差し込む影
噴水広場から少し離れた居住区に彼らの家はあった。二階建ての石造りの家が並んでいる。彼らの家は可愛らしい文字で書かれた表札が扉に掛けられていた。
「可愛いでしょう。息子が作ったんです」
男は微笑むと扉を開けた。
女を寝かせた男は勇者たちに飲み物を用意して椅子に腰掛けた。勇者らもそれにならう。
「先ほどはありがとうございました」
男は再び頭を下げた。勇者は首を振る。
「久々にあんな風に怪物を見ましたよ」
「たしかに。勇者様が化け物どもを滅ぼしてくれたおかげでこの町には最近まで現れませんでした」
「最近まで?」
ハヤブサが聞き返すと、男は頷いた。
「最近、先ほどのような怪物が現れるんです。しかも、突然に。恐らく誰かが送り込んでいるんです」
「送り込むなんて物騒な話だわ」
「それはつまり、怪物には何か狙いがあるということですか?」
勇者がたずねると、男は表情を曇らせた。
「人さらいについてはご存知でしょうか」
男の言葉に全員が顔を見合わせる。
「あれが我々の耳に入り始めた頃なんです。怪物が現れ始めたのは」
「では、あれが人をさらうために……? それにしては知能が低いように見えました」
リリーは首を傾げる。勇者も同意見だった。あれはどちらかといえば、サイクロプスの類に近い。
「つまりは陽動ってことね。あれが暴れてる間に人をさらう」
ブラッドは一人合点して頷いた。
「妻にはショックが強過ぎたようです。息子が消えて、落ち込んでいるところでしたから」
「まさか」
「ええ。恐らく、人さらいに」
男は下を向いた。水の入った容器を持つ手が震えているのが見えた。
「人さらいに遭って帰ってきた者がいるとは聞いたことがありません。恐らく、いや、やめておきます」
男は黙り、部屋の中には沈黙が訪れた。気まずそうにハヤブサが飲み物に口をつける音がやけに大きく感じた。
「我々はその人さらい集団を調べにこの町へ来たんです」
勇者が言うと、男は驚いた顔を見せる。
「興味本位ではありませんよ。友人に頼まれたんです」
「そうだったんですか……。だから化け物を見てもあんなに……」
男は深く頷いた。勇者は、だから何かあれば聞かせてほしい。と頼んだ。しかし、男は申し訳なさそうに目を逸らした。
「息子が消えてしまった時、我々は血眼になってその人さらい集団とやらを調べようとしました。……けれど、なんの収穫もありませんでした。本当にいるのかどうかすらも……」
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