第二話 白い鳩②

 ロキとファムに案内されて、メインストリートへつながる細い道を少し進んで行くと、この町ではごく一般的なモデルの家に辿り着いた。

 道幅は僕の大股で六歩くらいかな? 左右共に住宅が並び、道の一方は何軒も先へ進むとメインストリートへ、もう一方は同じく何軒も進むと郊外の草原へ続く。

 舗装されてはいない土の道だけれど、やや細道にある市街の住宅地という印象だ。

 早速ファムがドアをノックする。

「こんこん」

「はい?」

 ドアが開いて、中から二十代半ばくらいの平凡なモブ男性が顔を出した。

 ファムは柔らかい表情でその人を見上げる。

 相手と友好関係を築こうとするファムの静かな姿には、何としても情報を引き出して小さい僕を助け出したいという強い意志が感じられた。

 手品が好きで、ロキとファムも好きで、落ち着きがなく負けず嫌いの小さな僕。

 悪気が無いとは言え、ファムからは相手にされず、シェインからは小馬鹿にされた。

 それが悔しくて、一人でヴィランに立ち向かったのだろう。

 僕はそこに、モブ男だの背景太郎だのバカにされ、悔しくてアイデンティティを探し求めていた幼い自分の姿を重ね合わせる。

 うん。やっぱりどこか似てるね、僕達。根っこは同じなんだから。

 ファムもロキも、シェインもみんな心配してるよ。

 必ず助けに行くから待っててね、小さい僕。

「マフィさん?」

 ファムのフワフワした甘い声を聞いて、僕は現実に戻る。

「そうですが?」

「ちょっと話が聞きたくて。子供をさらった怪物のこと」

 聞いた途端にマフィさんは顔を強張こわばらせた。

「どこでそれを!? 誰にも言えません! 言えば私達が襲われます!」

 その様子を見てロキがマフィさんの前に歩み出る。

「失礼。実は我々の小さな友達がさらわれたのです。怪物は我々が追い払います。どうかお話を聞かせて下さい」

「…………」

 ロキは自信に満ち溢れた笑みを浮かべ、落ち着いた、けれど強い調子でマフィさんへ語りかけた。

 マフィさんは話すべきか悩んでいるみたいで、僕達四人も必死に食らいつく。

「お願いします!」「お願いよ!」「お願いなのです!」「頼むぜ!」

 すると怯えた表情でためらいがちにマフィさんが話し始めた。

「…………誘われたんだ、怪物に。子供を買わないかって。私達夫婦には子供がいないから。でも怖くなって断ったら『東海岸の洞窟で待ってる』って。誰かに話したら私達を襲いに来るって……、あっ!」

「クルルルル~」

「ひい――、で、出た――――!」

 僕達が振り返ると、そこにはヴィランの軍勢が!

 ブギーヴィラン、ワーウルフ、ウイングタイプの混成部隊だ。

 彼らはマフィさん家の玄関を取り囲むようにして、細道へ幾重にも溢れていた。

 ヴィラン達の姿が通りの向こうまで、奥へ奥へと続いている。

「感謝します、マフィさん。そして、……クフフ。喜びましょう! 皆さん!」

 ロキがマフィさんに背を向けて、ヴィランの軍勢を歓迎するかのように両腕を大きく広げた。

「はあ?」

 タオが『全然分かんねえよ』の視線をロキへ送る。

「『東海岸の洞窟』! この怪物達を見れば真実味が増すというものです!」

「……ですね。解説の先を越されました」

 タオは『よく分かんねえけどシェインが分かってればそれでいいや』の顔をする。

 でも僕には大体分かる。マフィさんの話は嘘じゃないんだ。

「よーしっ! 覚悟しなさい! 濡れ衣を着せられた分までとっちめてやるんだから!」

「根に持ってたんですね、姉御」


「私のことは、赤ずきんって呼んでね」

 CM記念赤ずきんにコネクトしたレイナが戦闘開始の口上を述べた。

 

 コネクトできる対象は様々だ。

 レイナの場合、回復タイプか剣士タイプのヒーローにコネクトできる。

 パーティバランスを考えて回復役を務める方が多いのだけど。

 CM記念赤ずきんは片手剣を振り回す、狼にも負けない俊敏な戦士。

 レイナが彼女にコネクトしたと言う事は暴れたいと言う事だろう。


 僕達は先程と同様に、妖精王オーベロン、音楽家モーツァルト、お茶好き三月ウサギにコネクトした。

 ロキも弓使いとして参戦してくれている。

 しかし。

「おしおき――!」

「おしおき――!」

「おしおき――!」

「おしおき――!」

「おしおき――!」

 CM記念赤ずきんに変身したレイナが、後先も考えず掛け声と共にむやみやたらと必殺技を撃ちまくる。

 先程も言ったけど、必殺技を使うための『エナジー』は大切なみんなの『共有物』。

 誰かが無計画に使い過ぎれば、みんなが困ることもある。

「ちょっ、姉御。ストレス解消に無駄遣いは止めてください」

「もう騙されたりなんてしないもん! おしおき――!」

「ダメだ、聞いちゃいねえ」

(そう言えば、何故か僕もレイナを怒らせちゃってたっけ? とがめるのは何となく気が引けるな。ってこういう所が地味キャラなのかも知れないけど)


 CM記念赤ずきんの必殺技『可憐なるウルフバスター』は爆炎を伴った衝撃波を片手剣から放ち、軸線上全ての敵を薙ぎ払う技だ。


 レイナが技を使う度、彼女の持つ片手剣には焼けるように熱い炎が宿り、それは剣から解き放たれると力強く加速して、立塞たちふさがるヴィラン達を吹き消しながら一瞬ではるか遠方に飛び去っていく。

 勢い任せに必殺技を使い続けたレイナのおかげで、ヴィラン達はほぼ撃ち尽くされた。

 レイナの軸線から逃れ、生き残った最後の一匹にロキが弓を向ける。

 「ピィィン!」と高く美しい弓鳴りの音を響かせて放たれた矢は、ウイングヴィランの頭部を正確に貫き倒した。


「汝らの魂に安らぎのあらんことを」

 通例として、最後の敵を倒したロキが戦闘終了の口上を述べた。

 チームの中でレイナは最も晴れやかな表情をしていた。


 僕達は事態が収拾したことをマフィさんに伝え、ヴィラン達がマフィさんを誘ったという『東海岸の洞窟』へ向かう事にした。

 そこに小さい僕を見つける手がかりが、あるいは本人がいるかも知れないから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る