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匙の中学校の図書室は校内の端っこにあり、誰にも見られずに覗くことができた。
他校の生徒である私が、彼の中学にいるとばれれば一大事になりかねない。だから始めの内は、校門の前で出口調査を続けていた。
出口調査と言っても生徒や匙自身に第一志望を聞いて回っていたわけではなく、ただ出てくる人を観察していただけで、特にこれといった成果は上げていなかった。
もちろん匙も陰から見ていた。可愛らしい女の子と仲睦まじく帰る姿がほとんどだったが、私は余裕を見せていた。彼に義妹がいることは知っていて小学校も一緒だったから、不安にならなかった。
だけれど、今会うのは怖かったので、いつも隠れていた。なぜなら、今の私を匙が見ればきっと失望する。それが私の最大の恐怖だった。
だからまだ彼とは会わない、偶然を装って同じ高校に入って、白々しく「ひさしぶり」そう言おうと決めていた。
そろそろ願書を提出しなくてはならなくなった頃、出口調査もどきをしている場合ではないところまで受験が迫っていた。
どこの高校でも受かるように勉強はばっちりできている。後は匙の第一志望を誰かから聞き出すだけ。私は、勇気をだしてこっそり学校へと忍び込んだ。匙の願書をのぞき見できることを期待して。
そんなときに見つけたのが図書室だった。学校を終わってすぐ電車で来るとぎりぎり匙がいる時間帯に間に合う。
私はそれから彼がいる図書室と壁を隔てて一緒に読書をした。懐かしかった。
この場所を見つけて数日がたったある日の帰り道、私はたまたま「花濱、遠いとこの学校行くらしいぜ」、「図書室の番人が?」と聞いて、彼らに駆け寄った。
「匙、花濱匙がどこに進学するかご存知なのですか?」
突然話しかけたので彼らは驚いていたけれど案外快く学校名を教えてくれた。意外と近くて安心したのは怠惰からではない。
――早く高校生になりたいな。
毎日毎日、そう呟きながら家で過ごしていた。
――早く匙に会いたい。
あまり夜が眠れなくて寝不足になったのは、幸福のせいだった。
合格発表は私の人生で最大のイベントになった。
私の合格は確かだったが、如何せん匙の成績がわからないので、彼が合格してくれるかが問題だった。
匙の受験番号は3049.
――3049、3049、あった
その瞬間、私の頭はお花畑と化した。やっと匙と高校生活を送れると思うと、また夜が眠れなくなった。
案の定寝不足でしんどい日々が続いた。
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