第74話

「貴女には……クリエイターとしてのプライドが無いの!? 何もかも全く同じなんて!」


 剛迫は声を荒げた。

 こいつにとってすまいるピエロのゲームは、皆と作り上げた夢の懸け橋そのものだ。それをこうもコピーされるなんて、創作活動そのものに対する侮辱にも等しい。

 それに対しSは、


「そんなものありませんが?」


 時計をちらと見て、淡々と返すだけ。


「私はそもそもクソゲーバトルなどしている気もありません。確実に勝つ為の手段でしかありませんからね。ああ、クリエイターって奴はどうしてそこまでプライドとかこだわりとか、余計なことを言い出すんでしょうね? 全く非効率的ですよ。言っておきますが私はクリエイターではありません。ただ貴女に敗北をもたらす為だけにここにいます」

「どうしてそこまで、剛迫を負かしたいんだよ! 剛迫がお前らに何をしたんだ!」


 こいつの行動は、しっちゃかめっちゃかだ。

 剛迫のクソゲーの特異性を探る――その為に行動しているはずなのに、こいつはわざわざクソゲーバトルを挑んで来た。その目的は、余りにも機械的で無機質な勝利だという。意味が分からない。

 まるで剛迫に怨みでもあるかのようじゃないか?


「10日と11時間23分」


 じろりと、Sはここで初めて感情を露わにした眼をした。

 懐から、大型のストップウォッチのようなものを取り出し、それを忌々しそうに睨みつける。


「ベス神が貴女のクソゲーバトルを視聴して、貴女のことを探るように命じた瞬間からの、SHITS全体が被った時間ロスです。あり得ません。全くあり得ませんよ。何ですかこの時間ロスは」


 Sはストップウォッチをぎりぎりと握りしめる。本体が軋む音すら聞こえてきそうだ。


「それまでべス神の教育・定義づけは、スムーズに行われていた。クソゲーとは何か? そんなもの、つまらない、苦痛を与えるゲーム。たったそれだけのシンプルなものなのに、貴女が複雑にした。貴女が余計な認識を与えた。貴女がSHITSに与えた打撃がどれほどかわかりますか? 羽食様を含めた全員を時間を奪い、今も奪い続けている」

「何を……何を言ってるのよ?」

「タイム・イズ・オール」


 Sはストップウォッチをしまい込む。


「貴女方のような能天気で愚かな学生は知らないでしょうが、時間は全てです。定命の人間にとり、一秒でも無駄には出来ません。一日だけでも致命的なのに、あと12時間38……ああ、37分で11日もSHITS全体の時間が奪われる。今後貴女をベス神の元に連れて行けば、更に学習の為にかかるでしょう。おぞましい。おぞましいことです。時計の針が右に回るのを見るたびに、貴女のことが憎くなる」


 冷静な狂気。平坦な不気味さに、豪胆な剛迫すら冷や汗を垂らしていた。

 異常なまでの「時間」への執着。逆恨みにも近い剛迫への憎悪。それを正しいとしか思っていない、ズレ切った安定感。

 太平寺とも四十八願とも石川さんとも違う、まさに「狂人」の圧が俺達をただたじろがせる。


「だから私は考えました。貴女が消えればいい。貴女さえ消えれば、もう時間は奪われることが無くなる。シンプルにことが運ぶ。このクソゲーバトルなどという下らない体裁は、剛迫 蝶扇。単純な処刑行為です。罪人を縛り付け、武装し、ギロチンへと運んでいくように、貴女には何もさせるつもりはありません。しかしそれだけでは、私は満足しません。貴女には、我々にしたことの重さ……時間を奪われるという苦痛と絶望を味わってから死んでもらいます」


 Sは杖を、怨霊たちに差して向ける。

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