第6話接触3
「皆さんは、どうして地球の日本に、魔物と共にいらっしゃったのですか。」
安藤はまるで世間話、旅行話でもするようにさらりと本題を切り出した。
自己紹介の後、この国の為政者との会談の為、食事と休息をする場所を提供したいとの安藤(政府)からの申し出で、五人とともにトラックに乗り込んでいた。
トラックに乗り込んだ五人は、初めて乗る自動車に興奮している様だった。
馬がいないだの、魔力で走っているのか?など、テンプレな事を話したり聞いたりしている。
それを檜山が嬉しそうに解説している。
「それが、自分たちにも分からないのです。魔族の領地に乗り込み、魔王城までたどり着いて、魔物達に取り囲まれた瞬間。そのままの状態で先程の場所に移動していたのです。」
「そうなんですー。いきなりバーっと囲まれたと思ったら、さっきの場所にいたんですー。」
「クッ。あんなのは、魔王の卑劣な罠に決まっている。」
最後のキリアの言葉に、檜山は少し身を乗り出した。
徳山が檜山の襟を引っ張り元の位置に戻す。
「徳山さん今のヤバいですよ。」
「やばいのはお前の頭だ。大人しくしてろ。」
小声で叱責する徳山だった。
少なくとも、今回の騒ぎは本人達の意図するところではなかったようだった。
「では、魔王は先程の戦いの中にいたのですか。」
「いや、あの戦いにいたのは魔王の眷属だけでした。」
「魔王がいたら、私の全力魔法を叩き込んでやっていたわよ。」
さらっと恐ろしい事をミリスが口走る。
「でもー、魔王城で魔物に取り囲まれた時は、離れてはいましたけど、いましたよねー魔王さん。」
リリーの言葉にエミリアもうんうんと相槌を打つ。
「魔王の魔法で、皆様方が飛ばされたという事ですか。」
「そんな魔法はないわ。聞いた事もないもの。」
ミリスはきっぱりと言い切った。
「それでは質問を変えます。」
安藤は一度言葉を切った。
「魔物達と一緒に転移されたという事ですが、その範囲内に魔王はいましたか。」
「た、多分、いたと思う。私が一番目が良いから、ほ、他の仲間より見えてたと思う。」
エミリアは小さな声でボソボソと答えた。
ああ、話が進むほど嫌になってくる。徳山は時間が経つ度に増えていく方向内容に吐き気がしてきた。
一方、安藤は顔には出さないが、魔王も地球に来ているという可能性に、更に活気づいている様だった。
「魔王というのはどの様な存在なのでしょう。地獄の悪魔とかですか。」
「そういうものではありません。人族と魔族は元々同じだったと聞いています。数千年前に種族として分かれていったものだと。悪魔の魔族ではなく、魔力の強いものとしても魔族です。悪魔やアンデット等とは全くの別物です。人族の王を単に王と呼び、魔族の王を魔王と呼んでいるだけです。人族との見た目の違いも身体に紋様が有る位ですかね。服を着たら、魔力を判別できるものにしか、区別はつきません。」
安藤は少し落胆している様だった。
「では、戦いや殺戮を好んだり、その、人族に常に害をなしたりするわけではないのですか。」
「そういったこともありませんね。魔族の方から大規模な侵攻をしたというのは、伝承に残っている程度ですかね、何百年以上も前の話です。また、理性的で高い知能を持っていると言われています。」
徳山は首をひねる。どういう事だ、今の話だけなら魔族は穏健派の理知的な人型の生き物だ、何故人族と争わなければならないのだ。
「では、何故人族と魔族は争っているのですか。」
安藤が話を進める。
「単純です。領土争いですよ。魔族の領土は恵まれた土地が多いですから、貴方方はしないのですか、戦争。」
かなり悪い方の答えだった。それでは、人族による一方的な侵略戦争ではないか。徳山は緊張と怒りで呼吸が荒くなった。これでは、日本国民は異界の人族の侵略戦争に巻き込まれて亡くなったという事ではないか。
徳山の怒りが伝わったのか、安藤が徳山の背中を軽く叩く。
ハッとして、徳山が安藤の顔を見る。
安藤は完全にポーカーフェイスに戻っていた。徳山は直ぐに息を整えた。
「そうですか、大まかにですが今回の顛末が見えてきました。」
会談は直接会わずに、映像会議にした方がよさそうだ。安藤は頭の中で会談方法について検討し直した。
「そうでした、皆さんは何故、最初の位置から離れず待機されていたのですか。」
「あそこで待っておけば、誰か来るでしょ?ずっと覗いていた人もいたみたいだし、捕まえようとするならやっつけちゃえばいいし。帰る方法も分からないから、良くしてくれるなら甘えちゃえばいいかなって。」
ミリスはあっけらかんと答えた。
感覚が違い過ぎる。徳山は息を飲んだ。
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