鳥は吠える2
ハヤブサはリリーを抱えたまま、跳び回っていた。蛇は暴れ続け、部屋の壁が粘土のように削られていく。入ったばかりの時は目もくれていなかったが、天井が高い。先ほどの大男が暴れても問題なさそうだった。
あの蛇は厄介だ。奴を中心に飛び回っているが、旋回速度が速い上に攻撃力が尋常ではない。まだマシなのは、他の二人の敵たちも自身を守ることに必死だったことだ。蛇は見境なく暴れている。ハヤブサは感じ取る気配を頼りに攻撃をかわしていた。
「くっ! どうにかならんかな!」
初老の男が杖で蛇を弾きながら叫んだ。
「ローレンス、お前から先に殺してやる」
老婆は素早く地面に魔法陣を描く。すると、そこから骸骨の剣士が現れた。体長は人の倍はある。ハヤブサはオロチの洞窟で戦った怪物を思い出した。
「黄泉の戦士や、その男の血を啜るがよい」
骸骨は蛇ではなく、ローレンスに斬り掛かる。しかし、旋回する蛇に腕を食いちぎられてしまう。
「危ないですよ」
「お前が言えることではなかろう!」
骸骨の出てきた魔法陣から黒い霧が溢れ、骸骨の腕と剣を修復していく。振り下ろす剣を蛇が弾く。そこへ初老の男が炎に包まれた杖で加勢し、二対一で戦い始めた。
「今のうちに強い魔法を唱えます。なので、もう少しだけ私を」
「任せろ」
ハヤブサは元気よく返事をした。接近戦がどうにもならない以上、頼みの綱はリリーだけだった。
「精霊よ、あの忌まわしき蛇を引き裂く術を導き出しましょう」
リリーは小声で何か呟き続けている。
ハヤブサはローレンスを睨みつけていた。魔法を使う大体の癖はわかった。あとは俺がいかに動くかだ。今のところはかわせるが、奴の調子が上がって来たらわからない。
「形を変え動きを変え全てを包む水よ、強かな槍となりその全てを貫け!」
リリーの右目が輝く。話によると、精霊を宿しているらしい。リリーは杖をかざし、水の球体を出した。球は大きな槍へと姿を変え、ローレンスに飛んでいく。
「あ!」
ローレンスが叫ぶと、蛇とぐろを巻いて盾となった。槍は蛇に突き刺さる。防がれたかと思ったが、すぐに男の悲鳴が聞こえる。
「ううううあああああ!」
蛇が離れると、右の脇腹を抑えたローレンスがこちらを睨みつけていた。腹部からはじわじわと血が滲んでいる。ローレンスは老婆に向き直る。
「魔術管理局長……あなたが邪魔をするせいでぼくの呼吸器官と消化器官が激しく損傷しましたよ」
「仲間を一人殺して何を言う!」
「一人? 本部長と拠点総括のどちらのことですか?」
ローレンスは口から血を吐きながら笑った。老婆はハッとして辺りを見回した。たしかに、初老の男が消えている。リリーが攻撃するまでは居たはずだ。蛇がとぐろを巻く前に食い殺したのか。
「お前……」
「いやあ、拠点総括がいなければ魔力的に死んでましたね、ほんと、燃費の悪さが課題ですね」
蛇が体の周りをぐるぐると動くと、ローレンスの傷は治っていく。
ハヤブサは寒気すら感じていた。蛇が食ったエネルギーを還元してやがる。壁を削っても大した変化がないってことは、生きてるモノじゃなきゃ駄目だってことだろう。まるで腹が減った獣のような魔法だとハヤブサは考えていた。
「それにしても」
ローレンスは声の調子を変えてハヤブサを見た。
「いくら素早いとはいえ、ぼくの蛇をこうと避け続けるのは一体どういうことでしょうか」
「蛇がトロいんだよ」
「本部長はともかく、あの拠点総括が避けられなかったんですよ。おかしいなあ」
「どっちも知らねぇから、わかんねぇな」
ハヤブサがどうにかして懐に潜り込めないかと考えていた時だった。
忍び寄った老婆がローレンスを後ろから羽交い締めにした。老婆は激しく燃え上がり、ローレンスを巻き込んでいく。
「わたしには効かないよ、お前だけが焼け死ぬんだ。あひゃひゃひゃ!」
老婆の笑い声と同調するように炎が大きくなっていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます