片思いのような両想い

僕は夏に恋をした。

普段内気な僕はクラスメイトに無理やり学園祭の実行委員にさせられてしまい正直憂鬱だった。

自分から意見を言うタイプでもないので他の実行委員からもいい印象を持たれていなかっただろう。

そのせいか面倒ごとばかりを任せられていた。

そんな僕のことを気にかけて手伝ってくれた一つ上の先輩。

僕はその先輩に一目ぼれした。

学園祭の最終日、告白しようと思ったのだが一歩踏み出せず結局告白できていない。

「またあの人のこと考えてるのか?」

僕の向かいの席に座っている親友、友李(ゆうり)が話しかけてくる。

「何でそう思ったの?」

「顔に書いてあるぞ」

そう言われ慌てて顔を隠す。今更隠したところで意味はないが…

「いい加減告白したらどうなんだ?」

「何回もそう思ったけどいざ口にしようと思うと緊張が」

友李はため息をつく。

「このヘタレ」

「うっさい、バカ」

そう言ってそっぽを向く。

「まぁ、きなが~に待っててやるよ。振られたって報告を」

「早くも振られることが確定してるみたいな言い方やめてくれない?」


結局その後もいつもと変わらない一日になるはずだった。

なるはずだったのだ。

「それでね、菜々がね…」

そう話すのは僕の好きな先輩である沙紀先輩である。

なぜこんなことになっているのだろうか。


―お昼休みにいつものようにジュースを買いに自動販売機に向かっていると向かい側から沙紀先輩と菜々先輩が歩いてきた。

僕は出来る限り平静を装いながら歩く。

すると向こうも僕に気が付いたのか手を振ってくる。

「今から購買に行くの?」

「パンじゃなくて飲み物が目的ですけどね」

沙紀先輩の質問に答えていると菜々先輩が悪い顔をする。

「ねぇ、沙紀。紘(ヒロ)君にも手伝って貰っちゃおうよ。その方が早く帰れるしさ」

「早く帰りたいのは菜々だけでしょ?それに先輩の仕事を後輩に押し付けるのはよくないと思うなぁ」

しかし僕はなぜか気になってしまい二人の話に入る。

「一体何の仕事なんですか?」

「図書室にある本のチェックなんだ」

そう言われ思い出す。

そう言えば沙紀先輩は図書委員だという話を聞いていた。

そして二人の仕事と言っていたのでもう一人の図書委員が今隣にいる菜々先輩なのだろう。

「今日は私たちが当番の日だからついでにやっておいてくれってさっき先生に言われちゃってね」

「そうそう、あの先生絶対あたしらのこと嫌ってるよ。じゃなきゃ頼まないって」

「別にそうじゃないと思うけどな」

その話を聞いて僕は正直どうしようか悩んだ。

手伝えば沙紀先輩と長く一緒に居ることが出来る。

でもそれからどうすればいいのか。

結局悩んだ結果僕は

「手伝いますよ、僕でよければ?」

そう返事をしていた。

「いいの?結構大変な作業だよ?」

「大丈夫ですよ、それにあの時のお返しもかねてなので」

「よし、一人確保!!ところで優希。ほかに手伝ってくれそうな友達とかいないの?」

「一人くらいなら手伝ってくれると思いますけど?」

「それじゃ、そいつも呼んでおいてよ。そしたらもっと楽だし」

「ごめんね、それじゃまた放課後にね」

そう言って二人は教室の方へと戻っていった。

「放課後に…」

僕は改めてすごいことを口走ったなと後悔した。

そして放課後、友李を連れて図書室に行き二人の先輩の仕事を手伝っていた。

流石に四人もいると仕事が早くすぐに終わってしまった。

「手伝ってくれたお礼に二人になにかごちそうしてあげる」

しかし「あ、私この後用事があるから先帰るわ」「同じくバイトがあるんでまた今度でいいっすよ」と菜々先輩と友李そそくさと帰ってしまったのである。


そうして結局二人でファーストフード店に来たのである。

「ねぇ?ヒロ君、聞いてる?どこか遠くを見てる気がするけど?」

そう言って顔を近づけてくる沙紀先輩。

「もしかして熱があったり?」

「だ、大丈夫です。風邪なんてひいてないですから」

「本当に?顔真っ赤だけど?」

それは先輩が近いからですとは言えず。


帰り道、二人っきりで歩いている。

もう夏も終わり10月にもなると夕方は冷える。

「もうすぐ10月も終わっちゃうね」

「そんなこと言ったらもうすぐ今年も終わっちゃいますよ?」

「それもそうだね、あはは」

なんて他愛もない会話をしながら歩く。

けれど僕の頭の中は真っ白だった。

(今日こそ、告白するんだ)

せっかくのチャンス、ここで告白しないでどうするんだと。

しかしそのきっかけをどう作るか。なんとか自然に告白しないと…

「ヒーロくん、早く帰らないと真っ暗になっちゃうよ?」

「あ、はい」

駆け足で沙紀先輩に近づく。

その途中で躓いてしまいこけそうになる。

「危ない!」

僕はこけないようにバランスを取ろうとするが勢いを殺しきれずそのまま前に倒れそうになる。

しかし次の瞬間柔らかくていい匂いのする何かに受け止められる。

「大丈夫?ケガとかしてない?」

沙紀先輩の声が真上から聞こえてくる。

慌てて沙紀先輩から離れようとするが慌てすぎてうまく離れられない。

「暴れないの、こっちまでバランス崩すでしょ」

「あ、ごめんなさい」

そう言っておとなしくすると沙紀先輩も優しく離してくれた。

正直もう少しだけこうしていたかった。

そう思いながらも目線を上げると先輩と目があう。

「―っ!あ、あの!!」

今しかないと思った。

このタイミングを逃したらもうチャンスはないと。

「ぼぼぼ、僕。先輩のことが…す、すすす好きです!!」

…言った、凄い噛み噛みだったけど言えたぞ!

あんなことがあった後だからなんか余計に恥ずかしくて顔から火が出そうだ。

1秒がとても長く感じる。

そんな中沙紀先輩の返事を待つ。

「あはは、やっと言ってくれた。ずっと待ってたんだよ?」

「え、それってどういうこと…」

「私もね、ヒロ君のことが好きです」

ずっと僕の片思いだと思っていたけど先輩も僕のことが好き?

信じられない、けどこれは現実で…

理解が追いつかない中沙紀先輩が手を握ってくる。

「それじゃ、ここからは手を繋いで歩こう?せっかく恋人になったんだから」

「え、まってくださいよ!またこけちゃいますって」

「その時はまた受け止めてあげる」

そう言って二人で歩きだす。

先ほどよりもより近い距離になった二人には先ほどまで感じていた寒さはもうなかった。

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