第20話 自動販売機に人は何を想うのか

仕事の合間のわずかな休憩。


ぼーっとジュース自動販売機を眺めていました。



つめた~い



あたたか~い



なんだろう?この語感はッ?!



声に出して読みたい日本語的語感。

ああ、声に出したい。

でも変人と思われる。

ひとり去りふたり去り、そこには私ともうひとり。

ろくに話したこともないのに、この誘惑に負けて話しかけてみる。

実はこれが言いたいだけ。


「なんなんですかねー?

この


つめた~い


あたたか~い


っていうのは」



よし。

例えこの人が私の問いに興味を示さなくても

声に出して読めたから満足。

と思いきやその人物は意外にも笑顔で食いついてきた。


「そうですよね。

つめたい、あたたかい、じゃなくて

つめたーい、あたたかーい、でもないですよね」


そうそう!私の言いたかったのはそこなのよ。

水を得た魚のように私は意気揚々と繰り返した。


「ですよね!


つめた~い


あたたか~い


ふじこちゃ~ん


みたいな感じですよね!」


あ、最後のは余計だったか。

でも山田康雄風味に言えてよかった。

いや、場の空気を読むんだ!

これでいい筈がない。


慌ててその人物を見ると、興味深そうに自販機を眺めてこう言った。


「きっと、コーラの社長はモンキーパンチ好きなんですよ」


人なつこい笑顔を見せて彼は去っていった。


私は砂漠にオアシスを見つけた気分になって

次に来た人にも同じように言ってみた。

その人は、タバコをくわえながらクールに言った。


「その「~」っていうのが馴れ馴れしいよね」



私の足元でカラカラに乾燥した葉っぱみたいなものが風に吹かれて飛んでいく。

なるほど。


人それぞれである。

さて、あなたは自動販売機に何を思うのでしょうか。

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