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「先生、昨日から気になってたことなんですけど」


 花火は柴田の説明が終わったところで口を開いた。柴田は少し笑みを浮かべて質問を促した。


「ポイント制って何の意味があるんですか?」


「やっぱその話か……」


 柴田は困ったような表情を浮かべた。職員からしたら回答に困るだろう。それでも久炉も気になっていたことだ。



 ポイント制とは、生徒同士の魔法を用いた闘争や授業やテストの成績、委員会などの特別活動によって腕輪にポイントが付与され、その累計値が自身の成績となる制度のことだ。


 生徒同士で魔法を用いた争いがあれば腕輪はそれを感知して自動的にポイントを算出する。学校側は授業妨害になるといった例外の場合を除き、このような争いには無介入だ。トラブルが起きれば他の生徒を頼るしかない。


 相手を殺害しようと重傷を負わせようと警察に委ねることはないため、戦闘をする際は気兼ねなく行える。という戦闘を回避したい生徒にとっては迷惑極まりない規則まである。


 ポイントは学生寮付近に設置されているコンビニや美容院などの日常生活に関わる施設で通貨代わりに使用することができる。


 これにより、好成績な者ほど快適な日常生活を送ることが可能とされていた。累計ポイントが成績に反映されるため、ここでポイントを消費しても成績が下がることはない。



 いくら魔法を学ぶ学校だからとはいえ、おかしい。魔法のような危険性の高い物を生徒に扱わせるならば学校側で徹底的に管理するはずだ。

生徒同士でいつでも戦闘ができ、学校はほぼ無介入、むしろそれによってポイントを付与するなどむしろ――


「争いを促してるとしか、思えないんすけどね。ポイント制って」


 久炉は口調が少し刺々しくなるのを自制せずに呟いた。

 実際、それが原因で生徒に襲われている。制度を知り、魔法を習得して、一日も経っていない。そんな状態でもポイント制に積極的な生徒と出会ったことで先が思いやられた。



 この制度により、校内での戦闘は避けることができず、自分が戦うつもりがなくともいつ戦うことになるのかわからない。強さを求める生徒、暴れたい生徒、ポイントを獲得したい生徒。様々な思いが争いを生んでいく。

 生徒達は危険と隣り合わせの生活を強いられることになる。


「うーん、何のためって言われても、魔法に対する理解や意欲を上げるためとしか言いようがないかな。授業やテストでは測れない部分も見えてくるからね……」


 柴田はゆっくりと言葉を選ぶように口を動かした。彼女の口ぶりからして、他の理由もあるような気がする。入学式翌日から教員を問い詰めることになってしまったが、ここまで来たら聞くしかない。



「三年間」


 ため息交じりの柴田の言葉。久炉は言葉を飲みこんだ。


「三年間この学園の敷地から出られないって話は分かってると思うけど――それは魔法の技術は確立していない極秘の物だからなの。だから、この場所で高校生に魔法に対する理解を深めてもらって、将来に繋げたい」


 白磁学園は三年間行事以外では校外に出ることはできない。

 学校のパンフレットなどでは“三年の時間を費やす特別カリキュラムの普通高校”と記載されていたが、実際は魔法を校外に出さないためだったようだ。


 魔法教育の存在は入学式後に知らされた。これも魔法の存在を外に出さないための措置なのだろう。


「ポイント制もそう。魔法に関してのことは分からないことが多すぎる。だからいろいろな状況から理解を促したり、データを取ったりするためにこの制度が作られた。もちろん、魔法の適性によってはポイントが全くなくなることも考えられるから普通のテストの成績や特別活動も加味されるんだけど」

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