新しい戦いへ

 セレモニーが終わり、いよいよ戦いへ発つ勇者ホリルの一行の中に、ミコシエの姿があった。

 

 と言っても、ここから暫くはオーラスの軍隊が付き従い、おそらくワント四州で待ち構える魔王の手下の軍勢とぶつかり合う。

 ミコシエはその数百に及ぶ一軍の隅っこにぽつんとその姿が見えるのみだ。

 

 傍らには幾分大きくなり大型犬ほどの大きさになった魔狼の仔エルゾッコもいる。

 ミコシエの近くの部隊の兵は、大丈夫なのか、人間を襲わないのか、問うたが、部隊長がミコシエはホリルの恩人でその犬も主であるミコシエ殿の命令を忠実に守る忠犬なのだ、と説明した。

 ミコシエは、いつの間にか今度はホリルの恩人として説明されているのかと、そしてエルゾッコはどこでも犬扱いされているのだ、と思った。

 

 ワント四州では、軍と軍とのぶつかり合いになるが、そこから後は、勇者の常で、少人数で魔王のいる城へ続く険しい山々を超える狭く暗い洞窟へと入ることになる。

 そこは軍隊の入れる場所ではない。

 そこからが勇者本来の旅になる。

 勇者の旅の本質……か、とミコシエも思いを馳せる。

 では自身の旅の本質とは。聖騎士である自身……その旅はたった一人で行われ、誰にも知られない類の旅だった筈。

 しかし今や、聖騎士であった自身……か。

 その自身が成すべき旅とは。

 

 どこまでホリル達と行くことになるかわからない。

 その暗がりの洞窟の中へまで、勇者の共として行くのか、それとも、行かないなら自身はどこからどこへ、逸れていく……今は少なくともただ目の前の戦いに身を投じよう、とミコシエは思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る