第60話 魔王「勇者さんの過去」

アタシが勇者になる前にいた村…。

そう子供の頃にいた村だ。

そこは冬は肌を刺すような厳しい寒さに襲われる貧しい寒村だった。

アタシはそこで勇者の資格である創造神の神託を授かって生れたんだ。

村はアタシが生れた事に狂喜乱舞した。

そりゃそうさ。

勇者が生まれた村には、創造神の恩恵で年中花吹雪く春の陽光に包まれる村になって食べるものに困らなくなり、国から莫大な補助金も出た。

その金はもしも勇者が現れた時なんかに使うため帝国、共和国、公国、法王国とか様々な国から援助で集まって出来た金だったから、それは莫大な補助金だった。

その金のおかげで村は金にも困らなくなった。

毎年口減らしをするくらい貧しかった寒村が一夜でそんな状況に変わったんだ。

そりゃおかしくなる位喜ぶさ。

まあアタシが物心つく頃には贅沢しほうだいだったから、貧しい頃の感覚なんて分からないけどね。

まあそんな富や裕福な暮らしをもたらしたアタシは、生まれた時からお姫様みたいな扱いを受けて暮らしていた。

この話はそんな幸せだった頃の話さ。




女勇の妹「やあ!」

女勇者「…!」

女勇者「は…!」ガッ!

女勇の妹「きゃ…!」ドサ。

女勇者「…! 大丈夫っ!?」

女勇の妹「う、うんありがとうお姉ちゃん…」

女勇者「ほ…」

女勇の妹「…心配してくれてありがと」

女勇者「妹何だから、当たり前でしょ」

女勇の妹「そっか…えへへ」

女勇者「そうよ」なでなで。

女勇の妹「…! ///」

女勇の妹「ふにゅ…///」

女勇者「ふふ…」

女勇の妹「あーあーでもやっぱり敵わないなーお姉ちゃんには」

女勇者「え?」

女勇の妹「木剣の勝負だよー!」

女勇の妹「アタシたち1個しか違わないし、ちょこーっとお姉ちゃんの方が背が高いだけなのに」

女勇の妹「もう大人と渡り合えるくらい強いんだもの…」

女勇の妹「勇者補正ってずるいっ!」

女勇の妹「同じお母さんから生まれたのに不公平だよー…」

女勇者「それは…まあ同じお母さんでも創造神様の御神託がないとだし…」

女勇の妹「そうだけど…」シュン。

女勇者「…」

女勇者「…!」ニヤリ。

女勇者「それに背だってちょこーっとってより、もう私の方がかなり高いからしょうがないじゃないかしら~?」

女勇の妹「…!」

女勇の妹「もうお姉ちゃんの意地悪っ!」ポカポカ。

女勇者「あはは、ごめんごめん!」

女勇の妹「ダメ! 許さないんだから!」ポカポカ。

女勇者「ごめんってば~~~」

女勇の妹「ダメーーーっ!」ポカポカ。

村長「…勇者様」

女勇の妹「…!」ビク。

女勇者「あ、村長さん! …ああ! ご免なさい、訓練の時間…過ぎてました?」

村長「…はい」

女勇者「ご、ごめんなさ~い」テヘペロ。

村長「…」

村長「…いえいえお気にせずに…」ニコリ。

女勇者「ありがとうございます」ニコ。

村長「ほほ…」

村長「ささ訓練所で王国騎士様がお待ちですぞ…」

女勇者「はーい」

女勇の妹「…」

村長「ああそれと…」

女勇の妹「…!」

村長「女勇の妹…また仕事を手伝って欲しいから私と一緒に来なさい」

女勇者「え? 女勇の妹って何か村長さんの仕事を手伝ってたんだ!」

女勇の妹「え…あ、う、うん」

女勇者「女勇の妹も凄いじゃない…! 村長さん直々に仕事を貰えるなんて!」

女勇者(…何か私と比べて最近落ち込んでるみたいなところあったから…これで少しは元気が出るといいな…)

村長さん「…勇者様」

女勇者「あ、はい今行きます! それじゃ村長さんのお仕事頑張ってね!」

女勇の妹「う、うんお姉ちゃんも…」

女勇者「うん!」タタタ。

女勇の妹「…」

村長「…行くぞ」

女勇の妹「…!」

女勇の妹「は、はい…」




女勇者(…あー遅くなっちゃった、王国騎士様に悪いことしちゃったな…)

女勇者(王国騎士様いつも本当に優しいから良いって言うかも知れないけど、ちゃんと謝ろう)

