第13話 支配者の血脈

 ミトラは、ふうふう言いながら、



「うまか、うまかね……」



 を連発した。



「ほどよく脂が落ちて、それでいてジューシーで、ちょっとクセのある肉々しさを香草の刺激が舌と鼻腔から相殺して、肉本来の旨味を引きだしとるばい……とまらんばい。これは、とまりようがなかよ」


「えー食レポじゃのう」



 カトーも頬張りながら笑う。


 スキピオはなにやら皮袋を取りだして、顔の前で逆さにした。

 注ぎ口から液体がほとばり、口元を濡らしながら、喉に注ぎ込まれていく。

 ぶはっ、と大きく息をついて、



「喉が渇いてたら飲みな」



 皮袋を手渡されたミトラは、



「え。どうすっと」


「見てただろ?皮袋を押したらブドー酒が飛び出るから、口をあけて待ってるんだよ」


「そんなこと……お行儀が悪かとよ」


「んだよ。面倒くせェやつだな」


「だって、飲み物は杯に入れてから飲むもんやか。みんな、そうしとるって聞いとっともん」


「まあ、杯なら、なくはないがの」



 カトーは葛籠から盗んできた杯を取りだした。



「あ。それ、ウチの」


「ほれ、これに注いだら飲めるじゃろ。スキピオ、注いでやってくれや」



 スキピオは黙って皮袋を傾けたが、いつしかその視線は、ブドー酒が注がれる杯を凝視して動かなくなった。



「……」



 注ぎ終わっても、しばらく眉を寄せて考え込んでいたが、やがて何か思い出したらしく、密かに息をのんだ。

 ミトラはそれに気づかず、



「ま、まずぅ……」



 と呻き、それでも二口、三口と舐めるように口をつけている。



「我りゃ、えらく静かになったのう」



 カトーはスキピオの異変に気づいていた。



「どうしたんじゃ」


「思い出したんだよ。あれな、そこらの貴族や富豪、富農がもってるブツじゃねェぜ」

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