試練7

 腕を食い千切った魚は光とともに腕ごと消えた。

「実に煩わしい」

 魔術王は両腕を使えなくされ、怒りを露わにしていた。しかし、焦る様子はない。

「だが、調子は戻りつつあるな」

 魔術王はそう言って体から黒い霧のようなもの出していく。ブラッドは警戒し、勇者の隣まで戻って来た。

「あれはなんだ」

 勇者が言うと、リリーが叫ぶ。

「一箇所に固まって! 精霊を操る霧です!」

 リリーは勇者の近くに駆け寄ると、杖から風の渦を作り出した。

「くそ! 死ねよ!」

 リリーは暴言とともに竜巻を放った。しかし、霧に変化はない。次第に周りから黒い光の球が現れ出した。その光のいくつかは魔術王に吸い込まれていく。すると、ブラッドの折った腕が動き出した。

 勇者は一人納得していた。精霊は手伝いたくとも、変に手出しができなかったのだ。迂闊に近づけば操られるか、吸収される。

「二人とも! あいつの炎に気をつけて! 食らってしまうとこちらで消す術はありません!」

 リリーが叫ぶ。勇者は魔法陣から砂嵐を防ぐために使ったマントを取り出した。

「ブラちゃん、軽装だから」

 勇者はブラッドに気休めを渡し深呼吸をした。足手まといだが、この状況下で精霊と契りを交わすことは可能なのだろうか。

「きます!」

 リリーの合図でブラッドが身構える。勇者はフィーを担いで隅に寄った。

「……リリーは」

 意識を取り戻したフィーが勇者に手を伸ばした。

「大丈夫。大活躍中だ」

「守らなきゃ……あの子を」

 フィーは強い眼差しで立ち上がろうとする。その瞳には恐怖などは一切感じられない。

「ここを出るときにあの子を連れて行くんだろ。今は見守ろう」

 勇者が制すると、フィーは黙ったまま頷いた。


 魔術王は精霊を取り込み動くようになった腕をブラッドに向けた。腕は黒い炎に包まれて行く。

「ようやくだ。これは全てを飲み込む焔」

 魔術王はブラッドに向けて黒い炎の球を放った。ブラッドは横に大きく飛び、炎を避けた。炎は壁に当たると、ゆっくりと燃え広がっていく。

「殺す!」

 リリーが水の魚を生み出して魔術王に飛びかからせる。魔術王は黒い炎を魚にぶつけた。黒い炎は水の魚に燃え移り、魚を消し去った。

「近づけないじゃない」

 ブラッドが不愉快そうに呟いた。

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