第53話 対向車

 対向車…というか、逆走車…。

 昨今、問題になっている高齢者ドライバーではない。

 僕と同じ歳くらいの中年男性。

 痴呆症ではない…。

 なぜなら、彼は自分が逆走していることに気づいているから…。

 間違ったというより…渋滞が我慢できずに、100mほど逆走するという選択をしたようだ…。

 無謀にも…。

 彼の誤算は、おそらく彼が逆走を決意して数秒後、僕と言う対向車が現れたこと。

 いや…僕は間違ってない。

 ちゃんと左折専用車線を左折するつもりで進行中なのだから…。


 彼は戻れず…僕も後続車がいてバックできない…。

 あなたならどうする?


 彼は…彼は…にこやかに手を挙げて…「譲って」とジェスチャーしたのだ!

 正面の僕はもちろん、周囲のドライバーもドン引きだ…。


 結局…信号とか無視して、彼を優先させるべく、みんなが車を少しずつずらして対応した。


 なんだろう…もちろん僕は最後になるのだが…どうにも腑に落ちない。

「なぜ…俺バック?」

 彼は申し訳なさそうというか…満足そうというか…たぶん、7:3で満足の笑みだ。


 これは一言、物申さねば!

 僕は車から降りて彼の運転席の脇に立った。

 ガラスをコンコンと叩くが…彼は右手を振るばかりで…開けようとも、降りようともしない…。

 よく見れば、彼の母親らしき年配の女性が不安そうに僕を見ている。


 俺が…悪いのか…。

 信号も変わり…他の車からクラクションが鳴り始める。

 後ろでは何が起こっているのか解らないのだ。


 にしても…だ。

「開けろ!」

 怒鳴るも彼は、うつむいたまま…。


 俺が悪いのか?

 車をボコボコに蹴りたかった…なんなら引きずり降ろしてボコボコに…。

 我慢した…。

 なぜなら…警察署の近くだから…歩いて3分のところに警察署があったから…。


 我慢した…。

 だが…収まらない!

 高齢者だけではない!

 そもそも、こういう奴に免許取らすんじゃねェよ!

 免許取るとき、性格診断あったぞ!

 ちょっとは活かせ!

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