第132話「初めての映画館」

息子と、映画を見に行った。夏になると色々な映画がやっている。映画館の座席に座ると、息子が聞いてきた。


「パパも小さい頃、映画館に来たの?」


その言葉に、僕の記憶は小学時代に戻るのだった。


◇◇◇


壊れた椅子。薄暗い、廊下。非常灯の明かり……僕が初めて映画館に行ったのは、確か小学校1年生の夏休みだった。映画は、「さらば宇宙戦艦ヤマト」だった。

親父と一緒に、駅前の映画館に並んだ。夏休みとあって凄い人だった。親父にチケットを見せてもらった。


「じゃあ、これ持ってもいでもらえ」


チケットは入り口で、もぎりのお姉さんにもいでもらい、半券をもらった。とにかく映画館は、タバコ臭かったなあ。

ロービーから、中に入り席を取った。当時は自由席と指定席の券があった。席がなければ「立ち見」をした。薄暗い映画館は天井が凄く高かった!

高い天井から、あまり明るくない電気が光っていた。そうそう初めは、あの折りたたみ椅子の座り方が分からなかったなあ。


「ミズキ、ジュース買ってくるからここで待ってて」


そう言って、親父は廊下へ出て行った。親父が行ってしまった間は、席の番をしなければならない。


「そこ空いてますか?」


知らない人が尋ねてきた!


「あっ空いてません」


親父を待つ間は、席を守る事にドキドキしたものだった。


「ミズキ、買って来たよ!」


親父の声だ!僕はホッとした。見ると親父の手には、ポップコーンとオレンジジュース、そして親父の好きなビールが握られていた。


ブザーが鳴った。暗くなり、正面の舞台の幕が開いた。大きな大きなスクリーンに光が当たる。でも、すぐには映画は始まらなくて……まずはCMからだった。

映画館の面白いところは、あの音響だろう!低音が凄くて、体中に響いた。


ドオン!


と、鳴るたび、僕はいちいちビクッとした。

スクリーンを映し出す、強い光。後ろを振り返ると壁に小さな窓があり、そこから映写機のレンズが見えた。強い光の中には、細かな粒子が浮かんで見えた。


シーンの合間、合間で暗くなると、館内の脇の明かりに目が行った。それは非常灯の明かりだった。なんかそこだけが現実感でいっぱいだった。


僕は映画の間に、ポップコーンを食べ、オレンジジュースを飲んだ。しょっぱいのと、甘いので、美味しかった。親父は、旨そうにビールを飲んでいた。


そうそう当時の映画はとにかく長かった。ヤマトなんかはアニメなのに3時間ぐらいあったと思う。僕は硬い椅子で、段々とお尻が痛くなった。どうにかこうにか、ポジションを作ってる間に、映画は終わった。

映画が終わり、館内が明るくなった。沢山の人が出口に向かった。廊下を歩くと、前にまばゆい光が見えた。出口だった。


出口からでると、現実に戻った。喧騒が辺りを包む。クラクション、足音、宣伝の音。音響信号の声がよく響いていた。


そうそう、映画館の出口付近には、パンフレットの販売もしていたなあ。あと、映画館って、床が固いのも印象的だった。コンクリの上を歩いている感じだった。

こうして、僕の人生初の映画鑑賞の幕は下りたのだった。そして、この日の絵日記はもちろん……




「宇宙戦艦ヤマトを見て」


だったのだった。


おしまい

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