春雨の降る頃、君は。
@ice3162
0.終わったキオク。
数年前の記憶。
決して忘れられない日の出来事。
――――静かに、春雨が降る夜だった。
「落ち着いて聞いて下さい。 御家族の車が、運転を誤ったトラックに巻き込まれて……。」
一本の電話。
その日は友達との用事で、一人だけ別行動をしていた日で。
帰ってきても、暫く待っても、夕御飯の時間になっても。
連絡すら無く、ただ静かに帰ってくるのを待っていた。
そんな僕に待っていたのは。
そんな、たった一本の事務的な。
今までの生活に終わりを告げる、死神の通告だった。
それからの事は、余り覚えてはいない。
全てが事務的で。
全てが乾いて見えていて。
慌ただしくやってきた親戚が、何かを用立て、集まっては去っていく。
家族と引き換えに得たお金。
お金に群がる見知らぬ人達。
全てがどうでもよく見えていて。
それらを振り払うように、僕はたった一人になった。
時間が過ぎれば、そんな人達も減っていく。
事故として処理された家族は、物言わぬ躯となって墓地へ。
群がった親戚たちは、たった一人の僕を疎ましがるように去って行き。
友人達も、気の毒がっていたのはほんの少し。一人を残して去って行き。
トラックの運転者は、必死で頭を下げていたけれども。
気付けば、慰謝料と言う名の手切れ金を残して牢へと向かって。
残ったのは、たった一人になった家族と。
それでも、声をかけ続けた母の妹家族だけだった。
孤独。
唐突にやってきたそれは、乾いていて、冷たくて、静かで。
共にある友人としては、不思議と悪くはないように感じて。
毎日のように足を運んでは、家に閉じ籠もる僕を見てくれる伯母さんと。
孤独と、両親が残した本だけが友人となっていた。
乾いた紙が漂わせる不思議な匂い。
それだけが、癒やしとして僕の心に残り。
――――気付けば、僕は高校生になっていた。
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