Angle Meter

桜雪

第1話 ビルの屋上へフェードイン

 中学校2年生 ♂ 桜木さくらぎ 雪夜ゆきや 帰宅部所属。

 今日も、まっすぐ帰宅する。

 帰宅部のモットーは、『非行に走らず、まっすぐ帰る』だ。


 駅前のショッピングセンターに人だかりができている。

 皆、屋上を見上げ、指さしざわついている。


 僕も、屋上へ視線を移す…と、今にも飛び降りそうな女性がひとり。

(飛び降りか!)

 周りからは

「危ないから止めろ」

「早まるな」

 など、お決まりのセリフが飛び交う。


 下から見ている限り、誰かが説得しているような様子はない。

 女性は手すりに身を乗り出して跨ごうとしている。

 風で女性のスカートがバタタタとたなびく。

(ええい…ままよ!)

「変身!」

 小声で呟く。

 僕は、お面を被り、変身(変装)を済まし、人だかりを見回す。

(あれだ!)

 20代前半、やせ形、セミロング、ベージュのロングスカート。

「フェードイン!」

 大声で叫び、スカートの中に素早く潜り込む。

 視界の悪いお面の向こうに、お姉さんの白いふともも、その先にはお姉さんの水色のショーツが見える。

「えっ?えっ?なに?」

 お姉さんの声が聞こえる……。

 なんかスカート越しに僕の頭を抑えてくる。

(いいぞ…高まってきた)

 僕の性的興奮が加速していく!

 そのメーターの頂へ!

「コンプリート!」

 掛け声と同時にビシュッという音がスカートの中に響く。


「レボリューション!」

 掛け声とともに、屋上の女性のスカートから僕、登場。

 女性が、フリーズしている。

 無理もない、自分のスカートからお面を被った中学生が飛び出したのだ。

「非公認ヒーロー、アングルメーター参上!」

 立ち上がり、お決まりのポーズで名乗りを挙げる。

「自殺なんてよしたまえ!」

 片足上げて手すりを跨ごうとしたままフリーズした女性に手を差し伸べる。

「えっ?えっ?なに?」

 事態を飲み込めない女性が、僕に手を差し出す。

 僕は、グッと女性の手を握り、手すりのこっち側へ引っ張る。

 へなへなっと女性が崩れ落ちる。

 スカートの内側に紫のショーツが見える。


 屋上のドアがガチャッと開いて、警官がなだれ込む。

(長居は無用か……)

「命を大事に…さらば!フェードイン!」

 僕は女性のスカートに頭から滑り込む。

(後ろに警官…捕まれば、僕は…あぁ~目の前に紫のショーツ…香水の香り…高まる!)

「コンプリート!」

 掛け声と同時にビシュッという音がスカートの中に響く。


 視界の悪いお面の向こうに、お姉さんの白いふともも、その先にはお姉さんの水色のショーツが見える。

 すばやく、スカートから身体を抜きだし、足早にその場を立ち去る僕。


 数秒後、屋上と人だかりから、ほぼ同時に女性の悲鳴が聴こえた……。


「ミッション…コンプリート」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る