闘技場での戦い2

 サイクロプスは閃光玉などなかったかのように暴れ始めた。

 勇者は舌打ちをする。現状をまとめると、自分達より強い大きな敵。その上にさらにその数倍強い敵。どうやらここが旅の終わりのようだ。

「二代目勇者は為す術もないのかぁ!」

 冷静になった途端、闘技場を盛り上げる男の声が耳に飛び込んできた。煽られようが馬鹿にされようが、為す術はない。

「まずはサイクロプスをどうにかしないと話にならない」

 勇者はそう言うと、短銃を取り出した。すると、客席からブーイングが起こる。

「勇者のくせに、飛び道具だー! 勇者の代名詞の剣をどこへやってしまったのかあ!」

「あのバケモンの背中だよ!」

 勇者は解説者を睨むと、サイクロプスに向かって走り出した。精密射撃ができるほどのテクニックはない。できるだけ近付かなければならない。ましてや、狙いはあの目玉だ。かなりの接近が必要だった。

「こいつをあの目玉に打ち込んでやる」

 勇者はそう言いながらも、閃光玉を確認した。もしもの保険を掛けなければならない。ハヤブサに渡した広範囲のものは魔力がかかるので、眼球ほどの大きさの閃光玉を忍ばせた。

 勇者の行動を理解したハヤブサは勇者が振るっていた斧を取り、再び右足を攻撃した。サイクロプスは右足を守ろうとハヤブサを狙うが、そこへ勇者が銃撃を仕掛ける。どこかに当たれば、決定打ではなくとも注意は引ける。勇者はそう考えながらサイクロプスの中心を狙って撃った。弾は敵の肩に当たり、勇者に意識を向けた。

「ワンパターンすぎない?」

 ブラッドが小馬鹿にするように笑っていたが、サイクロプスは片膝をついた。勇者はそれを見て一気に接近する。

 しかし、サイクロプスの目の前まで来ると、大きな手が勇者を捕らえた。勇者は握り締められてしまい、両手が使えなくなった。サイクロプスは捕まえた手を眼前に持ってくるが、銃は撃てそうにない。

「勇者!」

 ハヤブサが叫ぶが、勇者は何も答えなかった。ただサイクロプスとブラッドを睨みつけている。

「同じことされたら、対策出来ちゃうじゃない。私がついてるのよ」

 ブラッドはため息をついた。勇者を見るその目には失望の色が滲んでいる。

「何も面白くないわ。旅が始まる前に実力が見れてよかった」

 ブラッドはサイクロプスに、勇者を引き寄せさせ、頬を撫でた。

「こんな旅、やめた方がいいわ。経験も積めないこんな旅。死にに行くだけよ」

 ブラッドは優しく言った。勇者は黙っている。

「反論も言わないのね、かわいそう。降参してもいいわ」

 猫を可愛がるように頬を撫でるブラッドの言葉に、勇者は目を閉じた。

 たしかに先代の最強女には勝てる気がしない。さらに目の前の図体がでかいだけの怪物にも勝てそうにもない。ブラッドが呆れるのも頷ける。

 だが、そこまで馬鹿にされて引き下がるわけにも行かなかった。

「降参する?」

 ブラッドは勇者に鼻と鼻が当たるほど顔を近づけ、降参を促した。

 勇者は口を開く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る