第一話 虹色のドレス③
僕達四人とファムロキの兄妹はすぐさま家を飛び出した。
近くの草むらで木の棒を構えた小さい僕が数匹のブギーヴィランと対峙している姿を目撃する。
「こ、このやろー!」
小さい僕はヴィランを怖れつつも何とか抵抗している様子だ。
「クルルルル~。オイデ、オイデ」
一方ヴィラン達はお構いなしにジリジリと距離を詰めていく。
「案の定だ! しかもヴィランが喋ってる?」
「カオステラーはルール無用よ。ファム、アンタは戦わないの?」
「私は非戦闘員だから。でも兄貴は強いよ?」
「エクス君に手を出すとは命知らずな怪物です。さあ、戦闘を始めますよ?」
カオステラーは僕達が倒すべき敵の親玉だ。
物理世界に物理法則があるように、この想区世界には物語という法則がある。
カオステラーは本来の物語を自由に別の物語へ変えてしまう存在で、さきほどレイナが『カオステラーはルール無用』といったのもそういう事情に由来する。
カオステラーはヴィランと呼ばれる怪物を作り出し、邪魔になるものを排除する。
ヴィランには幾つかの種類がいて、今小さい僕を襲っているブギーヴィランは一番弱い種だけれど、子供程の背丈ながら手足が異様に大きく、爪もつけているので迂闊に近づくと大怪我をしてしまう。
というか、大きな蝶々に腕を取り付けたようなウイングタイプのヴィランもいつの間にやら加勢してきた。
「あなたに救済できますか?」
美しい水晶弓を手にしたロキが戦闘開始の口上を述べた。
僕、レイナ、タオ、シェインは物語に縛られることのない想区世界のはみ出し者だけど、それゆえ、想区で活躍する別のヒーローへ変身する術を持っている。
やっていることは、何も書かれていない『空白の書』に力を借りたいヒーローの『導きの
僕は『導きの栞』を高く掲げ叫んだ。
「妖精王オーベロン! 君のストーリーを教えて!」
この変身は正確には接続(コネクト)と言うらしい。僕は情熱に溢れ、背中に色彩豊かな蝶の羽をつけた大剣を振るう妖精の王様に変身した。
同様に、レイナは回復能力を持つ東海道茶屋の恋する
けれど、ほとんど出番はなかった。
ロキが必殺技で全ての敵を一掃してしまったのだ。
「トリック・ペイン・スコール」
ロキは技名を口にして、ヴィラン集団へ矢を一本放った。
するとヴィランの真上から複数の矢がザザーッと降り注ぐ。
すぐに止んだかと思うと次は前上方から斜めに、その後は後上方からも斜めに、ヴィラン達はすでに壊滅状態だったけれど、最後に真上、前上方、後上方の三方向から一斉に矢が降り注ぎ、辺り一帯にいたヴィラン達は全て消滅してしまった。
多方位からの四段範囲攻撃!
僕達が知るヒーローの必殺技の中でも飛びぬけて強そうだ。
必殺技を使うにはその場に
それは自然に湧きだして、こちらからの働きかけで最大量を増やしたり回復させたりはできるけど、その『エナジー』はその場にいる全員の『共有物』だ。
むやみに必殺技を使ってその場の『エナジー』を消費してしまうと、別の誰かが本当に必要な時、必殺技を打てなくなるという事態を招く。
その状況において早々に必殺技を繰り出して敵を一掃したロキの行動には、強い自信が感じられた。
「
ロキが戦闘終了の口上を述べた。
汝らってヴィランのこと?
やっぱりロキの思考はよく分からない。
戦闘終了に安心してコネクトを解除したのも束の間、少し離れた茂みから「ガサガサ」という音がしたかと思うと、数匹のブギーヴィランが顔を覗かした。
「向こうにもヴィラン達が隠れてた、……って小さい僕!?」
「えーい! ポカリ! ポカリ! ポカリ!」
小さい僕は僕達の傍を離れ、茂みから現れたヴィラン達の頭を木の棒で上から叩いた。
「…………? ……コテン」「コテン」「コテン」
何のダメージもないと思われるヴィラン達は、少し間を置いてからわざとらしく倒れる。
「見たか―! ファム、シェイン! ぼくだって強いんだぞー!」
小さい僕はヴィラン達から目を離し、僕達の方へ嬉しそうな顔を向けた。
そこへファムが、かつて見せたことのない鬼のような形相をして叫んだ。
「エクスくん逃げてえ――――!!」
「ムクリ。クルルル~」「オイデ、オイデ」「コッチ、コッチ」
「え? わたっ! ファム――! ロキ――!」
一匹のヴィランが小さい僕を両手で頭上に抱え上げ、残りのヴィランと一緒に森の中へ立ち去って行く。
「エクス君!?」
「エクスくん!」
背筋に寒気が走るのを感じた。
「小っこい坊主が捕まっちまった! 追うぜ!」
僕達はヴィランを追って、村を囲む暗い森の中へと駆け込んでいった。
森の視界は、暗いし狭い。
乱立する木が邪魔で真っすぐに進めず、所々で足元に張り出す根が速度を奪う。
僕達はたちまち……、
「くっ、森が……。見失った……!」
密生する背の高い木々が、僕達の気持ちを押しつけるように圧迫する。
「エクスくん……。どうしよう。私が大きいエクスくんに夢中になって構ってあげなかったから」
「シェインも調子に乗り過ぎました。弟的な存在が嬉しかったのですが、もっと優しくしてあげていれば」
「反省会はまだ早いよ! 足跡か何か残ってないかな?」
僕はデコボコした木の根の隙間に枯れ葉や木の実を転がしたような地面をなぞるように見つめていった。
「おい! あっちにこんな紙切れが落ちてたぞ!」
タオがファムに駆けよって、その紙切れを渡す。みんなそこへ集まってきた。
「これ、エクスくんの字だ!」
「『手品メモ』の切れ端ですね」
「『となりまち マフィふうふ』。……何だろ? こんな手品ないよ?」
「これは怪物の手がかりかも知れません。エクス君、やってくれますね。ここはエクス君を信じて『隣町のマフィ夫婦』を訪ねましょう。……クフフ、怪物共、今度見つけたら死にたいと願うほど陰惨で過酷な罰を与えてあげますからね」
「悪い顔……。僕達のロキそっくりだ」
「当然なこと気にしてんなよ。小っこい坊主を取り返しに行こうぜ!」
僕達は小さい僕をさらっていったヴィラン達の手がかりを知る為に、隣町へ向かう事になった。
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