃん達だけだったねー」


 俺はどうやらとんでもない勘違いをしていたようだ……。

 レッグウェアを主題とする小説は女性が出てこなければ始まらない。

 なぜなら、主役はレッグウェアではなく、それらを着飾った女性の脚部でなければならないからだ。

 だがしかし、俺達の『ユーチューバーが祭りに参加するようです』に女性は一瞬たりとも登場しなかった!! いずくの持ってきたストッキングを履いたのは俺だったのだから!!

 師匠、エリカ、ルミの怒りは最もだった。

 あの小説で主役となるべきはこの3人でなければならなかったのだ!!


「大体なんで私たちに隠れて2人で短編作ってるのよ!! この小説私が出なかったら誰も読まないわよ!!」


「おっしゃる通りです師匠……」


「やっぱりよしおさんって女装願望があったんですか……?」


「違う! 違うんだエリカ!! そもそもあれを企画したのはいずくであって俺は――」


「謝罪と言う行為は辛ければ辛いほどその価値を増す。その辛さに耐えてこそ証明できるのだ。誠意らしきもの――」


「しつこい! ルミはいい加減そのネタをやめて黙ってろ!!」


「さあ幸、早く謝ってしまえよ」


「いずく! お前も黙ってろ!! ていうかどう考えても謝るべきはおまえだろ!!」


「幸おじさん……」

「幸……」

「よしおさん……」

「幸ちゃん……」


「ああもうわかったよ!! 男だけで勝手に短編作ってすみませんでした!!」





 やあお前ら、待たせたな。

 約1ヶ月ぶりの本編だ。

 期間が空きすぎて前回までの話を忘れちまってる人もいるだろう。

 お手数だがもう一度読み返してくれ。ちょいちょい改稿してあるからその違いを楽しんだりしながらな!!

 先ほど盛大に土下座を決めた俺だったが、実は再びお前らに謝らなくてはならない。気づいてる人もいるかと思うが、もう文字数がいっぱいいっぱいなんだ。

 なんか、ほんと、いろいろとすいませんでした。

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