誰が茉都香を殺したのか?

わたしが息を飲み驚いていると勘違いした菜摘は、得意げに言葉を続けた。


「放課後、一人で過ごしていると首のない茉都香が何処からともなく現れるんだって。それで茉都香の首を隠したいじめっ子は、あの子に見つかると首をむしり取られるんだよ。一昨日もひとり死んでるんだってさ。」


いじめっ子か、いじめっ子じゃないか。

その判定基準は、茉都香の質問に答えられるか否かだという。彼女の友だちなら知っていて当たり前であり、彼女の問いに必ず答えられる筈というのがその理屈によるものらしい。質問は毎回毎回異なっていて、その内容は取り留めもないことだとか。そんなに何度も繰り返し詰問責めにあっていて、無事でいられる者がいるのだろうか?そんなに茉都香について知っている友だちがいたのなら、そもそも茉都香は行方不明になったりしなかったに違いない。


かといってわたしがもし、茉都香にその様な質問をぶつけられたなら、わたしはすんなり答えられる自信は無かった。

別の高校とはいえ彼女が理不尽な虐めに耐え忍んでいる間、一方のわたしは知らぬ振りを決め込んでいたのだから。中学までの幼馴染でありながら、進学校に進んだ彼女の生活を何一つ知らない。結局のところ、このわたしもまた彼女が自殺しようと思い詰めるまで、事態を放置した罪深き者のひとりなのは間違いなかった。



菜摘が調子に乗って喋り続けている噂話は、そこらでよく耳にする都市伝説を加工したタチの悪い作り話だった。

茉都香の亡霊の手によって、死んだとされるのは友だちの塾のクラスメイトとか、お姉ちゃんの同級生の彼氏の親友だとか、明らかに信憑性の薄い見ず知らずの他人ばかりで、茉都香を含め実際に亡くなった学生など存在しやしない。

この菜摘という子は、けして悪い子ではないのだが、こうした噂話の語り手として知られていた。彼女によって語られた伝聞が、次つぎと感染る様にして伝播し、さらに話は嘘で塗り固められて大きく広められていく様が目に見える様な気がして、眩暈がし始めた。

現実には存在しない架空の茉都香の亡霊が、架空の人物を憑り殺していく。そんな架空の怪談話を夢中になって嬉々として話している菜摘を目の前にして、わたしはとめどなく空虚な想いに襲われていた。

実に馬鹿馬鹿しい。わたしはその日の夜まではそう信じていた。




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