〇とある休日の出来事
第9話 ヤナギモール
―1—
3日後の土曜日。身支度を済ませ、お気に入りの青色のペンダントを首にかけると家を出た。
今日は和井場と約束をした日だ。
北柳町で1番大きなショッピングモール『ヤナギモール』。ファッション関連の店から書店、家電量販店、ゲームセンターにフードコート。とにかくなんでも揃っている。
普段は若者で賑わっているみたいだが、直接足を運ぶのは初めてだ。
そのため、昨日の夜にネットで少し下調べをした。店の配置やトイレの位置など、ある程度のことは頭に入っている。準備は完璧。
余裕を持って家を出たことだし、オレが一番乗りかもしれないな。
約束の10時より20分も前に着きそうだ。なんか凄い気合いが入っている奴みたいでちょっとあれだな。
誰かとこうやって待合せをしたりすることが久し振りなので少々浮かれていると『ヤナギモール』の入り口が見えてきた。
「おっ! おはよーさん、奈津!」
一番乗りかと思われたが入り口に和井場が立っていた。
この3日間で変わったことと言えば、この和井場がクラス委員に選ばれたことくらいだろう。
立候補制だったのだが、誰も手を挙げる生徒はおらず、投票制に切り替えられた。それで最も票を多く集めたのが和井場だった。
和井場の口から文句の1つでも出るものかと思ったが、全員が投票した結果ということもあり和井場も受け入れたようだった。
クラス委員に決まってからは、担任の瀧川先生に呼び出されることがしばしばあったり、クラス委員会議などがあったりと結構忙しそうだった。
今日もこうやって一番早く来ているところを見ると、和井場は見かけによらず真面目な男のようだ。
「おはよう。早かったんだな」
「言い出しっぺのわいが遅れたら話にならんやろ」
和井場が白い歯を見せて笑う。やはり真面目だ。
「ところで今日は誰が来るんだ?」
「そやな。えっと……」
「お待たせーーっ」
橘ともう1人の女子がこちらに走ってきた。
「ごめんね。待たせちゃったかなっ?」
今日は土曜日で休日。それゆえに全員私服だ。
橘は水色のワンピースで春らしい爽やかな印象だ。当然今日も可愛いが私服ということもあっていつもより可愛さが増して見える。
「全然待ってへんよ。わいも奈津も今来たところやから」
このイケメンはオレよりも前から来ていたはずなのにさらっと橘にそう説明した。もうオレが女子だったら和井場に惚れているところだったぞ。
「で、これで全員なの?」
橘の隣に立つギャルっぽい、少しチャラい風の女子が和井場に聞いた。
確か
票が入ったというだけあって顔も整っていて可愛いし、出るところは出ていてスタイルも良い。
服装は白シャツの上にデニムジャケットを羽織っていて、下が黒のミニスカートだ。
こんなに足を出していいものなのか? 刺激が強すぎるからあまり直視しないようにしよう。
「後1人来るはずや。昨日メールが来たんや。おっ、噂をすれば」
「おはよう。全員揃っているみたいね」
「白川、用事があるから来れないんじゃなかったのか?」
予想外の人物。白川がやって来た。
赤いシャツに白いスカート。なんというか白川らしい配色だな。似合っている。
「用事が無くなって時間が空いたから来たのよ」
「そうか」
学校の放課後も毎日のようにクラスメイトの誘いを断っていたからこの場に来ることが意外だった。
昨日メールが来たと和井場は言っていたが、どういう風の吹き回しだ?
「じゃあ、行こっかっ」
橘と玉城、和井場が『ヤナギモール』の中に入って行った。その後にオレと白川が続く。
和井場の話だと他にも武藤と小林を誘ったらしいが、武藤は野球部の練習があるから来れないと言っていたそうだ。橘も来ると知ったら相当悔しがっていたみたいだ。
練習と橘を天秤にかけたらギリギリのところで練習が勝ったらしい。ギリギリでというところが武藤らしい。
武藤の隣の席の小林は、武藤が行かないなら遠慮すると言って断ったらしい。まあ友達がいるのといないのとでは随分と気持ち的に違うからな。
オレも白川が来て驚きはしたが、いるのといないのとではだいぶ変わる。集団行動において気軽に話せる人が1人でもいた方が安心するものだ。
―2―
雑貨屋に入ったオレたちはぷらぷらと店内を見ていた。こういった店に入る機会が少ないので新鮮だ。
掛け時計や小物入れ、動物の置物に手帳など幅広く何でも揃っていた。
「なにこれ! ちょー可愛い!」
何か気になる物でも見つけたのか玉城が高い声を上げた。
その声の元に店内を散り散りになっていたオレたちが集まる。
「なんやそれ?」
玉城が手にしていたのは顔が潰れている犬のストラップだった。ブルドッグのような、そうじゃないような。
橘も玉城と一緒になってそのストラップを可愛いと言っていたが、オレにはその可愛さが理解できなかった。
白川も興味が無いのか手のひらサイズの熊の木彫りを見ている。それもそれでどうかと思うが、突っ込んだところで倍返しにされるだけなので何も言わないでおく。
「奈津はどう思う?」
「う、うん。まあ悪くないよなそういうのも」
和井場からのパスもそう答えることが限界だった。
「はぁ、これだから男子は」
玉城に深いため息をつかれ軽く睨まれた。
無理して褒めたつもりだったが、それが気に食わなかったらしい。
その後、別なストラップを全員1つずつ買うと雑貨屋を後にした。
お揃いの物を買うことで仲間意識を強める。中学の時も女子の間でお揃いのシャーペンを買っていた集団があったっけ。あの時は特に何も思わなかったけど案外こういうのもいいものだな。
女子3人は筆箱に付けると言っていた。オレも家に帰ったらカバンか何かに付けるとするか。
スマホを見て時刻を確認すると11時30分を過ぎたところだった。
何店舗か見て歩いていたから思っていたより時間が経っていた。
そろそろ早めにフードコートに行って席を確保していてもいい頃だろう。休日のショッピングモールなら混むこと間違いなしだ。
「和井場、昼も近いし飯にするか?」
今日の企画者、和井場に確認を取る。
すると、和井場が口を開くよりも前に玉城が口を開いた。
「私、まだ服みたいんだけど。和井場くん、私に似合う服選ぶの手伝ってよ」
和井場が玉城に腕を引っ張られる。
「よしっ、じゃあ私と三刀屋くんで先にフードコートに行って席を取ってるねっ。玉城さんたちは服を見に行ってきていいよ」
「いいんか、ソフィー?」
「うんっ。こっちは全然気にしなくていいから3人で行ってきなよっ」
ニコッと橘が笑う。なんていい子なんだ。
3人で、という言葉に白川の顔が一瞬強張ったが、ここはこの流れに従うようだ。
白川は和井場に対して苦手意識を持っていると話していた。それは今でも変わらないようだ。
橘は笑顔で3人に手を振り、その姿が見えなくなるとオレの顔を見上げた。
「やっと2人きりになれたねっ」
その声はいつもの元気な橘の声と同じようにも聞こえたがどこか違和感があった。
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