第3話 聴取開始
桜は深海の本棚から勝手に漫画を取り出してベットの上で読んでいた。深海が戻ると膨れっ面で文句を言った。
「ちょっと優一君、一体どこ行ってたのよ。あなたは私のものになったんだから、私のこと、もっと構いなさいよ!」
「僕は別に君のものになったわけじゃない。それより、なんでこんなことするんだ。どうして僕なんだ。クラスではほとんどしゃべったことないじゃないか」
桜は少し動揺したようだった。急に俯いて、何やらボソボソ言っている。
「……そんなの優一君が好きだからに決まってるじゃない」
いきなりそんなことを言われて深海も面食らってしまった。しかし、ここはとりあえず順を追って聞き出すしかない。
「なんで僕なんだ。クラスで得にモテてるわけでもないし、運動が得意でもなければ、特に顔が良いわけでもない。理由がわからないな」
最初の威勢の良さはすっかり消えて、さっきから桜はモジモジしたままだ。
桜は普段、クラスでは突飛な行動をとるので周囲から浮いていた。しかも誰かが話を振っても応えない。だから決して可愛くないわけではなかったが、あまり近寄る人間はいなかった。しかし、こうして好きな男の子の前で恥ずかしそうにしている彼女は、ごく普通の年頃の女の子そのものだ。こんなおかしなことに自分を巻き込んだりせず、普通に告白してくれればよかったのに、と深海は桜を見て思った。
だが、そうはならずに、今回も深海に対して常軌を逸した行動に出たことが、やはりみんなが桜に近付かない理由そのものだった。そして深海もやはり桜のそういう部分が理解できなかった。
「私は高校に入る少し前にこっちに引っ越してきたの。だから友達も知り合いも一人もいない中で高校生活が始まったのはすごく不安だったわ」
確かに深海は桜がほかの生徒と一緒に話しているところを見たことがなかった。
「私は人と話すのが苦手なの。すごく緊張しちゃう。だから高校に入ってから、困ったことがあっても、誰にも聞けなかったわ。クラスメイトと話すなんて私にはできないもの」
それは大変そうだな、と深海は思った。だが、深海はそこで一つの疑問が生まれた。何故なら深海はとても些細なことではあったが桜と何度か話したことがあったからだ。それは会話とも呼べないようなものだったが。次は教室の変更があるから、どこどこに行くんだよ、とか、消しゴムを忘れてきていたようだったから、これ使いなよ、とか。そんな程度だ。 深海自身はそういうやり取りがあったことさえ今の今まで忘れていたくらいだ。
「待ってよ。確か僕は君と何度か話したことがあったはずだ。どうでもいいようなことだったから内容はおぼえてないけど」
「あなただけだったの。私に声をかけてくれて、私が緊張せず話せたのは。どうしてあなたの前では緊張せずにすんだのか私にもわからないけど。だからあなたは私にとっては特別なの」
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