ヴォルフ ~ヒトラーと呼ばれた男~
あきない
Ep.1 ヴォルフ
1931年、ドイツ。1933年のヒトラーによる独裁政権が誕生する2年前の事である――。
((吾輩は、ドイツを救わなければならない。ドイツをアーリア人主導の元導き、己の利ばかりを求めるユダヤ人どもを排除し、また、世界全土をあるべき姿へと導かなければならぬのだ。それが吾輩に与えられた使命。))
((それが…なんだ…これは。))
「どこだ……ここは」
「私の家よ」
((壁にかけてあるのは六芒星のタペストリ。ユダヤ教の紋章である。反ユダヤ主義を掲げる吾輩がこんなところにいて良いわけがない。ましてや手当など))
「ユダヤの慈悲はうけん」
「そんな事いっても、その怪我じゃ…」
「くっ…」
((なぜ、吾輩がこんなところにいる。))
「ほら、じっとしてて。拳銃で胸を撃たれているのよ」
「なぜ、吾輩はここにいる?」
「共産党の兵隊さんに追われていたわ」
「なに、
((
「しかし、何故吾輩が追われる。突撃隊はどうした?」
「お兄さん、ナチスの人?」
「何を言う。吾輩こそヒトラー。アドルフ・ヒトラーであるぞ。吾輩の顔を知らぬのか」
「何を言っているの?ヒトラーがそんなに若いわけないじゃない」
「なに?」
((鏡。タペストリが掛けられた祭壇の隣にある鏡台へと目線を移す。))
「な……なんだこれは!?」
((映された姿は……吾輩の知っているそれではない。まだ20歳そこそこの若造の姿。吾輩は今、43歳である。来年には内閣を発足し首相に就任する道筋も立てたのだ。その為にヒンデンブルクとも裏で手を握り、この大統領選挙を終えたばかりである。
それが、なんだこのナリは…。))
「大丈夫?スパイだとか言われてたけど……あなた、お名前は?」
「アドルフ……いや、ヴォルフ。ただのヴォルフだ……」
((いずれにせよ、アドルフ・ヒトラーがユダヤの世話になどなってはならぬ))
「ヴォルフ。安心してゆっくり養生なさって」
――アドルフ。“高貴な狼”を意味するその名の野心家は、ここにヴォルフ、つまりは“ただの狼”として数奇な運命をたどることとなる。
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