第3話 苦悩
≪ドヴェルグ工房≫―――主に戦術殻やその武装の強化をする為の施設であり、プレイヤーならばそれが初心者だろうが上級者だろうが必ず利用する事になる場所だ。
ウォーダンの説教から逃れたベートたちは工房奥にある機体格納庫へと来ていた。
全高にして二十メートルを超すベスティアを収容してなおその格納庫のスペースには余裕があった。
戦術殻は≪B.O.O≫最大の目玉とも言える要素だ。
一部例外はあるが、基本的には人型を模した機動兵器であり、このゲーム独自の思考精査システムによりプレイヤー個人個人の思想を反映した完全オリジナルの機体が作成される。
過去には全高百メートルを超す超大型機や、完全に人型から逸脱した戦術殻の存在も確認されている。それらの要素を考慮して、≪ドヴェルグ工房≫の格納庫は例えどのような機体であっても確実に格納出来るだけのスペースが確保されていた。
このゲームにおける強さとは非常に大雑把に言うと戦術殻の強化度合いに依存している。
戦術殻を構成するパーツは、大きく区分すると四つ。
四つのパーツにはそれぞれに耐久力や防御力、各種攻撃属性に対する耐性やオプション装備数など、複雑多岐にわたる強化項目がこれでもかと設定されている。
どの項目をどのように強化するかはプレイヤーの自由だが、これらの共通点はどの項目にせよ強化するにはゲーム内通貨である≪
各パーツを強化し、その総合レベルが一定値を超すことで機体のクラス自体が上がり更に基本性能が強化される。それらを繰り返すのが≪B.O.O≫の基本であり前提となる。
最終的にはプレイヤースキルの差が明暗を分けるわけだが、同じ力量のプレイヤーが相手なら機体をどれだけ強化しているかが重要になってくる。
――――――――――――
機体名:ベスティア
総合Lv18 Class:2
HP:4680
装甲:3360+300 機動:4320+300
出力:3600 索敵:2880
耐性:斬(弱)、刺(弱)、殴(弱)
Head:≪惨顎・ヴァナルガンド≫Lv4―――強化可能
Body:≪拒獣・ネメア≫Lv3―――素材不足
Arms:≪殲腕・ジャガーノート≫Lv6―――素材・資金不足
Legs:≪蹂脚・セクメト≫Lv5―――素材不足
武装:この機体は一部以外の武装不可
補助武装(×4):追加装甲・軽(腕)、追加装甲・軽(胴)、補助ブースター・軽(脚)、補助ブースター・中・(胴)
ユニークアビリティ:≪
:≪
アタックスキル:連爪撃、四連爪撃、八連爪撃
パッシブスキル:火力上昇Lv2
機動力上昇Lv2
回避上昇Lv3
――――――――――――
「ううむ……」
ベートは自機のデータを眺めながら、どのような強化をベスティアに施すべきか悩んでいた。
ベスティアはいわゆる中型機に分類される戦術殻だ。
これに該当する機体は、基本的に火力・装甲・機動性などの重要ステータスのバランスが良い。
ベスティアはその中でも火力と機動力に優れた機体だ。
装甲自体の数値も低くは無いが、基本となる耐久力が低いため受け手に回るより、攻め手として強化した方が良いだろう。
当然ベートにもそれは分かっている。分かってはいるのだが―――
「はぁ……素材が足りませんねえ」
強化に必要な素材が不足している。
通常、素材アイテムと呼ばれるものはフィールドにPOPする敵を倒して直接入手するか、あるいは他のプレイヤーとのトレードするなどの手段が一般的だ。
そう、普通のプレイヤーならば。
「いないんですよねえ……」
はは、と乾いた笑いを洩らす。
今現在、彼女に積極的に協力しようというプレイヤーは非常に少ない。
≪都堕とし≫という名の凶手と前代未聞の大事件。
ヴァルハラ都市に所属するプレイヤー、当時百万人以上を相手に単機で挑み、ヴァルハラという勢力そのものに大打撃を与え没落させるにまで至った
彼女―――ステラという名前で活動する戦乙女とは、あの事件以来会っていない。≪B.O.O《こっち》≫でも≪
もう、一年ほども前になる。
「ベーちゃん。こっちは終わったよー」
「ん……ああアルさん」
何時の間に来ていたのだろう。
一足先に機体強化を終わらせたのだろう、アルルーナがこちらに駆け寄ってくる。
「そっちは大丈夫だった?」
「とりあえず耐久力だけ強化してきたよ。レックスから鱗鋼をドロップ出来たのはラッキーだったね!」
「レックス素材は耐久値の強化に必須ですからねえ。
あたしの方は駄目でした。ぎりぎり頭部は強化可能なんですけど……他のパーツはどうしてもねえ」
「まあレックス素材だけで此処まで強化するプレイヤーも少ないだろうし、ここらが限界なんだろうね」
「Lvが20になればクラス3に上がれるんですけどねえ」
「うーん……やっぱりレックスだけじゃなくて、他のボス素材も欲しいところだね」
そうは言うが、現状の戦力では難しいことは二人とも理解していた。
「レックスは単機出現がほぼ確定だから、準備さえしておけば確実に狩れるけど……」
「あたし達って攻撃手段が偏ってますからねえ」
「私にいたっては攻撃自体が無いよりマシってレベルだし」
ベスティアは近接戦闘特化型であり、中・遠距離に対しては無力に近い。加えて基本的な耐久値が低いため、本来は純前衛型ではなく遊撃を得手とする戦術殻だ。
そしてヘラはそもそもが後方支援型であり、壁となる前衛が揃って初めてその本領を発揮できるタイプであり、その攻撃力は皆無に近い。
互いが保有する技能が噛み合っているからこそ、ドレイクレックスのような単体ボス相手なら二機で相手取れるのだ。
「やっぱりウォーたんが言ってた通り、仲間を増やしたいところですねえ」
「募集はしてるんだよね?」
「やってますよ。芳しくはないですけどねえ」
誰も彼もベート達が≪都堕とし≫の身内だと知っているプレイヤーは近づきもしないが。
仮にフリーのプレイヤーを誘う事を視野に入れたとしても、結局は一時凌ぎにしかならないだろう。
「でも、それじゃあ駄目なんですよ。今のままじゃ近いうちに詰みます。いや、現状がもう詰み寸前です。強くならないと駄目なのに、もっともっと……」
「ベーちゃん……」
「ねえベーちゃん……一度、挑戦してみる?」
「それは―――レックス以外のボスにという意味ですか? それは、いいですけど……」
勝てない、とは口にしない。
単純な数値上の強さだけなら、そこそこ良い所まではいけるかもしれない。
ただ無謀である事に違いはないだろう。
「ベーちゃん、やってみないと分からないよ! もしかしたら案外なんとかなるかもしれないし!」
口籠るベートに対してアルルーナは発破をかける。
「……うん!」
それで覚悟を決めたのだろう、よしっと自分の頬を叩くとベートは改めてベスティアの強化の続きを再開する。
「それじゃあ準備しとかないとですね! とりあえず頭強化して、耐性もやれるところまで強化しちゃいましょう。あとは、
調子を取り戻したベートの姿を見て、アルルーナは優しく微笑む。
やっぱりベーちゃんはこうでないとらしくないよね、と。
「それじゃあ、私ももう一回ヘラの装備を見直してくるね」
そう言って格納庫を出ようとするアルを、ベートが呼び止める。
「あの……アルさん―――ありがとう」
「―――うん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます