重敏先生

『なんや―――……重敏しげとし―――……ウチの念話に入り込んで来てからに―――』

 

 ばあちゃんの言うとおり、突然念話での会話に割り込んできたんは、浅間家当主の浅間あさま重敏しげとしやった。

 

『まあまあ、みそぎ様。失礼の段、御容赦下さい』

 

 少し険の入ったばあちゃんの声音に、浅間重敏はそれを気にした様子もない。

 それどころか鷹揚な態度で、まるでこっちが重敏のところに割り込んだみたいになってるやんけ。

 まあ逆に言えば、その辺が重敏の人為ひととなりっちゅーか、器ってやつなんやろなー。

 

『あんたとは世間話する間柄やないな―――。用件あるんやったら―――さっさと言いや―――』

 

 そんな重敏に、ばあちゃんの方はけんもほろろ……取り付く島もないわ。

 

『龍彦君。君は何か勘違いしている様なので、その事を指摘しておこうと思ってね』

 

『あんた―――…何時から聞いてたんや―――……』

 

 ばあちゃんの言葉に気分を害した訳やなく、重敏は何や俺に向かって話し出した。

 ……まぁ、それについてばあちゃんがまた難癖つけてるけどな。

 

『龍彦君、君は私が利伽君を選んだ理由として、彼女の持つ才能や能力が君より優れているから……そう考えているのかな?』

 

『……うん』

 

 重敏の言い方はさっき面会した時とは全然ちゃう、まるで学校の先生や。

 そやからなんか、俺の答えは自然に口から出てきた。

 その答えも、何やまるで子供みたいに素直なもんやった。

 

『だったら、それは違うとここに明言しておこう。私が利伽君に良幸との見合いを申し込んだのは、偏に当方の嫡子が男児であり、利伽君が女児だったからだ。これが逆なら、私は君を当家に迎えようと画策しただろう』

 

 そんなにストレートに言われたら、何や逆におべっかおせじかって勘繰ってしまうわ。

 けどまぁ、重敏が俺にへつらう理由なんかあらへん。

 それに……。

 

『もっとも、利伽君の才能や能力には目を見張るものがある。君の事は抜きにしても、彼女を当家へと迎えたいことに変わりはないがな』

 

 重敏も利伽の能力は高く買ってるみたいやった。

 重敏にここまで言わせる利伽に、やっぱり俺は少し嫉妬したみたいやった。

 

『私が君の事を評価するのは、君の持つ底知れないポテンシャルに、大いに期待しているからだよ』

 

『それは俺の霊力が、利伽達よりめっちゃ多いからってだけちゃうん?』

 

『そうだ』

 

 こそばゆくなる重敏の言葉に、俺は幾分意地悪な言い方をした。

 けどそれはやぶ蛇やったみたいで、重敏はアッサリと肯定した。

 俺にはそれが、「お前は霊力が多いだけ」って言われた気がして、やっぱり腹立たしいやら、悔しいやらの複雑な気分になってもーた。

 

『まぁ、君の質問は断定的で、それに答えれば誤解も生じる。この場合の才能とは、僅かな経験を応用させ如何に活用するのか。そして、地脈という力に対してどれ程深い造詣を見せ、どの様な発想力を見せるかにある』

 

 なんや小難しい事言い出したけど、それはやっぱり利伽の才能が飛び抜けてるって事やんけ。

 

『しかし今述べた知識や発想力と言ったものは、年を経て経験を積めば、ある程度なら誰でも得ることが出来るものだ。勿論、研鑽は欠かせないがな』

 

 重敏が付け足した最後の言葉に、俺は何でか救われた気がした。

 っちゅーても、ちょっといじけて拗ねてた程度の話や、救われたーゆーてもそんな大袈裟な話や無い。

 けどまー、利伽に対する以前から持ってた劣等感っちゅーのは、だいぶ薄らいだな。

 今後の努力次第では、利伽に追い付き追い越せる可能性があるっちゅーことやからな。

 

『だが、もって生まれた身体的特徴と言うのは、それを覆す事自体が難しい。身長の高い者を抜きたくとも、遺伝的に背が伸びなければどうにもなら無い。体重、運動能力、記憶力や洞察力に応用力……ある程度は努力で補えても、飛び抜けて恵まれている者には到底追い付くことは出来ないものだ』

 

 才能をもって生まれた能力と言い換えたんやったら、そら当然の話や。

 そう言う意味やったら、俺にも「才能」ってやつがあるんやろうけど……。

 

『あるいはそれを、「個性」と呼んでも良い。一つだけ言えることは、君の、君だけの「特徴」は、他者から見れば喉から手が出るほど欲しい能力の一つだと言うことだ』

 

 褒められてるんか、言いくるめられてるんか……説得されてる様にも聞こえてきて、なんや分からんようになってきた。


 けど、とりあえず分かった事がある。


「霊力が多い」ってのも俺の才能の一つやって言って良いって事。

 そんで、才能とまでは言わんでも、得意で誇れる事は努力で伸ばせるって事や。

 何でも一括りで、「才能」で終わらせるんは早いって事やな。

 

 ―――ガキンッ!

 

 そんなやり取りを此方でしとったら、利伽達と宗一との戦闘に動きがあった!

 今まで受けに徹してた宗一が一転、攻撃に転じたんや!

 

「宗一も武器の具現化が出来るんか……?」

 

「そりゃー、よー考えんでも、当然の事やニャー」

 

 宗一はその手に巨大な薙刀を持って、それを蓬の結界に叩きつけたんや!

 禍々しい霊気を放ってるその武器は、俺等が使うんと似てるようでその実全く別物や!

 思わず呟いてもーた俺に、ビャクはさも当然とばかりの口調でそう言うた。

 当然言うたら当然やけど、どうにもこっちの十八番おはこを化身に使われてるみたいで、なんや府に落ちん。

 

『化身言うのは―――地脈の力を無理矢理引き出して使おうって輩ばっかりやで―――。それを防いで守護してるんも―――接続師の務めなんや―――』

 

 なるほど、せやから化身は、接続師が地脈を守護する土地に多いんやな。

 ここに来る途中で襲ってきた化身達も、この地の地脈を封じてる浅間家に引き寄せられてきたって節もあるわけや。

 しかもあいつは、接続まで済ましとる。

 

 ―――ガンッ、ガッ、ガキンッ!

 

 蓬の結界に最接近した宗一は、力任せに手にした武器を叩きつけてる!

 大振りな攻撃のクセにやたら速いその攻撃で、蓬は耐えるんが精一杯って感じや!

 

「こっ……このっ!」

 

 ―――ズガンッ!

 

 至近距離は利伽も望むところやろう、利伽はそのままショットガンをぶっ放した!

 相手との距離が近ければ近いほど威力の高い散弾やけど!

 

「あれ……躱わしたんか……?」

 

 宗一は目で追えんほど素早く動いて、放射状に放たれた散弾の射線から身を逸らしたんや! 

 

「人間にあんな動きなんて可能なんか!?」

 

 それが俺の素直な感想やったけど……そらー大きな勘違いやったな。

 

「あいつはもう、人間辞めてるニャー」

 

 ビャクの言うとおり、宗一はもう人間やなかったな。

 高速で横移動しては蓬の結界を攻撃する宗一に、利伽は必死で追いかけながら散弾をぶっ放してる!

 けど今の宗一を捉える事は出来てへん!

 

『利伽君に打つ手はありませんな』

 

『そやな―――……残念ながら今のところはな―――……』

 

 二人の無情な会話が聞こえてくる。

 まだちょっとしか時間も経ってへんのに、いつの間にか絶体絶命やんけ!

 

「くっ……!」

 

『御当主様っ!』

 

 俺が動き出そうとしたとき、頭の中に今までと違う声が響き渡ったんや!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る