???「いつまで待たせるんだっ!」

女勇者「…? だ、誰の声だろう…」

王国騎士「私は王国で一番の剣術指南役で、私に稽古をつけてもらいたいと言う生徒は王国以外でも、帝国、共和国いくらでもいるんだぞ!」

村人「すみません、すみません!」ペコペコ。

王国騎士「何だったらもう私は稽古をつけるのを止めても良いんだぞ?」

村人「…! そ、それは困ります」

王国騎士「まあ当然困りますよなー? なんたって補助金が出るのは勇者の育成のためだけ」

王国騎士「私が稽古をつけるのを辞めるとなったら、補助金の給付継続に響きますよな?」

王国騎士「もしも補助金が絶たれたら…水増しして貰っていた補助金で実現していたあなた方の豊かな生活に響くのでは?」

王国騎士「いや響くどころか…もしかしたら…潰れてしまうかも…」

村人「そ、その通りですから…何卒指南役を辞めるのだけは…」

王国騎士「だったら…分かっているよな?」

村人「え? で、でもあれはあまりに…あんなに払ったら…私たちの生活が苦しくなってしまいます…」

王国騎士「なぁに…幸い創造神様の恩恵で食うには困らないんだろ…?」

村人「は、はあそれはそうですが…」

王国騎士「だったら良いじゃないか?」

村人「わ、私には決めかねます…一度話を持って帰ってみんなで相談してみます」

王国騎士「ちっ! そうやって逃げるために…村長が来なかったって事か…」

村人「わ、私には何の事か、さ、さっぱり…」

女勇者(…? 何を話してるんだろ…)

女勇者(難しくてよく分からない…でも私が遅れたから…王国騎士様怒ってるのかな…)

女勇者(あの村人さんには悪いことしちゃったかも…早く出て謝らなきゃ!)

女勇者「あ、あの王国騎士様…! お、遅れてごめんなさいっ!」ばっ。

王国騎士「!」

村人「!」

女勇者「あ、あの…本当に遅れてご免なさい…」

女勇者「私が時間を忘れちゃったのが悪いんです」

女勇者「だから村人さんは怒らないであげてください」

王国騎士「…」

王国騎士「怒るなんてとんでもない…村人とはちょっとだけ大人の話をしていただけだよ」

女勇者「大人のお話?」

王国騎士「そうだ大人の話だ、だから怒っていた訳じゃ無いんだよ。そうでございますよな? 村人殿」

村人「え? あ、は、はい…そうですね」

王国騎士「ほら村人殿もそう言ってるだろ? だからお前が原因で怒っていた訳じゃ無いんだ…」

王国騎士「だからお前のせいじゃ全然無いんだ、だから気にするな」

女勇者「私のせいじゃない?」

王国騎士「そうだ」

女勇者「村人さんはもう怒らない?」

王国騎士「怒らないさ」

女勇者「分かった!」パア。

王国騎士「そうか、いいこだな女勇者は…」なでなで。

女勇者「えへへ///」

王国騎士「じゃあ剣術訓練を始めるか!」

女勇者「はい!」




女勇の妹「…」ガタガタ。

村長「…ふう」

女勇の妹「…!」ビク。

村長「…前に言った事を忘れたか?」

女勇の妹「わわわ忘れてませんっ!」

女勇の妹「で、でもお姉ちゃんが一緒にやろうって言うから…」

女勇の妹「む無理です…! お姉ちゃんの機嫌を損ねないように…良い妹を演じるなんて…」

村長「無理じゃないんじゃっ!」

村長「お前はやるしか無いんだっ!」

女勇の妹「は、はい、や、やりますから…ど、どうか許してください…」ガタガタ。

村長「良いか…勇者様には一切不満を感じさせず付き合い、そしてスケジュール管理もしっかりするのじゃ…忘れるな」

女勇の妹「は、はい、やります! やりますから!」

村長「…」

村長「そうか良い子じゃのう女勇の妹は…」ニコ。

女勇の妹「ほ…」

村長「じゃから30発で許してやる」ニコニコ。

女勇の妹「え」

女勇の妹「や、やだ…も、もう叩かれるのやだ! お願いひます…ちゃんとやるからもう叩かないで!」

村長「だめじゃ…お前は自覚が足りん」ビシ!

