バレンタインデー
「もうすぐバレンタインデーだな」
目の前の友人が唐突にそういった。
「そうだな、バレンタインデーだな。で、それがどうした?」
「女の子たちからチョコが貰える最高の日じゃないか」
「別にバレンタインデーじゃなくても貰えるだろ…」
そういうといきなり胸ぐらをつかまれる。
「おいおい、そんな馬鹿なことがあるわけないだろ?てか俺に対する当てつけか?」
「苦しいから離せって」
なんてやり取りをしてると教室のドアが開く。
「ちょっと何してるんですか」
そういって俺と悪友の間に入ってきたのは一つ下の幼馴染、沙奈だった。
「祐也がちょっと憎かったんでついな」
「苦しそうだった!ねぇゆう?」
「ソウダネ、クルシカッタワー」
「ほら!!」
「いや、明らかに棒読みだったよね!?」
なんてやり取りをしていたが沙奈が何かを思い出したように持ってきた鞄を漁る。
そうして取り出したのはクッキーの入った小袋だ。
「これ、今回の試作。感想はまたあとで聞きに来るから」
そういうと沙奈は教室から出て行った。
手渡された袋を見て頭が痛くなる。
先ほどまで悪友とバレンタインデーがどうとか言ってたのだ。
そしてそこに沙奈の手作りクッキー…
ここから予想される出来事は……
「この、リア充がーーーー!!!!」
拳が飛んでくるということだろう。
「大丈夫?ゆう」
顔を腫らしたゆうを見て驚く。
「あいつも本気で殴ってるわけじゃないから大丈夫だよ」
そうは言っているものの結構いたそうだ。
何か冷やすものはないかと思いながら鞄を探していると急に手をつかまれる。
何事かと思っていると私の手を腫れた頬に持っていくゆう。
「冷たくて気持ちいい手だ」
「――――――っ!」
私の顔が熱くなっていくのがわかる。
不意打ちのせいで心の準備ができてなかった。
一人であわあわしているとゆうが満足したのか手を放す。
「そうだ、今回のクッキーもなかなかおいしかったぞ」
「あ、ありがと…」
そうしていつものように感想を言われる。
最近ではおいしいと言ってもらえるが最初のころは自分でもわかるくらいまずかった。
それでもゆうは食べてくれた。
それから私はゆうのためにおいしいお菓子を作りたいと思うようになりこうしてたまにお菓子を作ってゆうに食べてもらってる。
「もうすぐバレンタインデーだな」
ふとゆうが呟く。
「バレンタインデーか、ゆうは人気者だからね」
そう呟くと私の胸が痛む。
私以外の女の子からチョコをたくさんもらってるゆう。
それを想像するだけで胸が苦しかった。
帰宅し、バレンタインデーに向けて準備する。
「最近クッキーもうまく焼けるようになったしチョコのお菓子もきっと簡単に作れるはず」
そう意気込んで私は台所に向かった。
「それで、君はどれだけ貰ってるのかな?」
今日も悪友がやってきて開口一番にそういった。
「お前よりは多いんじゃない」
「やっかましい!」
なんてやり取りをしているがあいつが来ない。
いつもお菓子を持ってくるのだ。今日も持ってくるだろうと思っていたが。
ふと教室の出入り口を見るとこっちを見ている沙奈を見つけた。
しかし目が合うとすぐに逃げてしまう。
「仕方がない、帰りでもいいか」
そう決めて俺は読みかけの本に目を落とした。
帰り道、沙奈を無理やり捕まえて帰路に着いていた。
しかしいつもの明るさがない。
「どうしたんだ、いつもの元気はどこに行った」
「だって、バレンタインデーなのにチョコ準備できなくて」
そういうと沙奈は落ち込む。
いや、準備できなかったわけではないのだろう。
これは初めて挑戦したお菓子が失敗して出すのを渋ってた時にそっくりだった。
ため息をつき無言で手を出す。
「えっと、ゆう?何その手」
「なにって、ほらあるんだろ?出せって」
「…だから無いって―」
「あるのは知ってる。そしてどうせ失敗したんだろ?」
そういうと沙奈はびくっとなった。
それでも続ける。
「たとえ失敗でも俺は沙奈から貰いたいんだよ」
そういうと沙奈は泣きそうになった。
「たとえ失敗でも俺は沙奈から貰いたいんだよ」
その言葉を聞いて私は涙が出そうだった。
だって好きな人に言われたのだ、たとえゆうにその気がなくてもうれしい。
私は鞄から出すとゆうに手渡す。
「沙奈、ホワイトデー楽しみにしてろ」
そういってゆうは私の頭を少し乱暴気味に撫でてきた。
「どっちの意味で楽しみにすればいいのかな?」
「さぁ、どっちだろうな」
そういわれて、淡い期待をしてしまう私がいた。
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