Ep.11 ゾルゲ
親衛隊(SS)、そしてゲシュタポ(秘密警察)の厳しい警戒・監視体制の中、ヴォルフは思うように活動する事ができず、ついに1934年8月2日、ヒンデンブルク大統領はその任期の最中にこの世を去る事となる。受けてヒトラーは『ドイツ国および国民の国家元首に関する法律』を発効させ、国家元首たる大統領の権限を全て首相たるヒトラー個人に移行させた。総統ヒトラーによる独裁国家の誕生である。
以降、ヒトラーのユダヤ人に対する迫害政策は徐々にその行使力を強め、ドイツ国ともよい関係を築いていたエスティーの一家、ゲルトハイマー家にも影響を及ぼし始めていた。その最中、ヴォルフはユダヤ人の生き延びる術を模索し続けていた。
そして第二次世界大戦が始まる1939年、ユダヤ人存続のひとつの手段として国外亡命の道を取り付けるため、ヴォルフはレームより授かった突撃隊の勇士、ビックスを伴ってリトアニアの在カウナス日本領事館を訪れていた。
「ときにヴォルフ君。私は思い出したよ。君が言っていたオスカルという画家。彼に良く似た人物をね」
「センポ、本当ですか?」
センポと呼ばれた男。後に6000人にも上るユダヤ系難民を救い、『日本のシンドラー』と呼ばれる事になる
「ああ。リヒアルド・ゾルゲと言うのだがね……」
リヒャルド・ゾルゲ。第一世界大戦時にはドイツ陸軍で活躍したが、その後ソビエト連邦共産党に入党。ドイツの新聞記者を隠れ蓑に、ソ連のスパイとして上海、北京、満州、そして日本などで活躍していた。
モスクワ大使館への勤務を目標としていた千畝。かつて満州国の外交官を務めていたその時に、モスクワを首都とするソ連に属するゾルゲと接触があったとしても不思議ではない。
「君の言っていた人相に重なる。そして、日本の文化にも非常に詳しい」
「日本に?」
「ああ。確か、人にのり移る魔術がどうのこうのとか言っていなかったか?」
「ええ」
「どこの国にもあるとは思うがね。日本にもある」
藁人形にイタコ。どの国でもそうであるが、呪い、憑依の類のオカルトは日本の各地に存在する。
「ゾルゲはどこに?」
「日本さ」
ヴォルフは傍らに控えていたビックスに視線を向ける。
「行くのかね?」
「はい」
こうしてヴォルフは千畝より発行されたビザを手に、日本へと渡る事となる。
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