女勇の妹「ひぃ!」

村人「村長!」

村長「む? どうした?」

村人「ダメだ…王国騎士のやつ遅れてきた事を理由にもっと吹っ掛けてきやがった…!」

村長「なんじゃとっ! …く」ギロ。

女勇の妹「ひっ」

村長「…」

村長「100発じゃな…」

女勇の妹「…!」

女勇の妹「やだあっ! ごめんなさい! 許して…! 許してっ!」ジタバタ

村長「押さえろ…顔や目立つところは殴るなよ…」

女勇の妹「ひぃーーーっ!!!」

………。

……。

…。

女勇の妹「う…」

村長「そろそろ訓練も終わる頃か、お前は少し休んでから女勇者のところへ戻れ」

女勇の妹「はい…」

村長「分かってると思うが…殴られた場所は女勇者に見せるなよ?」

村長「見せたら…お前は…」

女勇の妹「…! み、見せません、見せません!」

村長「…よろしい」

村長「じゃあ飲みにでも行くかお前ら」

村人「は、はいお付き合いします」

村長「今日はあの糞王国騎士を肴に飲みまくるぞっ!」

村人「ですね!」

女勇の妹「…」

女勇の妹「…」もぞもぞ。

女勇の妹「…いたっ」

女勇の妹「…」

女勇の妹「…ぐす」

女勇の妹(…何で同じお母さんから生まれたのに…私だけこんな目に…)

女勇の妹(何で…私は勇者じゃ…無いの)

女勇の妹「う…」

女勇の妹「うえええ…」




女勇者「王国騎士様…今日もありがとうございました! はあはあ」

王国騎士「うむ…今日も素晴らしかったぞ女勇者!」

王国騎士「まだ6才にも満たないのに…ここまで出来るとは…流石創造神の神託を受けた勇者だ!」

女勇者「いえ…! 私なんてまだまだです」

王国騎士「うむ…才能にあぐらをかかず上を目指す姿勢は立派だぞ女勇者! その調子で励むのだぞ」

女勇者「はい!」

村人「わー!」

村人「きゃーーー!!」

女勇者(…? 何だ…村の広場の方が騒がしいような…)

王国騎士「一体何だ…?」

???「よお」

女勇者「!」

王国騎士「な、何魔族!?」

王国騎士「な、何で魔族がこんなところにっ! 国境守備隊はどうしたのだ!」

???「ああ、あいつら? 一時間ほど前にちょっと捻ってやったら、すぐに消えてなくなったぞ?」

王国騎士「一時間だと!? たったそれだけで王国騎士団の一個師団が全滅したと言うのか!?」

???「あー戦ったのは5分位だったかな…だから一時間って言ってもほぼここに来るまでの徒歩の時間かな」

王国騎士「ふざけるなっ! そんな事ある訳無い!」

???「あるさ、俺様妖魔将軍の手にかかればなっ!」

王国騎士「よ、妖魔将軍…!?」

女勇者(…妖魔将軍?)

王国騎士「魔界七魔将軍の一人だと…な! 何でこんなところにそんな奴が…」

妖魔将軍「そりゃ、魔王軍は人間界を侵略する事にあいなりましてね」

妖魔将軍「そうなったら、まず魔族がやる事は邪魔になる勇者をぶっ殺す事だよな? 違うか?」

女勇者(私を…く、卑怯な魔族め!)

女勇者「お、王国騎士様戦いましょう! 今こそ訓練の成果を!」

妖魔将軍「はー? 何言ってんだこのガキ」

女勇者「ガキ…だと! く、王国騎士様!」

王国騎士「ちっ! 将軍クラスを一人で相手に出来るかっ!」タタタ!(逃走)

女勇者「え!? お、王国騎士様!?」

妖魔将軍「ははは! 正直者好きだぜぇっ!」

妖魔将軍「だが残念、一人も逃す気も無いんだな…」

妖魔将軍「妖魔殲滅断っっっ!!」

王国騎士「う、うわ…」

王国騎士「ぎゃーーーーーーっっっ!!」

女勇者「お、王国騎士様!」

女勇者「おのれーっ!」

妖魔将軍「けっ!」ドカ。

女勇者「ぎゃ!」

妖魔将軍「ガキのお遊戯で俺を倒せる訳無いだろが…」ムンズ

女勇者「…ぐ! は、離せ! 離せーーーっ!」

妖魔将軍「ひひ…こりゃ活きが良い」

妖魔将軍「こいつは楽しめそうだ…」

女勇者「な、何を…く」

妖魔将軍「くっくっく」

女勇者(こいつ…一体何をする気なんだ…)


続く

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