イマドキ! しょーがくせー

淫Qβ

エピソード1:ゲーマーJS

 十七時を過ぎ定時退社の時刻が近付いた頃。ふと薄暗い職場の玄関に目を向けると、そこにはJS二人が腰掛け、何やら興じていた。

 一体何をしているのだと、興味本位で近付いてみる。邪魔にならないよう覗き込むと、何とそれはDSであった。

 ざっと見た感じ、遊んでいるのはスーパーマリオブラザーズであった。

 デレマスのキャラに、三好紗南というゲーマーアイドルがいる。ゲームに興じるのは男子というイメージが強かったため、いささか現実味の薄いキャラ設定だと思ったことがある。

 ところがどっこい! 今自分の眼前にはマリオで遊んでいるJSがいるのだ!

 自分が子供の頃は、ゲームは男が遊ぶものというイメージがあった。それに加え、友人宅に集まり据え置きゲームに興じるというものであり、場所を選ばず外出先で遊ぶという文化はなかった。

 それだけ昨今の携帯ゲームが発展したということだろうが、少女がアクションゲームに興じているというのも興味深い。JSなんだから、もっと女子向けのゲームをプレイするものだという先入観があったからだ。

 ましてや自分はアクションやシューティングは苦手で、RPGやらSLGを好む人間なだけにである。

 声をかけ新密度を高めてみたい! そう思うものの迂闊に声をかけるわけにもいかないと思い、それ以上距離を詰めないよう心掛けるようにした。



 それから数週間後。またもやJSたちがゲームに興じていた。私の職場は小学生向けの習い事を催しているから、それに通っている少女たちなのだろう。

 その日は仕事が終わり帰ろうとした時も、まだ遊んでいた。

 無言で少女たちの横を通り過ぎ退社しようとした時だった。

「でさー、チョロ松の声優さんなんだけど……」

(チョロ松だと……!?)

 心の中で思わず叫んだ。おそ松さんが空前のブームであるのは周知の通りだ。しかしまさか、JSがおそ松さんに興じているとは恐れ入る。

 いや、実の所、おそ松さん好きJSの存在は、随分前から認知していた。地元の地方新聞にはイラストの投稿コーナーがあるのだが、何人かの小学生がおそ松さんのイラストを投稿していたのだ!

 しかしそれは別の地域の話であり、地元にはいないとばかり思っていた。それだけに驚きを隠せなかった。

「チョロ松の声優の神谷さんと言えば、個人的にはKanonの久瀬やSDガンダムフォースのキャプテンガンダムとかが印象に残っているね! あとは同時期に放送されていた絶望先生とOOのテェエリアを絡めたネタとか……」

 などと話しかけたい衝動を必死に抑える。いかんいかん。JSはあくまで見ているだけ。下手に深入りしてはならない。自制せねば、自制せねば……。

 そう心に誓い続けることにした。だがそれからしばらくして、私はとうとう禁忌を破ってしまったのだ。



 その日も少女たちはゲームに興じながら談話に耽っていた。そんな少女たちの声から漏れたのが……

「でさー。ラブライブの……」

「ラブライブ知ってるの!?」

 思わず声に出てしまった。

 JSラブライバーの存在はネットで既知だったが、半ば妄想の産物であると認識していた。そんなオタクに都合の良いJSなぞ存在するはずないと……。だがまさか、目の前に実在していたとは……。

「あっ、はい……」

 少女たちが乾いた返事をする。そりゃそうだ。私の方は以前から知っていたが、彼女たちにしてみれば馴染みのない職員の一人に過ぎないからだ。

「へー凄いな。ラブライブ知ってるなんて」

 率直な感想を述べる。紅白への出演を果たしたとはいえ、やはりラブライブはオタク向けのコンテンツという印象が強い。そんな作品をJSが知っているとなれば、そりゃあ嬉しくなるってもんだ。

「さよならー」

 と、やたらフレンドリーな声で少女たちに声をかけながら退社する私。その後年度も変わり、少女たちは進学したのか、職場には姿を見せなくなった。

 僅か数度の邂逅に過ぎなかった。しかし私には、ある確信めいたものがあった。それは、「今の小学生は、大分ヲタ化が進んでいるのではないか?」ということだ。

 私が小学生の頃は、少なくともヲタ趣味なJSはいなかった。しかし時代は移り変わり、今やオタクの小学生は珍しい存在ではなくなったのでは?

 確かめてみたくとも、職場以外で小学生と触れ合う機会がない。何とかならないだろうかと思っていた時、私に大きな転機が訪れたのであった。

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