それでも地球は廻ります。

彗星の如く現れた吟遊詩人

序章

鳥の美しい歌声と共に太陽は、き出しになって錆びついた鉄筋に柔らかい光を落とす。

ビルに蔓延はびこる植物の隙間を、虫がいガサガサと小さな音を立てる。

そんな都市トーキョーの様子を眺めながら僕は一つ欠伸あくびをした。

朝早く街の散策をする事を二年ほど前に日課としてから、毎日の様にこの光景を見てきた。

閑散かんさんとした街並みを見やり今日はどの場所へ行こうかと悩む。

しばらくそうしている内に、ふと二つの小さなビルの間を見た時にとても狭い路地を発見した。

これまで何度もこの通りは歩いていたのに、その狭さのためか今まで存在すら知らなかった。

路地の入口にはわずかな光のみが入り込み、その先はどうなっているのか全く分からない。

僕はよしと一つ手を叩くとその不思議な路地を今日の散策地に決定した。

今思うとその時の僕は何か特別な力に動かされていたのかもしれない。

誰も居なくなり、無法地帯となった都市の暗い道を進むことに、それなりのリスクがある事は分かっていたが、それでも何かに導かれるように、前へ前へと突き進む。

しかし何処まで歩いてもその隙間は暗いままで、先が見えなかった。

長い時間歩いて冷静になってきた頭で、自分がしている事を考えると意味が無く馬鹿馬鹿しく思えてきた。

そろそろ引き返そうかと思った矢先、突然路地が終わり眩しい光に包まれる。

腕を上にかざし光をさえぎり前を見ると、僕は息を呑んだ。

ビルとビルの間にぽっかりと空いたその場所には、今まで見たことも無い様な大きな樹が立っていたのだ。

枝や幹には多くの生き物を抱擁ほうようし、それらを守っている様に思える。

定理は良く分からないが恐らくこのような大樹の事を〝世界樹〟と呼ぶのだろう

地面を見てみると、生き物のように這っている太い根の隙間から小さな建物がちらっと見えた。

どうやら樹はそこから生えているらしい。

もっと良く見てみようと苔生こけむした幹に近づいた時、僕は見つけた。

一人の少女を。

少女は金糸きんしのような美しい長髪にうずもれるようにして樹の根元に横たわっている。

急いで少女のもとへ向かい、華奢きゃしゃな体を起こすと胸が僅かに上下しているのが見えた。

どうやら死んでいる訳では無いらしいが、かなり衰弱すいじゃくしているらしい。

早く手当をしないといけないと、はやる気持ちを抑え意識があるのかを確認するためにゆっくり肩に触れると、ビクッと体が震え目が開いた。

そして何かを掴むように手を上へ伸ばして唇を動かすが、すぐに力尽きまた意識を失う。

どうやらそこまで容体ようだいは悪くないようだが、油断はできない。

僕は少女を優しく背負せおうともと来た道へ早足で歩きだす。

これが僕と彼女との出会いだった。





すべてが破壊され、何もかもを失ったこの地でも、未来さきへ進むために、今日も地球はまわります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る