大淫婦クイーンハーロットの憂鬱

花果唯

第1話

 テルミヌス大陸の最西端に『不浄の森』と呼ばれている漆黒の森がある。

 黒く不気味な木々が生い茂り、足を踏み入れれば何処からともなく悲鳴が木霊する。

 そして何より恐ろしいのは、『魔王サタン』と肩を並べる程の災悪と謳われる邪悪『大淫婦クイーンハーロット』がこの森の主であるということだ。


 ただ、クイーンハーロットは脅威ではあるが不浄の森を出ることはない。

 手を出さない限り降りかかることのない災悪と認識されていたため、誰も不浄の森に近づくことはなかった。


――ギィイイアアアアアアア!!!


「うっはっは! 豊作じゃあ!」


 聞けば忽ち死に抱かれると言われている『マンドレイクの絶叫』を雑音程度に聞き流し、ざっくざっくと引っこ抜いては放り投げ、マンドレイクの山を築いていく。

 ノリはさながら芋ほりだが、その収穫風景はあまりにも異様である。

 収穫作物がマンドレイクであることももちろんだが、収穫している人物の格好もおかしい。

 黒のウェディングドレスにピンヒールである。


「ああ、良い仕事したわあ」


 妖気漂う漆黒の森に囲まれた畑の中、不釣合いな爽やかな汗をながしながら農作業に勤しむその人は……。

 人呼んで、泣く子も黙る『大淫婦クイーンハーロット』であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る