第61話
夜とは言っても、まだ午後7時。ギリギリ大丈夫な時間だろうと思う。異国とはいえここは首都の繁華街のど真ん中。まだまだ人々は元気に歩き回り、店には灯りが灯っている。
夜風を浴びたいとは思ったが、ここはエジプト。生ぬるい風が肌を舐めていき、体を火照らせる。日本人とは違う彫りの深い顔達がいくつも迫りは抜けていく緊張感が、筋肉を引き締める。
あんまり落ち着くような状況ではなかったが、何をするでもなく、何かをしていたかった。異国の言葉ばかりで何も分からない世界の中でも、あのまま一人悶々としているよりはマシというものだ。
いざという時はあの鬼神を召喚出来るということもあり、知らない場所でも周りを見回せる余裕はある。言葉や細々したところは違うがやはり都会、というベースは日本と共通で、よく見れば安心感すら得られる共通点が見いだせる。
そしてよく見ると何人か日本人もいるらしく、その扁平な顔を見ると、まるでここは日本なんじゃないかと旅行情緒が良い意味で削がれるよう……
「ヘイヘイ、キミ、ニホンジン!」
「ん? ……うわ!?」
なんかいきなり話しかけられたと思ったら、後ろに強烈なビジュアルの女子がいた。
格好はエジプトの踊り子のように派手なのに、顔にはサングラスとマスクという極めて怪しいいで立ち。髪は真っ黒で顔立ちも日本人っぽいが、話し方はエセ外国人のようだ。隣にはその親と思われる、星見さんのような静かな闘気を放つ道着姿のお人がいて、手にはポータートランクを持ってる辺り、今到着した旅行客のようだ。
「な、に、日本人ですけど。何か?」
「オー、ニホンジン! イエ! イエ! イッチ……いや、ニホンジンダ! エンジョイシテル!? 体大丈夫!? ヘンナノニカラマレテナイ!?」
現在進行形で絡まれてると言いたいが、とりあえず
「だ、ダダダイジョブ! ダイジョブダヨ!」
俺までエセ外国人が伝搬してしまった。
「オー、ナニヨリナニヨリ。ジャ、オタッシャ!」
そして何故か安否を確認してきた謎の踊り子は、夜の街に消えていく。あの組み合わせは相当に目立つようで誰もが視線を向けており、それに話しかけられた俺も好奇の目で見られているようだ。
そんな視線が気持ち悪く、俺は急に何処かに入りたい衝動に駆られる。穴があったら入りたいってやつ。俺はあんましこういう視線に慣れていないのだ。視線を巡らせ、入りやすそうなところを探す。
そしてその中の一つに、
「ん」
俺の視線は吸い込まれた。
「ゲーセン」
ゲームセンター。
俺の足は自然に向く。
何を隠そう、俺の守備範囲はテレビゲームだけではない。アーケードゲームもしっかり網羅しているのだ。あの独特の空気! あの独特の筐体! そして何より、普段では味わえないレバーアンドボタン群! テレビゲームが自炊ならアーケードは外食! やらないはずがあるまい!
そんな俺の前に、異国のゲームセンターだと? 行かない理由がない。今の感情がどうであれ、この派手な装飾に店頭のUFOキャッチャーは俺を引き付けてやまない。まあ、俺はいわゆるプライズゲームには興味が無いのだが。アレ、店による調整とかに左右されすぎるし。
一歩足を踏み入れると、そこはホームだった。
「おお」
客層は、カイロ在住の若い人たちのようだ。日本人丸出しの俺はあからさまに浮いているがそんなことを気にする様子もなく、各々ゲームに熱中している。
周りから響く音響、光、息苦しいくらいの淀んだ空気。全てが「ゲームセンター」特有のものだ。置いている機種は今まで見たことがないものから俺も知ってるゲームまであり、うっかり両替機に足を運びそうになってしまう。
「……!」
「……! ! !!」
「! ! !」
アラビア語は分からない。でも、その語気が、ゲームに込めた感情を吐き出しているのを告げている。
これがゲームだ。
言語が分からなくても、世界を繋げる感動・熱狂。
妙な心地よさに身を浸す。人気の無い大型筐体の側面に寄りかかって改めて店内を見回すと、
「ん?」
俺も浮いているからだろうか。
同じく――いや。それ以上に浮いている子を発見した。
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